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復讐に取り憑かれた偽りの勇者は、もふもふ大精霊様に癒される。  作者: 赤金武蔵
第一章 偽りの勇者は諦めない

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第八話 勇者である俺の責務

   ◆ライゼル◆



 家に帰って荷物を置く。と、急にペンダントが光り、ポックルが飛び出してきた。

 ベッドに降り立ち、大きく伸びをする。



「おいポックル。さっき俺のこと、無視しやがったな」

『当たり前じゃ。なんで余がモフらせなきゃならん。余は高貴なる大精霊ぞ。人間に媚びへつらい、餌を貰うだけの猫畜生と同列に扱うでない。……あと、カノンは余をぞんざいに扱うから嫌いじゃ』



 とか言いつつ、枕をふみふみしたり、毛繕いしたりしてんじゃん。立派な猫じゃん。

 ……ま、いっか。こいつの気まぐれは、今に始まったことじゃないから。



「出掛けるぞ、ポックル」

『また見回りか? 飽きもせず、よくやるのぅ、小僧』

「平和の維持は、勇者である俺の責務だ。どれだけここが安全でも、怠っていい理由にはならないからな」

『へー』



 ……自分で聞いておいて、超無関心だな、お前。

 まあいつものことだから、別にいいけど。



『余は貴様の趣味にはまったく興味ないが、せっかくだしついて行ってやろう。感謝せよ』

「へいへい」



 ポックルは得意げに胸を張り、浮遊して俺の頭の上に乗った。

 なんだかんだ、俺の言うことは聞いてくれるんだよな、こいつ。



『小僧、腹が減った。余に供物を献上せよ』

「……ネチャネチャ系でいいか?」

『あんな飯は好かん! カリカリ系がいい!』



 お前、さっきの自分の言葉を顧みろ。もうただの猫だぞ。


 買い置きしていたカリカリをポックルにやると、頭の上で美味そうに食い始めた。

 あ、おい零すな。食いカスが髪につくだろ。


 剣だけ腰に提げ、ポックルを伴い、家を出る。

 俺の家はレディアの中腹にあり、上に行くのも下に行くのも楽な場所だ。町全体もよく見渡せるし、結構気に入っている。


 階段や移動床(ウイングボード)は使わず、家の屋根を足場に跳ぶ。

 俺たち、鍛えている騎士団員にとっては、こっちの方が移動には速いからな。


 空中都市・レディアには、世界各地で保護された老若男女が数万人規模で住んでいる。


 魔物に町を襲われた者。

 地震や噴火の被災者。

 人攫いの被害者。

 そして……悪の組織に、故郷を滅ぼされた人たち。


 ここには、いろんな理由で心に傷を負った人がいる。

 言わば保護施設かつ療養所の役割も兼ねているのだ。


 大抵は、保護した人間はここに永住する。

 中には地上に戻って生活を立て直す人もいれば、騎士団への入団を希望する人もいる。


 未来のことは、本人にしか決められない。

 それをサポートするのも、俺たち『国境なき騎士団』の務めだ。


 屋根と屋根の間を跳びながら、みんなの様子を見る。

 この区域に住んでいる人たちは、みんな笑顔だ。もうだいぶ、立ち直ってきてるみたいだな。



「あ、ライゼルにーちゃん!」

「こんにちは!」

「にーちゃん、あそぼ!」



 俺に気付いた子供たちが、笑顔で手を振ってくる。周りの大人たちも、目を輝かせて俺に挨拶をしてくれた。



「ごめんな。兄ちゃん、今仕事中なんだ。また今度遊ぼう」



 誘いを丁重に断り、跳び回りながら困っている人がいないか見回る。

 行くところ行くところ、みんな活気に満ち、笑顔で溢れていた。



「子供の笑顔は、世界の宝だな」

『余からしたら、老人も赤子も同じよ。違いがわからん』



 そりゃ、お前自身が歳食ってるからだろう。もっと人間に心を開けばいいのに。


 ある程度見て回ったところで、足を止める。

 こっちの方は、みんなが助け合い、支え合って生活している。問題なさそうだ。


 だけど……次の場所は、俺も少し覚悟を決める必要がある。



「ふぅ……」



 深く息を吐き、軽く頬を叩く。よし、行こう。

 そこから通りを三つほど越えたところで、また立ち止まった。


 ここから先は、明るく、綺麗な町並みとは違う。

 空気が重く、じっとりとした雰囲気の区画が広がっていた。


 通りを見下ろすと、みんなの顔からは、生気が感じられない。

 顔は暗く沈み、体のどこかに必ず包帯を巻いていた。


 ここは、まだ心に傷を負って間もない人たちが住んでいる区画だ。

 賑わいの喧噪も、料理を作っている煙も上がっていない。

 窓の向こうに見えるベッドで寝ているか、ただ道端で座り込んでいるだけだった。



『またここか。お前も懲りないのぅ』



 ポックルの言葉を無視して、下に降り立つ。

 俺が来ても、誰も声を掛けてくれない。それどころか、虚空を見つめてこっちに視線すら向けなかった。


 自分の心と向き合い、傷を治すには時間が掛かる。俺なんかに、構っていられる余裕もないんだろう。

 わかるよ、その気持ち。

 俺も……昔は、そうだったから。

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