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復讐に取り憑かれた偽りの勇者は、もふもふ大精霊様に癒される。  作者: 赤金武蔵
第一章 偽りの勇者は諦めない

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第四話 『国境なき騎士団』総本部へ

 剣を振って血を払うと、今度は奥にある洞窟から、荒い怒号を上げた山賊たちの足音が聞こえてきた。

 うーむ、さすがに気付かれたか。



「ここからが本番だな。奴ら、お怒りだぞ」

「そうね」



 そうねって……ん?

 呆れ顔でリビアを見ると、またポーチから何かを取り出した。

 それも、一つや二つじゃない。五、十……もっとか?



「リビア、何それ?」

「爆弾」

「……は?」



 何を言っているのかわからず唖然。

 止める間もなく、導火線に着火したものから次々に洞窟の中へ投げ込んでいった。


 リビアに腕を引かれ、洞窟から遠ざかる。

 次の瞬間──爆発に次ぐ爆発と、轟音を掻き消す第二、第三の轟音が響いた。

 まさに地獄絵図だった。


 洞窟から噴き出す爆風の届かない、岩の後ろに隠れる。

 そっと顔だけ覗かせるが、まだまだ爆発していた。

 澄まし顔で「まだ掛かるわね」と空を見上げているリビアに、ジト目を向ける。



「お前……最低だな。煙玉とか闇討ちとか爆弾とか、騎士として恥ずかしくないのか」

「だって怖いもの。わざわざ敵陣のど真ん中に突っ込む必要はないわ」



 だとしても、やり方が卑怯すぎやしませんかね。

いくら仲間だとしても、ちょっと……いやだいぶドン引きですよ。


 何が悪いのかわからない、みたいなきょとんとした顔のリビアに引いていると、地響きと地鳴りが聞こえてきた。

 これ、もしかして洞窟が崩落してる音じゃ……?


 もう一度顔を出し、様子を見る。

 土煙で何も見えないけど……大惨事だってことはわかる。奴らだって、こんな死に方はしたくなかっただろうに。


 すると……急に、洞窟から何かが飛びだしてきた。

 同時に洞窟は瓦礫で埋もれ、爆煙と土埃が噴き出してくる。

 洞窟から出てきたのは、明らかに『山賊の頭領です』といった見た目の大男だった。


 髭が伸び、腰には剣を携えたそいつは、咳き込みながら立ち上がって俺たちを睨んできた。



「くそっ……ちくしょうがァ……! 何モンだ、テメェら! いきなり人ん家に爆弾を投げ込んで来やがって、何考えてんだ!? 頭ぶっ飛んでんのか!?」



 うん、いいぞ。お前はもっと言っていい。

 こいつらが悪党だということを忘れ、内心謝罪する。

 本当、騎士の風上にも置けない馬鹿で申し訳ない。


 大男は怒りで顔を真っ赤にし、腰の剣を手にする。

 かなりでかい剣なのに、片腕で軽々と操るなんて、中々の怪力だ。


 よし。タイマンなら、ここからは俺の出番だろう。

 リビアを背に、俺が一歩前に出る。

 剣を構え、山賊の頭領に向けて剣先を突きつけた。



「俺の名はライゼル。勇者ライゼルだ。勇者として、悪の存在は決して許さない」

「……は? 勇者?」



 頭領の眉間に青筋が走る。

 ぶるぶると肩を震わし、唾をまき散らしながら激昂した。



「ふざけやがって……ふざけやがって、ふざけやがって! 勇者なんてこの世にいる訳ねーだろーがよぉ! この俺を誰だと思ってやがる!」



 剣を大きく振り上げ、怒りのままに突っ込んできた。

 振り下ろしてきた剣に合わせ、俺も剣撃を繰り出す。

 衝突した瞬間に火花が散り、山賊の頭領はバランスを崩した。


 怒った相手の動きは、いつも直線的だ。そこらにいる獣と変わらない。

 剣の柄を強く握り、男と正対する。後は急所を狙って剣を振るえば終わり……。



「俺はァ! 『奈落の手』の幹部様だぞォ!」



 …………。



「あ?」



 急激に体が熱く沸騰し、思考が冷水を浴びせられたように冷たくなる。

 世界から色が消え、白黒の世界となった。


 視界に映る全てが遅く見える。大男の動きも緩慢だ。

 大振りの剣を見つめ、紙一重で回避。

 すれ違いざま、反射的に剣を振るい……奴の両手首を斬り落とした。



「……あ……? あっ……あああああああああああああッ!? お、おれっ、俺の手があああああああ!?」



 大男が何かを喚いている。

 けど俺の耳には、何も届かない。

 いや、届いてはいるが……脳が処理を拒んだ。


 脳裏を駆け巡る、炎に焼かれた村。

 殺された両親と妹。

 狂気の笑みで高笑いする男。

 腕に刻まれた『奈落の手』を象徴するタトゥー。


 怒りが、悲しみが、憎しみが、殺意が全身を蝕む。

 思考がどす黒いものに浸食され、全ての視界が真っ赤に染まり──



「ライゼル、ストップ」



 耳元で、リビアの声が聞こえた。



「──……あ、れ……? リビア……?」

「ええ。……大丈夫?」



 いつの間にか、隣で優しく微笑むリビアがいた。

 視界に色が戻り、頭のモヤが晴れ、彼女の綺麗な顔がよく見える。


 呆然と、足元に視線を向ける。

 さっきまで喚いていた大男は、全身を斬り刻まれた肉塊となって、絶命していた。


 俺も、全身返り血に塗れている。

 それにも拘わらず、リビアは俺の汚れた手を優しく包んでくれた。



「……もしかして、また?」

「またよ」



 ……やっちまった。


 大男の亡骸から距離を取り、近くの岩に腰を掛け、息を吐く。

 ようやく力が抜け、硬く握っていた手から剣が離れた。


 いつもそうだ……『奈落の手』の名前を聞くと、理性がぶっ飛んじまう。自分を制御できなくなるんだ。


 リビアは俺の手を包みながら、大男の腕を、レイピアで指し示した。



「こいつ、『奈落の手』の幹部じゃないわよ。声色に嘘が混じっていたし……それどころか、メンバーですらない。例のタトゥーが入っていないでしょ」



『奈落の手』のメンバーは、その証である四本の腕が絡み合っているタトゥーを入れている。

 男の腕には、それがなかった。


 耳が極限に研ぎ澄まされているリビアは、声色から嘘や相手の考えが読み取れる。

 彼女がそう言うなら、きっとそうなんだろう。


『奈落の手』は、世界中の国と文化の衰退を目的にしている、最悪の犯罪組織だ。


 人間を「世界の異物」として捉え、一定水準まで殺して文明を衰退させる。

 衰退した国を影で操り、世界を掌握しようとしている。


 俺の家族も、故郷も……奴らに殺された。

 絶対に許さない。……必ず、奴らを根絶やしにする。



「大方、巨大組織の名前を出せばこっちがビビると思っていたんでしょう。結果、逆効果だったけど」



 お気の毒、と締めて、大男の亡骸を見る。

 いつもそうだ。『奈落の手』の名前を聞くと、後先考えずやり過ぎちまう。


 自己嫌悪に陥っていると、リビアが隣に座った。

 俺の頭に手を乗せ、優しく、穏やかに撫でてくる。



「は、恥ずかしいから止めてくれ。血で汚れてるし」

「いいじゃない。誰も見ていないんだし、今くらいはお姉ちゃんに甘えなさい。それに、ライゼルはちっとも汚くないわよ」



 リビアは、決して微笑みを絶やさず、傍にいてくれた。まるで聖母だ。

 そういうことなら……しばらく、こうさせてもらおう。






 少しの休憩と、リビアの頭なでなでのおかげか、体力気力共にだいぶ回復した。


 もうちょっとだけこうしていたい気持ちもあるけど、勇者として甘え続ける訳にはいかない。

 あと、純粋に恥ずかしくなってきた。



「あ、ありがとう。もう大丈夫だ」

「もっと甘えていいのよ? 昔は一緒にお風呂にも入っていたのだし」

「何年前のことを引っ張り出すんだ……」



 最後に風呂に入ったのは5年も前だろうが。しかも俺がガキの頃だし。



「もしまだ辛いなら、精神浄化魔法もかけてあげましょうか?」

「……いや、大丈夫。これは、魔法に頼るもんでもないから」

「そう……?」



 少し心配そうにするリビアから離れ、軽く伸びをする。

 もうだいぶ時間が経っているのか、日が傾いていた。


 肉と血の臭いに釣られてか、周囲に魔物の姿もある。このままじゃ俺らも狙われるな。



「そろそろ移動しよう。リビアはどうする? 任務も終わったし、報告に戻るか?」

「そうね……なら、ライゼルも一緒に戻りましょう。あんたも、暗殺一家壊滅の報告がまだでしょう」



 そういやそうだった。人助けに夢中で、後回しにしてたんだった。



「仕方ない、一度戻るか。そろそろ、武器の手入れもしないといけないし」

「ええ、それじゃあ行きましょう。──『国境なき騎士団』総本部へ」

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