第二十四話 嘘をついている
◆◆◆
翌日。やっぱりというかなんというか、ローブを着た二人組が指名手配されているという張り紙が、あちこちに貼られていた。
爆弾を持ってアリュシオン邸の近くにいたんだ。そりゃあこうなるよな。
なるべく大通りの隅を歩き、リビアの耳で巡回中の警備兵を先に見つけ、距離を取って歩く。
あっちは二人組を探してるんだ。一緒に歩いてなきゃ、怪しまれないだろう。
それに……この人通りだ。
昨日もすごかったけど、今日は比にならない。
明日が建国祭当日だから、外から着々と人が集まってきてるんだな。
あっちもこっちも、人だらけだ。
けどリビアは人混みのせいか、顔を青くして耳を塞いでいた。
「うぅ……気持ち悪い……」
「リビア、大丈夫か?」
「ちょっと……音が多すぎて、酔ったみたい」
俺でさえうるさいと思うんだ。耳のいいリビアからしたら、最悪の環境だろうな。
「少し休もう。カルミアさんのいる教会なら、人も少ないだろうから」
「……やっぱり大丈夫。……うっ」
気丈に振る舞おうとして、余計顔が青くなった。なんで強がるんだよ。
リビアに肩を貸し、教会へ向かう。今日も裏路地に住んでいる人は、どこか陶酔した表情をしていた。
……待てよ。もしかして……。
「この人たち、例の薬を……?」
「……可能性はありそうね。症状的に」
人だかりの音が遠ざかって少し落ち着いたのか、リビアが周りを見て呟く。
そうか、この人たちは、エルビス・ティアラの被害者たちだったのか。
今の俺たちに、この人たちを助けることはできない。
なんとか根本を叩いて、潰すのが現実的だ。
心苦しいが……待っててくれ。
ネイに連れられた道を辿り、教会のある広場へ出た。やっぱりここは静かだな。
「へぇ、ここが教会……なんだか神殿みたいね。綺麗だわ」
「だろ。なんか落ち着くんだよな」
毎朝カルミアさんたちが掃除しているから、広場も綺麗に保たれている。
人の喧噪から離れたい時とかは、うってつけの場所だな。
リビアを連れて、教会の扉へ向かおうとした、その時。急に扉が開き、カルミアさんが血相を変えて飛び出してきた。
「カルミアさん? どうしました、そんな慌てて」
「あっ。ら、ライゼル様……! た、大変なんですっ。ネイが……ネイが、どこにもいなくて……!」
なんだって!?
「確かなんですか? 教会のどこかにいるとか、町に出ている可能性は……」
「今日は町に出ず、教会で明日の準備をする予定だったんです。なのに、朝起きたら寝室にいないし、どこを探しても見つからなくて……!」
相当狼狽しているのか、過呼吸気味に震え出した。
リビアもそれを察したのか、俺より早く彼女へ駆け寄り体を支えた。
「カルミアさん、でしたね。落ち着いてください。意識して呼吸を繰り返すんです」
「は、はい……」
教会前に座り、呼吸を何度か繰り返す。
少し落ち着いたのか、顔色が戻ってきた。
「あ、ありがとうございます……あなたは……?」
「リビアと言います。ライゼルの姉……のようなものです。カルミアさん、ネイちゃんの捜索は、私とライゼルに任せてください」
リビアが俺の方を振り向く。ああ、もちろんだ。
小さく頷くと、カルミアさんは涙目で何度も頭を下げた。
「ありがとう、ございます……ありがとうございます……!」
カルミアさんを立たせ、教会の中へ送る。
扉を完全に閉めたリビアは、俺の服の裾を掴んで急いで教会から離れた。
「お、おい、なんだよ。早くネイを探しにいかないと」
「嘘よ」
……え?
何を言っているのかわからず、リビアを見る。
教会を見る彼女の眼光は鋭い。
まるで、犯罪者を見つけたかのような力強さを感じた。
「あの女の声……私が今まで会ってきた邪悪な心の持ち主たちと、同じ音がするわ。それに、本心を吐き出す時特有の言葉の揺れが、余りにも一定すぎる。あれは間違いなく、嘘をついているわね」
「……つまり、どういうことだ?」
「ネイちゃんがいないのは本当よ。けど、いないんじゃない。あの感じは、多分……人身売買への加担、かしら。」
……え……?
信じられない言葉に、心臓が締め付けられる。そんな……馬鹿な……。
リビアは教会を睨みながら、淡々と続けた。
「それに、もっと重要な秘密も隠しているわね……残念だけど、そこまではわからない。ま、本人に聞けばわかることね」
「ま……待ってくれっ」
カルミアさんを悪だと断定しているリビアを止める。
彼女の肩を掴んで、目を覗き込んだ。
「あの人は、神に仕えるシスターだぞっ? そんな犯罪に加担してるなんて、あるはずないだろ……!」
迷子になったネイが帰ってきた時、涙を流していた。
アレルドとギドーに絡まれた時、身を挺して子供たちを守っていた。
俺の夢を聞いた時、本気の顔で応援してくれた。
それが全部、嘘だったなんて……。
「信じられねーよ……」
「……ねえ、ライゼル」
リビアが両手で、俺の頬を包む。真っ直ぐ、綺麗な瞳で俺の目を覗いてきた。
「私が今まで、あなたに嘘をついてきたことがあった?」
「そ……れは……」
確かにリビアは、ふざけることもある。
けど……悪を前にしたこの人の言葉は、芯がある。
言い訳のしようがないほど、ぶれないんだ。
「別にあの人が美人で、こんなに早くライゼルと仲良くなったからって、僻んでいる訳じゃないの。今までの経験に基づいた事実なのよ」
「…………」
動転しかけていた気持ちが、落ち着いてきた。
目を閉じ、彼女の言動を思い出す。
思えば……カルミアさんはいつも、その人が欲しい最適の言葉を言っていた。
誰の心にもするりと入り込み、警戒心を解く。それはもう、違和感がない程に。
なら……本当に……?
俺、もう何も信じられねーよ……。
続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




