第八話 勇者である俺の責務
◆ライゼル◆
家に帰って荷物を置く。と、急にペンダントが光り、ポックルが飛び出してきた。
ベッドに降り立ち、大きく伸びをする。
「おいポックル。さっき俺のこと、無視しやがったな」
『当たり前じゃ。なんで余がモフらせなきゃならん。余は高貴なる大精霊ぞ。人間に媚びへつらい、餌を貰うだけの猫畜生と同列に扱うでない。……あと、カノンは余をぞんざいに扱うから嫌いじゃ』
とか言いつつ、枕をふみふみしたり、毛繕いしたりしてんじゃん。立派な猫じゃん。
……ま、いっか。こいつの気まぐれは、今に始まったことじゃないから。
「出掛けるぞ、ポックル」
『また見回りか? 飽きもせず、よくやるのぅ、小僧』
「平和の維持は、勇者である俺の責務だ。どれだけここが安全でも、怠っていい理由にはならないからな」
『へー』
……自分で聞いておいて、超無関心だな、お前。
まあいつものことだから、別にいいけど。
『余は貴様の趣味にはまったく興味ないが、せっかくだしついて行ってやろう。感謝せよ』
「へいへい」
ポックルは得意げに胸を張り、浮遊して俺の頭の上に乗った。
なんだかんだ、俺の言うことは聞いてくれるんだよな、こいつ。
『小僧、腹が減った。余に供物を献上せよ』
「……ネチャネチャ系でいいか?」
『あんな飯は好かん! カリカリ系がいい!』
お前、さっきの自分の言葉を顧みろ。もうただの猫だぞ。
買い置きしていたカリカリをポックルにやると、頭の上で美味そうに食い始めた。
あ、おい零すな。食いカスが髪につくだろ。
剣だけ腰に提げ、ポックルを伴い、家を出る。
俺の家はレディアの中腹にあり、上に行くのも下に行くのも楽な場所だ。町全体もよく見渡せるし、結構気に入っている。
階段や移動床は使わず、家の屋根を足場に跳ぶ。
俺たち、鍛えている騎士団員にとっては、こっちの方が移動には速いからな。
空中都市・レディアには、世界各地で保護された老若男女が数万人規模で住んでいる。
魔物に町を襲われた者。
地震や噴火の被災者。
人攫いの被害者。
そして……悪の組織に、故郷を滅ぼされた人たち。
ここには、いろんな理由で心に傷を負った人がいる。
言わば保護施設かつ療養所の役割も兼ねているのだ。
大抵は、保護した人間はここに永住する。
中には地上に戻って生活を立て直す人もいれば、騎士団への入団を希望する人もいる。
未来のことは、本人にしか決められない。
それをサポートするのも、俺たち『国境なき騎士団』の務めだ。
屋根と屋根の間を跳びながら、みんなの様子を見る。
この区域に住んでいる人たちは、みんな笑顔だ。もうだいぶ、立ち直ってきてるみたいだな。
「あ、ライゼルにーちゃん!」
「こんにちは!」
「にーちゃん、あそぼ!」
俺に気付いた子供たちが、笑顔で手を振ってくる。周りの大人たちも、目を輝かせて俺に挨拶をしてくれた。
「ごめんな。兄ちゃん、今仕事中なんだ。また今度遊ぼう」
誘いを丁重に断り、跳び回りながら困っている人がいないか見回る。
行くところ行くところ、みんな活気に満ち、笑顔で溢れていた。
「子供の笑顔は、世界の宝だな」
『余からしたら、老人も赤子も同じよ。違いがわからん』
そりゃ、お前自身が歳食ってるからだろう。もっと人間に心を開けばいいのに。
ある程度見て回ったところで、足を止める。
こっちの方は、みんなが助け合い、支え合って生活している。問題なさそうだ。
だけど……次の場所は、俺も少し覚悟を決める必要がある。
「ふぅ……」
深く息を吐き、軽く頬を叩く。よし、行こう。
そこから通りを三つほど越えたところで、また立ち止まった。
ここから先は、明るく、綺麗な町並みとは違う。
空気が重く、じっとりとした雰囲気の区画が広がっていた。
通りを見下ろすと、みんなの顔からは、生気が感じられない。
顔は暗く沈み、体のどこかに必ず包帯を巻いていた。
ここは、まだ心に傷を負って間もない人たちが住んでいる区画だ。
賑わいの喧噪も、料理を作っている煙も上がっていない。
窓の向こうに見えるベッドで寝ているか、ただ道端で座り込んでいるだけだった。
『またここか。お前も懲りないのぅ』
ポックルの言葉を無視して、下に降り立つ。
俺が来ても、誰も声を掛けてくれない。それどころか、虚空を見つめてこっちに視線すら向けなかった。
自分の心と向き合い、傷を治すには時間が掛かる。俺なんかに、構っていられる余裕もないんだろう。
わかるよ、その気持ち。
俺も……昔は、そうだったから。
続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




