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偶像勇者 〜復讐に取り憑かれた偽りの勇者は、もふもふ大精霊様に癒される。〜  作者: 赤金武蔵
第三章 偽りの勇者は英雄の道を進む

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第二十八話 やっぱり馬鹿だったか

 剣を担ぎ、アレルドに近付く。

 べっとりと付いた血が黄金の光を反射して妖しく輝いた。


 アレルドは腕を押さえ、痛みを我慢した顔で睨んできた。



「くっ……そ……! わ、私はぁ……こんな場所で、死ぬような低俗なゴミ虫とは違うんですよォ……!」

「ゴミ虫以下だろう、お前たちは。人の幸せに寄生し、食い物にする、害虫だ」

「黙れッ……!」



 ポケットから緑色の錠剤を取り出した。

 なんだ、あの禍々しい色の薬……嫌な予感がする。


 止めに入ろうと動いたが、その前に錠剤を口に含み……噛み砕いた。


 ――ドクンッ――


 リビア程の聴力がなくても……アレルドから、巨大な鼓動が聞こえた。

 思わず距離を取り、奴の様子見る。



「く、くくくく……サクリファクト……効果は30分ですが、理の外の力を手に入れられる薬物……こいつで、貴様をころ……ゴロ……おっ、おっ……!?」



 もう効果が出始めたのか、奴の体が膨張する。

 筋肉は膨れ上がり、切断された腕から血が止まった。


 スーツとシャツは破れ、全身に血管が走る。

 薬の影響か白目は赤く染まり、全身から赤い蒸気が迸った。


 これ、まずいっ。薬が全身に回る前に殺す……!


 地面を蹴り、駆け出す。


 いくら理の外の力を手に入れようと、生物は生物。首を斬れば死ぬ……!

 剣先を走らせ、アレルドの首に滑り込ませる。取った……!


 ヒュンッ――



「え……?」



 手にあるはずの、生物を斬った感触が無い。消えた……!?


 慌てて振り返るが、いない。

 ギドーが虫の息で倒れているだけだった。



「どこに……ッ!?」



 頭上から、明確な殺意が体を叩いた。

 直感で飛び退くと、俺のいた場所を剣撃が通り、地面を深く斬り裂く。


 とんでもない攻撃だ。常人じゃあ、こんなもの防ぎようがないぞ。



「チッ。もう少シデ、殺せタモのヲ」



 慌てて上を見上げると……怪物となったアレルドが、そこにいた。


 ギドーを上回る程の筋肉。

 赤黒い肌。

 浮き出た血管は緑色。

 天井に指をめり込ませ、コウモリのように逆さになって俺を見下ろしていた。


 この巨躯で、とんでもない速さ。

 逆さになっても問題ない程の把持力。


 なるほど、理の外の力っていうのも、ハッタリじゃなさそうだ。



「くくくッ。サア、行クぞ」



 天井を蹴る重い音が響き、迫ってきた。速い……!

 咄嗟に剣を振るい、迎撃する。

 当たると思った寸前、アレルドと一瞬だけ目が合った。


 不敵に笑うアレルド。目に映る焦った俺の顔が、よく見えた。


 次の瞬間、消えた。いや、避けたんだ。空中で身を捩って。

 気付けば、アレルドは巨体を屈め、俺よりも体勢を低くし、真下から剣を斬り上げていた。

 まずっ、避けられな……!



「うおっ!?」



 誰かに首を掴まれ、引っ張られた。

 その拍子にすっ転んでしまったが、おかげで攻撃をかわすことができた。


 慌てて立ち上がり周りを見るが、誰もいない。き、気のせいか……?



「くかカカッ、うゴッ。運の、ヒヒッ、イイ奴ダ」



 アレルドの様子がおかしい。

 無駄な動きをたくさんして、口元からよだれを垂らしている。薬の副作用か?


 警戒レベルを最大限まで上げ、アレルドの動きに注視する。

 奇妙な動きを繰り返していたが、その動きの最中に急に接近してきた。


 と思ったら、次の瞬間には停止。

 また動き出し、また止まる。


 それが徐々にスピードを上げて、上げて、上げて……な、なんだっ? 動きを捉えられなくなって……!?


 前にいるのに、後ろにいる。

 下にいるのに、上にいる。

 どういう訳か、姿を認識することができなくなった。


 目の前に現れた時に剣を振るう。

 だが空振りで、攻撃を当てることができない。



「どうシた、ドウしタ。イヒッ。オレハ、コッ、こっこっこここダぞ」

「がッ!?」



 あ……っつ……!? せ……背中ッ、斬られ……!


 急激な痛みに、思わず膝をつく。

 駄目だ、立てッ。背を向けるな……!


 痛みを耐えて立ち上がり、背を壁につける。

 これなら、背中から奇襲を受ける心配はない。



「いいゾ、ウバァ……もット怖がレ。私ヲ、きききき傷付けタ、ひギッ、罪を悔いナガら……に、逃げ惑エ」

「くそがっ……!」



 どうする。このままじゃジリ貧だ。

 手も足も出ずに殺されるのか、俺は……!


 目の前に迫る死の恐怖で、額から汗が垂れる。


 その時。避難していたポックルが、いつの間にか俺の肩に乗っていた。



『小僧。さすがに今の貴様じゃ、奴に勝てんぞ』



 ……言われなくてもわかってる。

 あいつのスピードとあの動き、俺じゃあ認識すらできなかった。


 この程度の敵に、自分の力だけで勝てないなんて……不甲斐ない。



『余の力を使え。死ぬぞ』



 ……ポックルの力を使うと、しばらく同じことができなくなるから、使いたくないんだけど……仕方ない、か。



「……ああ。ポックル、力をッ――ん?」



 急に、廊下の方から黒い何かが飛んできて、アレルドの足元に転がった。


 1つ、2つ……5つ?



「ほ、ア? これ、な、ニ?」



 薬の影響なのか、思考力が極端に落ちているらしい。

 無警戒に、転がってそれから逃げようとしない。むしろ、1つを手に取った。


 あ……まずい!?


 ギリギリ、ポックルを抱えて回避する。

 直後、空気を切り裂く轟音と衝撃波が連続5回程発生し、灼熱と黒煙が迫ってきた。


 少し巻き込まれたが、咄嗟に飛び退いたおかげで、怪我にもならず距離を取れた。


 血と硝煙の臭いが、甘ったるい匂いを掻き消す。

 凄まじい威力だ。あれ、地下で使っていいものじゃないぞ。



「やっぱり馬鹿だったか」

「それはこっちのセリフよ、愚弟」



 背後から、金属が擦れる音と一緒に誰かが入ってきた。

 白銀の甲冑に白銀のマントを纏い、白銀の髪が美しく靡く。


 凛々しくも頼もしく、毅然とした表情のリビアが立っていた。

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