第二十六話 俺が殺す
ポックルに言われた通り、食堂から礼拝堂に戻る。
探してない場所と言ったら、確かにここだけ。
けど、こんな見晴らしのいい場所で、見逃すはずがないと思うんだが。
『わからぬか?』
「もったいぶってないで、早く教えてくれ」
『それが大精霊様に物を頼む態度か。やれやれ』
ポックルは浮かび上がり、迷いなく神像の方へ飛んで行った。
『ほれ。こやつじゃ』
「その神像……が、どうしたんだよ」
『よく見ろ。こやつの台座、位置が変わっておるじゃろう』
……あ。ほ、本当だ。少しズレてる。
ということは、これって動くようになってるのか。だからこの前来た時、なんか違和感があったんだな。
押してみるが、かなり重い。
どこかにスイッチがあるはずなんだが……見当たらないな。礼拝堂内に、上手く隠されてるみたいだ。
スイッチを探している時間はない。
こうしている間にも逃げられてしまうかも。
こういう時、クルス教官に教わった俺が、やるべきことは一つ。
神像の台座に手を置き、呼吸を繰り返す。
怒り、憎しみ、苦しみ、悲しみ……それら全部を力に変えて……一気に押し切るッ。
「おッ……ああああああああああッ!!」
足裏に力を込める。
筋肉が弾けそうなほど膨らみ、推し続け……。
――ず……ずずずずずず……!
巨大な神像が動き、底から生暖かい風が吹いた。地下へ続く階段だ。
「こんな抜け道が……」
『賊に襲われた際に逃げるための、隠し通路じゃ。早く行くぞ。ここから先は、余が匂いで追おう』
ポックルが先に潜る。
俺も後を追う前に、神像に剣で矢印を刻んだ。
リビアが戻ってきた時に、すぐわかるように。
薄暗い中、歩みを進める。
長年使われていなかったはずなのに、かび臭さが一切しない。きっと、頻繁に使われていたんだろう。
地の底へ続くんじゃないかと思うくらい、長い螺旋階段を下りる。
ようやく階段を下り切ると、その先は、一本道になっていた。
長い、長い通路だ。
光が一切届かないから真っ暗なはずだが、奥に光が見える。
あれのおかげで、真っ暗ではなかった。
と……急にポックルが立ち止まり、顔をしかめた。
『小僧。この先、あの甘い匂いが酷い。女の匂いも薄れてきたのじゃ』
「まさか、エルビス・ティアラが保存されている……?」
『……いや、この匂いは……』
目を細め、じっと警戒するポックル。
ここまで来たら、もう突き進むしかない。
ポックルを頭の上に乗せ、剣を抜く。
悪いが、もう慎重なんて言っていられない。
目の前に奴らがいて……落ち着いていられるほど、人間できちゃいないんだ。
恐怖や疑念を怒りで塗り替え、走り出した。
黄金の光が漏れている扉を剣で斬り、勢いのまま蹴り壊す。
とんでもない臭気と、まばゆい光。
一瞬目が眩んだが、それにも直ぐに慣れ……目を見開いた。
辺り一面、謎の透明な筒が置かれている。
筒の中には黄金の液体が入っていて、残留物なのか影が浮かんでいた。
それらを繋ぐ管。ボタン。レバー。山のように積まれている黄金の袋。
これは……間違いなく、エルビス・ティアラの製造所だ。
部屋の奥には、目を見開いているカルミアと、笑顔を崩さないアレルド。動きが緩慢なギドーがいた。
「ら、ライゼル様っ、どうしてここに……!?」
「おや、ライゼルさんではないですか。ご無沙汰しております」
カルミアが驚き、アレルドが優雅に頭を下げる。
が、俺も驚いた。カルミアが牙のメンバーだと思っていたから。けど……まさか。
今までの情報のピースが組み合わさる。
そうか……そうだったのか。
まさかの俺の登場に、カルミアは慌てて言い訳を始める。
「ち、違うのです、ライゼル様。私はただ、ネイを探しにきたんです。偶然会ったこの方たちにも、探すのを手伝ってもらおうかと……」
「黙れ」
もう、それ以上喋るな。虫唾が走る。
カルミアは俺の圧に、目を見開いて押し黙った。
「俺と一緒にいたリビア。あいつ、声から相手が嘘をついているか聞き分けられるんだ。で、リビアが言っていた。……お前は、嘘をついていると。お前は人身売買に加担し、そっちの二人に引き渡したんだ。……なぁ、そうだろう。『黒の牙』さんよ」
しばらく、互いに睨み合う。
すると、アレルドが急に肩を震わせて笑い出し、手を大きく叩いた。
「ライゼルさん、あなたの話していることは一切わかりませんよ。人身売買? 黒の牙? なんのことです?」
「じゃあ、ここにあるもの……これはなんだ」
「知りません。我々も偶然見つけたものですから」
そうか、なら……壊しても問題ないな。
筒に向かい走り出す。
直後、今までぼーっとしていたギドーが急に動き出し、拳を振るってきた。
「ゴアアアアアアッ!!」
「ッ!」
寸前で回避。拳は地面を殴り、巨大な亀裂を作った。
アレルドが苦虫を噛み潰したような顔で、ギドーを睨む。
「お前らに関係がないなら、壊してもいいだろう。けど、ギドーは身を挺して守った。薬か洗脳か……エルビス・ティアラの製造所を守れっていう命令を、遂行したみたいだな」
剣を三人に向ける。
特に、カルミアを強く睨みつけた。
元々の任務は牙のメンバーを捕らえることだったが……それ以上に、カルミアだけは許せない。
あれだけ可愛がっていたネイを売りやがって……!
アレルドは小さく嘆息すると、カルミアを守るように前に出た。
「カルミア様、もう誤魔化しは利かないようです。お逃げください。我々が時間を稼ぎます」
「……頼みました」
部屋の更に奥にある扉へ向かうカルミア。
待て……カルミア様だと?
なんでアレルドの奴が、カルミアを……もしかして、牙の上の人間……!?
「逃がすか……!」
地面を蹴り、カルミアへ向かう。
その時、間に割って入ったアレルドが、杖で俺の剣を受け止めた。
拮抗する剣と杖。俺の剣撃は、クルス教官仕込みだぞ。それをこんな杖で……!
「私だけに注意していていいんですか?」
「ッ!」
背後から殺意を感じ、横っ飛びで回避。
ギドーが頭上から、思い切り踏みつけてきた。
もう、カルミアの姿はない。
後を追うには、この二人を倒さないといけないが……一筋縄じゃいかなそうだ。
『小僧。奴ら、中々やるぞ。気をつけよ』
ああ、わかってる。
気を引き締め、もう一度剣を構える。
「アレルド。お前、『黒の牙』の人間だろう。……子供たちをどこへやった。ネイはどこだ」
「ん~……? んふふ。さあ、どこでしょうね。私たちを倒せたら、知れるかもしれませんが……うまく行くでしょうか」
杖からカチッという音が聞こえ、中から刀身が姿を現した。
なるほど、仕込み杖だったのか。だから俺の剣を受けられたんだな。
「アレルド、ギドー。大人しく掴まれ。そうすれば、まだ生かしておいてやる」
「それはできない相談です。我々も、怖い上司を持っていますからね。正義に降ると知られたら、殺されてしまいます」
そうか……なら。
「俺が殺す」
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