第十九話 うるさいうるさい!
目を閉じ、呼吸に意識を向ける。
けど人間ってのは不思議なもんで、寝よう寝ようとすると、返って寝れなくなるんだ。
今の俺がそれ。体は疲れてるのに、頭がハッキリして眠れそうにない。
「……ライゼル、起きてる?」
「ぁ……ああ、起きてる」
急に話し掛けられてびっくりした。まだ起きてたのか。
「こうして一緒の部屋で寝るなんて、いつぶりかしらね」
「今の家を与えられたのが10歳だから……5年とか」
「もうそんなに経つのね。私も歳を取るはずだわ」
まだ22歳とかだろう。何を年寄りくさいこと言ってんだ。
「昔は、誰彼構わず噛みつく子犬だったのに、今や立派な騎士になって……本当、姉として鼻が高いわ」
「失礼な。狂犬と言ってくれ」
「そんなものじゃないでしょう。中身も下半身も」
「おまっ。最低だな……!?」
酔っぱらってるからって、言っていいことと悪いことがあるだろう!
それに、最後に見たのも五年前。今は立派……とは言い難いけど、それなりだぞ!
……自分で言ってて悲しくなってきた。
ジト目でリビアの方を見ると、くすくすと笑った。
「落ち着いた?」
え? ……あ、確かに。軽口叩いてたら、いつも通りになってる。
「……ありがとう」
「なんのことかしら。それじゃあ、おやすみ」
「ああ」
今度は、直ぐに眠れそうだ。
けど、からかわれてばかりは悔しい。……そうだ。
「おやすみ。……姉ちゃん」
…………。
「ライゼル⁉ ねえ今お姉ちゃんって呼んだ⁉ 呼んだわよね⁉ お願いもう一度言って! お姉ちゃんって! ねえ!」
「うるさいうるさい! さっさと寝ろ!」
結局、あの後興奮したリビアに絡まれ続け、寝不足のまま朝早くに教会へ向かった。
正直寝ていたい気持ちでいっぱいだが、カルミアさんとの約束に遅刻をする訳にはいかない。
さすがに朝早いから、大通りは人が少ない。
建国祭当日に向けて、一生懸命準備している人ばかりだ。
(お祭りか……故郷の村でも、年に何回かやってたな)
これだけ大規模ではないけど、豊穣祭とか収穫祭とか……懐かしいな。昔のことだけど、よく覚えてる。
懐かしくも寂しい気持ちになりながら、教会に到着。
既に起きているカルミアさんが、教会の外を掃除している。
少し薄暗い中なのに、彼女の姿はどこか煌びやかに輝いて見えた。
朝早いのに、まったく眠そうにしていない。
俺に気付くと、昨日と同じほんわか笑顔で出迎えてくれた。
「カルミアさん、おはようございます」
「ライゼル様。おはようございます。すみません。屋台の準備は、子供たちが朝食を食べてからでいいですか? まだみんな眠っているので」
「もちろんです。俺が早く着いただけですから。掃除、手伝いますよ」
剣を壁に立て掛けて袖を捲ると、カルミアさんから箒を受け取った。
「そんなっ。屋台の準備まで手伝ってくださるのに、掃除までお願いするわけには……!」
「気にしないでください。昨日も言ったけど、人助けが趣味なんです」
今から徳を積んで行けば、いずれ勇者になれる。誰も信じていないけど、俺はそう信じている。だからこれも、俺の為でもあるんだ。
入り口前の落ち葉を掃き集める。
唖然としていたカルミアさんが、急に膝をついて俺に祈り始めた。
「カルミアさん、膝汚れますよ」
「お願いします、祈らせてください。あなたのように心清らかな方は、今まで見たことがありません。おぉ、主よ。どうか、彼のこれからの未来に幸があらん事を」
う……は、恥ずかしいな、こういうの。俺、自分の為に善行をやってるだけだから、心清らかっていうのも違う気がする。
でも止めても、きっと止まらないんだろう。
頭を掻いて顔を背けていると、扉が開きネイが眠そうな顔で出てきた。
「んゅ……あ、らいぜるおにーちゃん。おあょ~」
「おはよう、ネイ。ごめんな、起こしちゃったか?」
「んーん。ネイがかってに起きただけだから……ぽっちゃん、どこ?」
目を擦り、ポックルの姿を探すネイ。しまったな。あいつ、まだ寝てるだろうし……。
『余はここぞ、ネイ』
「あ、ぽっちゃん」
「え?」
いつの間にか出ていたのか、ポックルが俺の脚元で毛繕いしている。
珍しいな、こいつがこんな朝早く起きてるなんて。
ネイはポックルを抱き上げ、愛おしそうに撫でる。
本当、気に入っちゃったんだなぁ。なんだかんだポックルも、満更でもなさそうだ。
二人を見てつい笑っていると、カルミアさんが不思議そうに近付いてきた。
「ライゼル様。今見間違いじゃなければ、あの猫様はペンダントから飛び出してきたような気がするのですが……」
「あ~……はい。あいつ、精霊なんです。ちょっと訳があって、俺と契約していて」
「まあ、精霊様……! 私、長いこと神に仕えて来ましたが、初めて見ました。きっと、日頃の行いが良いからでしょうね」
あはは……まあ、神職だからな、シスターは。日頃の行いに関しては、右に出る者はいないだろ。
ネイはポックルに任せ、俺とカルミアさんで掃除を終わらせる。
いつの間にか日も完全に昇り、教会から鐘の音が鳴った。
「あぁ、朝の祈りの時間ですね。すみません、ライゼル様。少々行って参ります。ネイ、行きましょう」
「はーい。ぽっちゃん、またね」
小さくお辞儀をして、ネイと共に教会の中へ入っていく。
返してもらったポックルと俺もついて行き、礼拝堂の後ろの方で見守った。
子供の数は15人程。シスターは5人。神像に向かい手を合わせ、祈りを捧げている。
俺の頭の上で丸くなっているポックルは、小馬鹿にしたように笑った。
『くくく。神に縋るとは、今も昔も、人間はなんとも愚かなものよ。奴は見ているだけで、何もしてくれんではないか』
「シッ。あの子たちにとっては、それが重要なんだよ」
小声で蔑むポックルを叱る。
確かにポックルの言う通り、神は俺たちが泣き叫ぼうと、絶望の中にいようと、助けてはくれない。
けどそれで祈るのを止めたら、あの子たちは何に縋って生きていけばいい。
人は、一人では生きていけない。家族、友達、隣人。いなければ神を支えに生きていく。
そうしなければ……こんな世界、とてもじゃないが生きられない。
きっと俺も、カノンとリビアに拾われてなければ、孤児として生きていたんだろうな。
あったかもしれない未来を想像し、祈るみんなを背に、神像を見上げる。
(……ん? なんだ……?)
あの神像、昨日も見たはずなのに、どこか違和感が……?
じっと見上げるけど……わからない。なんか気持ち悪い。もっと収まりが良かったというか……?
「ライゼル様?」
「っ。は、はい?」
いつの間にか祈りが終わったのか、目の前にカルミアさんがいた。ちょ、近いです。
思わず後退りすると、彼女は首を傾げた。くっ、男心をくすぐって来やがる。
「どうしました? ぼーっとしていましたが」
「あ、いや、神像が……」
「あぁ。とても神々しいですよね。毎朝、日の光を浴びて美しく輝くのです。見惚れてしまうのもわかります」
そ、そう……なのか? 俺の感じた違和感は、その程度のもの……?
違和感を探るために、もう一度神像を見つめる。
すると、ネイが俺の手を取り、元気な笑顔を向けてきた。
「ごはん! ライゼルおにーちゃんとぽっちゃんもいっしょ!」
「そ、それはさすがに……」
信者でもない俺が、いいんだろうか。それに、一応飯は食ってきたしなぁ。
困ってカルミアさんを見ると、にこやかに微笑み、頷いた。
「ライゼル様は、無償のお手伝いしてくださるのです。ですがそれでは、我々も心苦しい。どうか、私たちの心を救うと思って、一緒に食べてはくれませんか?」
「……ずるいですね、その言い方」
「ふふ。ライゼル様はお優しいですから」
ああ、そうだ。そんな風に言われたら、断るなんてできない。
諦めて頷き、二人と一緒に食堂へと向かった。
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