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復讐に取り憑かれた偽りの勇者は、もふもふ大精霊様に癒される。  作者: 赤金武蔵
第一章 偽りの勇者は諦めない

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第七話 もっと素直になったらいいのに

 ようやく起き上がったカノン。

 この人、上の下着は着けない派だから、どこを見ていいのか困る。


 だらしのなさに引いていると、急に視界が暗くなった。

 後ろから、リビアに目隠しされたみたい。



「団長、早く前を閉めてください。野獣が興奮します」



 誰が野獣だ、誰が。母親代わりの人に、今更興奮する訳ないだろ。



「ん~? 私としては、一向に構わんよ。むしろ君も、ライゼル君と一緒に野獣になってくれても良いのだがね。私は男も女も老いも若いも、全員大歓迎だ。何と言っても、博愛主義者だからね」

「ライゼルの情操教育に良くありません」

「やれやれ。しっかりお姉ちゃんしているね、リビア君は」



 と、急に視界が開かれた。

 前ボタンを雑に閉めたカノンが、テーブルに腰を掛けて脚を組んでいる。

 背景の絶景と合わせて、どっか神々しさを感じた。


 ……あの、見えないからって、ズボンを履かないのもどうかと思うんだけど。リビア、そこは指摘しなくていいのか。


 リビアの基準がよくわからずにいると、手をワキワキさせているカノンが、俺のペンダントを凝視してきた。



「ところでライゼル君。ポックル君は元気かな? ずっとここに閉じこもっているから、癒しが欲しくてね。久しぶりに、モフモフしたいのだが」



 余程疲れているんだろう。眼が血走っていて、怖いぞ。



「あ、ああ。おい、ポックル。起きてるか?」



 ペンダントを小突き、声を掛ける。


 ……駄目だ、やっぱり反応がない。

 寝てんのか、無視してんのか……後者だろうな。こいつ、カノンのこと苦手だから。



「今は出て来たくないみたいだな」

「くそぅ、せっかくの癒しボディを心行くまで堪能できると思ったのに……! あぁ、猫、吸いたい……」



 そういうことをするから、こいつも出て来たくないんじゃないの?

 ポックルの奴、基本的に人間のことは下に見てるからな。


 カノンはガックシと肩を落としたけど、直ぐに気を取り直して、軽く咳払いをした。



「さて、二人とも。改めて、任務ご苦労。報告を聞こうか」



 急に真面目になったカノンに面食らうが、まあいつものことだ。



「……じゃあ、まず俺から」



 俺の任務は、ルウセン共和国にいた外道暗殺一家、アグルス家の殲滅だ。


 アグルス家は金を積まれたら、誰であろうと容赦はしない。

 拷問の末に殺す、血も涙もない極悪非道の暗殺一家だ。


 相手が子供だろうと女だろうと、劇を鑑賞するかのように拷問しながら飯を食う、異常者集団だった。


 当主とその妻、息子四人、娘三人、隠居一人。仕えていた使用人十五人。全員首を刎ね、生存者はゼロ。

 名実ともに、この世からアグルス家の血筋は途絶えた 。

 最後まで黙って聞いていたカノンは、満足そうに頷いた。



「ご苦労、ライゼル君。これでまた一つ、世界から悪が消えた」



 テーブルの上に置いていたアグルス家に関する書類を、蝋燭の火で燃やす。

 一瞬で燃え尽き、跡形もなくなった。


 次にリビアから、山中に潜伏していた山賊の殲滅任務の報告だ。



「道中でライゼルと合流し、山賊を殲滅。爆弾を使い、アジトも崩壊させました」

「うんうん、ご苦労、リビア君。実にいい手際だ」



 騎士なのに爆弾を使ったことはいいのか。

 団長なら、その辺は叱らなきゃ駄目……いや、そもそもこの人が手段を選ばないタイプの人だったな。


 山賊に関する書類も燃やし、満足そうに笑うカノン。

 引き出しから二つの麻袋を取り出し、俺たちに投げ渡した。



「今回の報酬だ。好きに使うといい」

「ありがとうございます」

「……なあ、カノン。俺の方が袋デカくないか?」



 見ると、リビアの方がちょっと小ぶりだ。

 アグルス家殲滅も、山賊殲滅も、そこまで差は無いように思うが。



「ああ。どうせリビア君は一人で向かわず、ライゼル君を伴うと思ったからね。少々色を付けといたんだ」



 リビアの行動が読まれてる。さすが、よくわかってるなぁ。リビアも若干気まずそうに顔を逸らしたし。



「俺、こんなに貰っても使わないぞ」

「使う、使わないの問題ではない。これは君の頑張りに対する、正当な評価と報酬だ」



 テーブルから立ち上がると、こっちに近付き頭を撫でてきた。


 しっかりと鍛えている、ゴツゴツしたまめのある小さな手。

 だけど優しく、包み込むみたいだった。



「改めて、ご苦労だった。疲れただろう、数日は休みなさい。リビア君、君は少し書類の整理を頼む」

「わかりました」



 ……むず痒い。リビアと言い、カノンと言い、俺のことを子供扱いしすぎじゃないか? もう十五歳になるんだけど。



「……じゃ、お疲れ」



 小さく頭を下げ、二人に背を向ける。


 思いがけず、休みを貰ってしまった。

 このまま体を休めてもいいけど、せっかくレディアに戻ってきたんだし……少し、みんなの顔でも見て回ろうかな。



   ◆リビア◆


 私一人が残され、床に散らばっている資料を集める。


 つい数日前にも、掃除をした気がするけど……どうしてこの人は、部屋を綺麗に保つってことができないのかしら。整頓用の魔法も追いついていないし。


 資料をテーブルの上に置き、目の前にいるカノン団長へ目を向けた。



「それで、私に何を聞きたいんですか、団長」

「なんのことだい?」



 椅子に座り、テーブルへ脚を投げ出す団長。

 行儀が悪いですよ。



「私の耳の良さ、団長ならご存知ですよね。誤魔化しは効きませんよ。……ライゼルのことですか?」



 団長は黙り込むと、やれやれと肩を竦める。


 少しだけ心臓の音が乱れたけど、直ぐに治まった。

 その点はさすがね。普通の人は、動揺を隠すのにもう少し時間がかかるものだけど。



「やはり君には敵わないな。……彼、道中で何かあったかい? それとも、山賊殲滅中に例のスイッチが入ってしまったとか」

「後者です。山賊の頭領が、自分は『奈落の手』の幹部だと嘘をつき、ライゼルの理性が飛びました」

「……そういうことか」



 団長は小さくため息をつき、天井を見上げる。

 心配半分、呆れ半分、怒り少々といった音……やっぱりこの人、ライゼルが心配なのね。



「それにしても、よくわかりましたね。もう数週間前のことですよ」

「団員の変化には、目敏くありたいんだ。……特に、あの子に関しては」

「あぁ……そうですね」



 思い出されるのは、丁度十年前。

 私と団長が、『奈落の手』の人間を追っていた時。壊滅させられた村で唯一の生き残っていたのが……ライゼルだった。


 まだ五歳だった彼は、目の前で村人と家族を殺され、生まれ故郷を滅ぼされた。

『奈落の手』への憎悪は、まだ彼の中でくすぶっている。

 きっと、私たちの想像を絶する程に。



「そんなに心配なのでしたら、ご自分で労っては?」

「馬鹿を言うな。私はこの騎士団の団長。一人に構っていられる程、暇じゃないよ」

「なら団長としてではなく、母としては? たまには気兼ねなく、一緒に食事でも行けばいいと思いますよ」



 あ、今度は明らかに揺れている。

 こういうのに弱いですねぇ、団長は。


 だけど、団長は首を横に振り、天井を見上げて私から視線を外した。



「……いや、よしとこう。そういうのは、姉である君に任せる」

「いいんですか? 弱ってるライゼルなんて、そうそう見れないですよ」

「だが、私の前では弱っているところを隠すだろう。……優しいからね、あの子は。私を心配させないよう、気丈に振る舞うに決まってる」



 ……簡単に想像できますね、それは。強がりだから、あの子。



「今は私から声を掛けない。なに、男の子だ。放っておいても、勝手に育つものだ」

「子育ての経験は?」

「ある訳ないだろう」



 じゃあその自信はどこから……。

 小さく嘆息し、再び部屋の掃除に戻る。



(まったく……ライゼルも、カノン団長も、もっと素直になったらいいのに。不器用なんだから)

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