第二十八話 やっぱり馬鹿だったか
剣を担ぎ、アレルドに近付く。
べっとりと付いた血が黄金の光を反射して妖しく輝いた。
アレルドは腕を押さえ、痛みを我慢した顔で睨んできた。
「くっ……そ……! わ、私はぁ……こんな場所で、死ぬような低俗なゴミ虫とは違うんですよォ……!」
「ゴミ虫以下だろう、お前たちは。人の幸せに寄生し、食い物にする、害虫だ」
「黙れッ……!」
ポケットから緑色の錠剤を取り出した。
なんだ、あの禍々しい色の薬……嫌な予感がする。
止めに入ろうと動いたが、その前に錠剤を口に含み……噛み砕いた。
――ドクンッ――
リビア程の聴力がなくても……アレルドから、巨大な鼓動が聞こえた。
思わず距離を取り、奴の様子見る。
「く、くくくく……サクリファクト……効果は30分ですが、理の外の力を手に入れられる薬物……こいつで、貴様をころ……ゴロ……おっ、おっ……!?」
もう効果が出始めたのか、奴の体が膨張する。
筋肉は膨れ上がり、切断された腕から血が止まった。
スーツとシャツは破れ、全身に血管が走る。
薬の影響か白目は赤く染まり、全身から赤い蒸気が迸った。
これ、まずいっ。薬が全身に回る前に殺す……!
地面を蹴り、駆け出す。
いくら理の外の力を手に入れようと、生物は生物。首を斬れば死ぬ……!
剣先を走らせ、アレルドの首に滑り込ませる。取った……!
ヒュンッ――
「え……?」
手にあるはずの、生物を斬った感触が無い。消えた……!?
慌てて振り返るが、いない。
ギドーが虫の息で倒れているだけだった。
「どこに……ッ!?」
頭上から、明確な殺意が体を叩いた。
直感で飛び退くと、俺のいた場所を剣撃が通り、地面を深く斬り裂く。
とんでもない攻撃だ。常人じゃあ、こんなもの防ぎようがないぞ。
「チッ。もう少シデ、殺せタモのヲ」
慌てて上を見上げると……怪物となったアレルドが、そこにいた。
ギドーを上回る程の筋肉。
赤黒い肌。
浮き出た血管は緑色。
天井に指をめり込ませ、コウモリのように逆さになって俺を見下ろしていた。
この巨躯で、とんでもない速さ。
逆さになっても問題ない程の把持力。
なるほど、理の外の力っていうのも、ハッタリじゃなさそうだ。
「くくくッ。サア、行クぞ」
天井を蹴る重い音が響き、迫ってきた。速い……!
咄嗟に剣を振るい、迎撃する。
当たると思った寸前、アレルドと一瞬だけ目が合った。
不敵に笑うアレルド。目に映る焦った俺の顔が、よく見えた。
次の瞬間、消えた。いや、避けたんだ。空中で身を捩って。
気付けば、アレルドは巨体を屈め、俺よりも体勢を低くし、真下から剣を斬り上げていた。
まずっ、避けられな……!
「うおっ!?」
誰かに首を掴まれ、引っ張られた。
その拍子にすっ転んでしまったが、おかげで攻撃をかわすことができた。
慌てて立ち上がり周りを見るが、誰もいない。き、気のせいか……?
「くかカカッ、うゴッ。運の、ヒヒッ、イイ奴ダ」
アレルドの様子がおかしい。
無駄な動きをたくさんして、口元からよだれを垂らしている。薬の副作用か?
警戒レベルを最大限まで上げ、アレルドの動きに注視する。
奇妙な動きを繰り返していたが、その動きの最中に急に接近してきた。
と思ったら、次の瞬間には停止。
また動き出し、また止まる。
それが徐々にスピードを上げて、上げて、上げて……な、なんだっ? 動きを捉えられなくなって……!?
前にいるのに、後ろにいる。
下にいるのに、上にいる。
どういう訳か、姿を認識することができなくなった。
目の前に現れた時に剣を振るう。
だが空振りで、攻撃を当てることができない。
「どうシた、ドウしタ。イヒッ。オレハ、コッ、こっこっこここダぞ」
「がッ!?」
あ……っつ……!? せ……背中ッ、斬られ……!
急激な痛みに、思わず膝をつく。
駄目だ、立てッ。背を向けるな……!
痛みを耐えて立ち上がり、背を壁につける。
これなら、背中から奇襲を受ける心配はない。
「いいゾ、ウバァ……もット怖がレ。私ヲ、きききき傷付けタ、ひギッ、罪を悔いナガら……に、逃げ惑エ」
「くそがっ……!」
どうする。このままじゃジリ貧だ。
手も足も出ずに殺されるのか、俺は……!
目の前に迫る死の恐怖で、額から汗が垂れる。
その時。避難していたポックルが、いつの間にか俺の肩に乗っていた。
『小僧。さすがに今の貴様じゃ、奴に勝てんぞ』
……言われなくてもわかってる。
あいつのスピードとあの動き、俺じゃあ認識すらできなかった。
この程度の敵に、自分の力だけで勝てないなんて……不甲斐ない。
『余の力を使え。死ぬぞ』
……ポックルの力を使うと、しばらく同じことができなくなるから、使いたくないんだけど……仕方ない、か。
「……ああ。ポックル、力をッ――ん?」
急に、廊下の方から黒い何かが飛んできて、アレルドの足元に転がった。
1つ、2つ……5つ?
「ほ、ア? これ、な、ニ?」
薬の影響なのか、思考力が極端に落ちているらしい。
無警戒に、転がってそれから逃げようとしない。むしろ、1つを手に取った。
あ……まずい!?
ギリギリ、ポックルを抱えて回避する。
直後、空気を切り裂く轟音と衝撃波が連続5回程発生し、灼熱と黒煙が迫ってきた。
少し巻き込まれたが、咄嗟に飛び退いたおかげで、怪我にもならず距離を取れた。
血と硝煙の臭いが、甘ったるい匂いを掻き消す。
凄まじい威力だ。あれ、地下で使っていいものじゃないぞ。
「やっぱり馬鹿だったか」
「それはこっちのセリフよ、愚弟」
背後から、金属が擦れる音と一緒に誰かが入ってきた。
白銀の甲冑に白銀のマントを纏い、白銀の髪が美しく靡く。
凛々しくも頼もしく、毅然とした表情のリビアが立っていた。
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