第三十一話 逃げるなァ!
◆ライゼル◆
「ッ、いた……!」
遠くに人影、間違いない……! カルミア、もう逃がさない!
剣の柄に手を掛ける。
が、ポックルがピクっと反応して俺の頬を肉球で叩いた。
『待て、小僧。違うぞ、あれは女ではない』
「え?」
そんな訳ないだろう。こんな場所、他に人がいるなんて……。
目を凝らして、そこにいる奴を見る。
薄暗い上に遠いから、誰だかわからないが……言われてみると、カルミアとは違う。ひょろ長いって印象の人影だった。
それに……その後ろにも、何かいるぞ。
近付くに連れて、全体がよく見えてくる。
巨大な体は芋虫みたいで、体長は十数メートルにも及ぶ。
そこから生える、九つの触手。その先端には、人間の頭のようなものが付いていた。
「な……なんだ、この怪物……!?」
こんな化け物が、この世に存在するのか……!?
怒りより恐怖が勝ってしまい、足を止める。
九つ首の化け物は俺に目もくれず、地面に横たわる何かを貪り食っていた。
『む? 小僧、女だ。食われとるぞ』
「は?」
ポックルの言葉に目を凝らす。
……確かに、カルミアだ。
まだ生きているらしく、助けを求めるかのようにこっちに向かって手を伸ばしている。
生きながらに食われる。
自業自得とは言え、どんな地獄だ、それは。
歯を食いしばり、剣を握る手が震える。
いくら悪人だろうと、死に際くらい人であるべきだろう。
これじゃあ人じゃない……餌だ。
傍でカルミアが食われている様子を見る人影。
あいつがあの化け物をけしかけたのか。
「テメェよくも……!」
「ん~~~~……? ……あぁ、あぁ。臭い臭い……じィつゥにィ、正義臭いでェ~すねェ~」
俺に気付いたガリガリにこけた男が、嫌悪感を隠さない醜悪な笑みを浮かべる。
ぶかぶかでよれよれのタンクトップから、骨のように細い腕が伸びている。
自身の鼻をつまみ、口の端が裂けているんじゃないかと錯覚するほど、口角が上がっていた。
気味が悪い男に、生理的嫌悪感を覚え……目を見開く。
あの腕に刻まれている……四本の腕が絡み合っているタトゥー。
『奈落の手』のものだった――。
記憶が、フラッシュバックする。
十年前、故郷の村が襲われた時。母さんの亡骸を踏みつけ、邪悪を煮詰めたように高笑いをしていたあいつと……顔が、一致した。
見……つ……け……た。
世界が急激に赤く染まる。
一瞬覚えた恐怖も、騙してきたカルミアへの怒りも忘れ……全ての感情が、あの男へ向いた。
あぁ、駄目だ。自分を抑えられない。殺そう。
男に接近しながら、剣を振りかぶった、その時。九つ首の化け物が、行く手を阻むように折り重なった。
「邪魔だッ!!」
剣を振り被り、首へ走らせる。
次の瞬間、口が赤く光り……熱線が放たれた。
「ッ!?」
ギリギリの所で回避し、距離を取る。
その間に、男は懐から紙のようなものを取り出すと……白い光が体を包み込んだ。
あの光……転移魔法か!
「貴様ッ、逃げるなァ!」
「ひょひょひょひょひょ。逃げますよォ~。さァ、よォ、うゥ、なァ、らァ……『国境なき騎士団』さん」
……え……?
思わず足を止める。今、なんて……?
直後、光りがより強く輝き……男の姿が、消えた。
「くっ……そがああああああ! 逃げるなああああああああ!!」
せっかく……家族の敵が、目の前にいたのに……!
絶対に許さないッ。絶対に逃がさないッ!
奴だけは、俺が殺す!
『小僧!』
「ッ!?」
ポックルの叫びに、反射的に横に跳ぶ。
直後、俺のいた場所へ灼熱の火球が落ちてきた。
距離を取って上を向く。
九つの人の首が、ジッと俺を見ていた。
よく見ると……全部、顔が違う。
男、女、老人、子供……いろんな頭が付いていて、どれも苦痛に満ちた表情を浮かべていた。
『いいいたああああいいいいいい』
『ママああああママあああああああああ』
『飯は食ったか食ったか食ったかのぅ』
それぞれが、空洞の目から紫色の血を流して俺を見てくる。
その内の一つの口が青白く光る。
次の瞬間。氷の槍が現れ、超高速で飛んできた。
寸前で回避し、奴の周りを走る。
その後も水、風、土と多種多様な魔法を繰り出してきた。
こいつら、頭の一つ一つが別の属性魔法を使えるのかッ。
凄まじい魔法の連撃を、辛うじて回避する。
けど、時間を掛けてられないぞ。こっちはアレルド、ギドーとの戦闘でダメージを負っている。 油断してると殺される……!
剣を構え、魔法を掻い潜って奴の横に出る。ここッ!
接近し、剣を振り下ろした、その時。化け物の横腹から、男の子の顔が浮かび上がった。
『だああずううげええでえええええ』
「ッ」
咄嗟に、刃を止める。
口が紫色に輝くと、急激な爆音と共に何かが俺の体を貫いた。
「~~~~ッッッ!?」
全身ッ、痺れ……! う、動け、な……!
明滅する視界の中、顔の横から生えた腕が俺の脚を掴み、思い切り投げ飛ばされた。
この痛みッ、感電……!? クルス教官との訓練で受けた覚えが……!
地面へ激突し、何度もバウンドする。でもそのおかげで、体の麻痺が少しずつ取れてきた。
「ゲホッ、ゲホッ……! 全属性魔法を使うとか、そんなのありかよ……!」
剣で体を支え、起き上がる。
くそっ……あれが化け物だとわかっていても、少し冷静になった今、人の顔があるだけで躊躇しちまう。
どうする……どうするっ。
続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




