第六話 実に好い蹴りだった……♡
「何故も何も、リビアと仕事してきたんだよ」
「ま、また女神と一緒に任務……⁉ ズルいぞ、このへなちょこ勇者め!」
はぁ……またか。こいつ、リビアと一緒にいる俺を、いつも目の敵にしてきやがるんだ。正直、面倒くさい。
「ウルト、そんな怒るな。ほうれい線目立ってるぞ」
「きさ……! 僕の方が年上なんだぞッ。年配者には敬意を払え!」
「俺の方が騎士歴長いんだ。先輩は敬うもんだぞ、後輩くん」
「きいぃぃ!」
ウルトは顔を真っ赤にして、睨みつけてくる。
でもそれだけで、武器を取り出そうとはしなかった。
何があろうと、騎士団員同士の戦闘はご法度だ。
破ったら鬼の教官に半殺しにされかねない。それがわかっているから、ウルトも無闇に得物を抜かないんだ。
火花バチバチで睨み合う俺たちの間に、リビアが割って入る。
手を叩き、一触即発の空気を散らした。
「はいはい、二人ともストップ。ウルト、お仕事ご苦労様」
「はい、麗しの女神」
本当こいつ、リビアの言うことだけは聞くんだよな。尊敬なのか敬愛なのか……まあそのせいで、いつも一緒にいる俺に面倒な因縁を付けてくるんだけど。
ウルトは「ところで」とリビアの手を取り、キラキラスマイルを至近距離で向けた。やめろ、それ。腹立つ。
「報告の後、お食事でもいかがでしょうか?」
「お断り」
「ふっ……連れないあなたも素敵だ」
うわぁ……俺が言えたことじゃないけど、こいつ、めちゃくちゃポジティブだな。
……ん? こいつの持ってるの、任務書か。
今報告を終えたばかりなのに、もう他の任務に出るのか……仕事熱心だな。
リビアも気付いたのか、不思議そうにウルトを見た。
「あなた、もう次の依頼? 大変ね」
「いえっ、そのようなことは……! ただの情報収集ですよ。僕はどっかのへなちょこと違って、潜入に向いているので」
おい、へなちょこって誰のことだ。
ウルトはリビアに恭しく頭を下げ、最後に俺を睨みつけると、そのまま神殿を後にした。最後まで嫌な奴だなぁ。
もうウルトには興味ないのか、神殿の階段を登っていくリビア。俺も後に続く。
かなりの長さだが、この騎士団に所属している人間は、この程度の階段では音を上げない。鍛え方が違うのだ。
「ライゼル、疲れたわ。おんぶして」
「蹴落とすぞ」
結局リビアをおんぶして、休みなく登って数十分。ようやく最上階に辿り着いた。
「アリガトウ、勇者サマ」
「テメェ……感謝してるならもっと気持ちを込めろ」
「キャーステキー」
こいつ、いつか泣かす。
困ってる人を放っておけないっていう、俺の善意を利用しやがって。まあ、ある意味いい修行になったから、いいけどさ。
最上階には一つだけ、大きく古びた石の扉がある。
片方は風化していてわからないが、もう片方には剣と星が刻まれている。
何を意味しているのかわからない。空中都市レディアの謎の一つだ。
リビアが軽くノックをする。しばらく待つと、重々しい音を響かせながら、左右に扉が動いた。
扉の先には、天井高くまで積まれている書類と本の山。魔法でバランスを取っているのか、どうして倒れないんだって角度で傾いている。
山と山の間を、書類と本が飛び回っている。
自動整頓の魔法だけど、まったく追いついていないみたいだ。組織のトップの仕事も、大変だなぁ……。
正面にある壁一面の窓ガラスの先には、世界を見渡せるほどの大絶景が広がっている。
遥か向こうに、輪を描いて飛んでいる龍の姿も見えた。
そんな神話のような絶景と、今にも崩壊寸前の書類の中……俺たちが用のある人が、床に転がっていた。
死ん……ではないな。この人、しぶといし。過労で死ぬような人じゃない。タフネスだけで見ると、騎士団随一だもん。
俺とリビアが、床でぶっ倒れている女性に近付く。
シャツのボタンは全開。バキバキの腹筋は今日も割れている。加えてズボンも穿いていないから、下着が丸見え。目のやり場に困る。
リビアに睨まれ、顔を逸らす。はいはい、見ませんよ。
……それにしても、酷いクマだった。昔からだけど、もう何日も寝てないんだろう……それを抜きにしても、かなりの美人だが。
起こすのも忍びないけど……俺たちも報告しなきゃならない。仕事だからな。
リビアが女性に近付き、肩を揺すった。
「団長。……カノン団長」
「……フガッ……んぉ……?」
リビアに起こされ、もぞもぞと目を開けた。
切る暇がないのか、雑に伸びた金髪が陽光に照らされ、眩しく輝いている。
カノン・アルゼノウ。『国境なき騎士団』の設立メンバーで、二代目団長。俺を助けてくれた命の恩人にして、母親代わりの人だ。
……と言っても、見ての通りクソずぼらなので、生活のほとんどはリビアに頼っている。料理や家事も、リビアに教わったし。
まだ覚醒していないのか、完全に寝不足の目で、リビアを見上げている。現実と夢の区別がついていない感じだ。
こんなカノンもいつも通り。リビアは気にせず、彼女の肩を大きく揺する。
「カノン団長、起きてください。大丈夫ですか?」
ようやく目の焦点があったカノンが、リビアを見つめ……小さく口を開いた。
「……い……」
「はい?」
「……君のおっぱい吸わせてくれたら、元気出るかも……ほべっ!」
ワォ、無言のトーッキック。今のは痛い。……けど。
「ふふ……ふふふ……好い。実に好い蹴りだった……♡」
この人に、そういうのはご褒美なんだよなぁ。まあ、これのお陰で常人よりタフなのは間違いないが。
ドン引きしているリビアが、俺の背に隠れる。
気持ちはわからなくもないが、年下の背中に隠れる師匠っていうのも、いかがなものかと思う。
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