第五話 おぉ、麗しの女神
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『国境なき騎士団』
特定の国に属さず、誰にも縛られず、自由に活動することができ、世界の裏に潜む組織を根絶やしにするために存在する、超級特務機関。
任務であればどんな国にも入り込み、どこの組織でも必ず潰す。
相手が地位のある人間だろうと関係ない。【悪行滅殺】が、騎士団の行動理念だ。
村を滅ぼされた俺は、偶然近くにいた騎士団長とリビアに助けられ、保護された。だから無事に、今もこうして生きている。
母親代わりの団長には頭が上がらず、脚を向けて寝られない程の恩があるんだ。
まあ……リビアにも感謝してるけど、こいつ根が畜生だからな。
「おい。今私に対して失礼なこと考えたわね」
「考えてません」
リビアから目を逸らし、誤魔化す。……誤魔化せてないけど。
カノンのためなら、どんな危険な任務もこなす。死地に行けというなら、喜んで身を捧げよう。
性格に若干の難があるが、それを抜きにしても素晴らしい人だ。
……いや、若干じゃないな。だいぶ難があるか。
「ライゼル、今度は団長に対して失礼なこと考えてるわね」
「……俺の心音から思考を読むの、やめてくれません?」
「単純に、わかりやすいだけよ」
昔から思ってたけど、俺のプライバシーはどこにあるんだ。
リビアの特殊能力に改めてドン引きしつつ、国境と国境の間の山岳地帯を進んで行く。
山賊殲滅から、早二週間。俺たちは人一人が歩くのもやっとな程の、狭い崖の道を歩いていた。
ここが一番近くて、最短で総本部へ続く道だから仕方ないけど、もう少しまともな隠し場所はなかったのか。
途中足を止め、リビアが崖下を覗き込み、俺も一緒に下を見る。少し先に崖の真横から巨大な木が生えていた。
「お先にどうぞ」
「怖いなら、そう言え」
先に俺が飛び降り、足場の確認。
リビアに合図を送ると、少し怖がりながらも飛び降りてきたリビアを支えた。
「ふぅ……」
「正規のルートから行けばいいのに」
「そんなことしたら、二ヶ月くらい掛かるでしょう。嫌よ、面倒くさい」
確かに。正規ルートはいろいろな手続きや連絡が必要だから、かなり時間が掛かる。
手順も複雑だし、俺たちみたいな面倒くさがりはこういう『隠しルート』で行くのが普通だ。
けどこのルートはかなり危険で、リビアが一人で行けるとは思えない。
やれやれ、また利用されたか。
そっと嘆息し、樹木に刻まれている紋章へ触れる。
途端に周囲が緑色の光に覆われ、ガコンッと重い音が響くと、小さい扉が開き、木の内部へ続く階段が現れた。
リビアがランタンを手に、先に入る。俺も後から入り、扉をしっかりと締めてから階段を進んでいく。
だがそれもすぐ終わり、少し広い空間に出た。
ここから先に進める道はない。けど、ここで合っている。
並んで中央に立ち、リビアが地面にレイピアを突き立てた。
直後、レイピアから白い光が注がれ、床一面に幾何学模様が浮かび上がる。
一瞬だけ浮遊感を覚え、次の瞬間視界が暗転。
だが突然世界が明るくなり、強風が吹いてマントを強く弄んだ。
いつの間にか薄暗い樹木の中ではなく、広大な大空の下、噴水と水路が張り巡らされた広場に変わっていた。
噴水近くで遊ぶ子供たち。
ベンチに座り、井戸端会議に興じる老人。
俺たちと似たような鎧やマントを纏っている男女が、行き来している。
「お? やあライゼル、リビア。お帰り」
「ハァイ、ライゼル。リビアちゃん」
すれ違う人たちに挨拶され、手を挙げて返す。
ここが、『国境なき騎士団』の総本部――空中都市・レディアだ。
中央に向かい階段や坂道が多くなる。まるで巨大な山のように、円錐状の形をしていた。
見上げると、四角い板が空を飛んでいる。その上には、ここに住む住人や騎士が立って移動していた。
あれは移動床。パネルの上に乗るだけで、指定した階層へ飛んで行ける、便利なものだ。
あれがないと、この都市で生活はできない。余りにも急勾配で、生活するには大変なんだ。
リビアと一緒に近くのパネルに乗ると、縁が緑色に光り、町の中心にある巨大な塔に向かって飛翔した。
後ろを振り返り、空中都市全体を見渡す。
前後左右についている、巨大なプロペラが回っている。
都市の更に下には雲が見え、下界が一切見えない。
そう。空中都市の名の通り、この都市は地上から遥か上空を飛んでいる。
一応都市の下にもプロペラはあるが、飛んでいる原理は解明されていない。
文献によれば、およそ千年前には、既に存在は確認されていたらしい。
不思議な場所だが、俺たち『国境なき騎士団』は、悪党から恐れられ、常に狙われている。
だから人の目の届かない上空にあるここは、便利で安全な場所なんだ。
移動床が、中央塔の入り口前で止まった。
人工物と樹木が折り重なるように建っていて、俺たちは神殿と呼んでいるが、今は騎士団の指令本部として使っている。
これを見るだけで、歴史を感じる。
千年以上も前に、こんな荘厳なものを作ったなんて……当時の技術力は凄まじいな。
「ライゼル、どうかした? 行くわよ」
情緒も感慨深さもないリビアは、さっさと中へ入っていく。
長期の遠征を終えて、せっかく我帰ってきたんだ。もう少し浸らせてくれてもいいだろう。
彼女を追って、俺も神殿へ入る。
中は意外とシンプルな構造で、下から最上階まで貫く螺旋階段がある。
途中階はない上に、移動床すらない。
毎回、ここを上がっていくのは気が滅入るが、仕方ない。
隠す気もないため息を漏らすと、リビアがあっと声を漏らした。なんだ?
「ライゼル、そこ危ないわ」
「ん?」
リビアに腕を引かれて下がる。
直後、何かが最上階から落下し、俺のいた場所に深いクレーターを作った。
あっぶねぇ、死ぬところだったぞ。
立ち込めた土煙を、落ちてきた本人が払う。
男の俺から見ても、顔立ちが整っている男。圧倒的自信に満ちた表情。藍色を基調にした布に、黄色と赤色の刺繍が入ったペリースを纏っているのは……騎士団員の一人、ウルトだった。
「げっ」
思わず顔をしかめてしまった。
よりにもよってこいつかよ……苦手なんだよな。
俺のこと気にしていないのか、ウルトが真っ直ぐリビアの前に足を進めると、流れるように跪き、彼女の手を取った。
「おぉ、麗しの女神。ここで出会えたのは、なんたる偶然。なんたる運命でしょう。任務、お疲れ様でした」
顔を引きつらせ、愛想笑いを浮かべて手を引っ込めるリビア。
こいつ、見てくれはいいくせにめちゃくちゃ気障で、リビアにゾッコンなんだ。その上……。
「おいウルト。まずは俺に謝罪だろ。危なかったぞ、今」
「む? ……貴様、何故ここにいる」
リビアが好きすぎて、その他(俺)が全く眼中に入っていない。
毎回イラつくが、ここでキレ散らかしてもしょうがない。
……いや、やっぱりイラつくな。一発殴らせてほしい。できれば両頬を。
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