第十七話 はい、あーん
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「なんでっ、勝手にっ、約束っ、してるのよっ」
「ご、ごめんなさい……」
宿に戻ると、思い切りリビアに詰められた。べしべしと、レイピアの鞘で頭を叩かれる。
あの、痛いからそれ止めて……あ、はい。俺が悪かったです。文句言いません。
ベッドの縁で脚を組み、深くため息をつくリビア。
もうシャワーは浴びたのか、ほんのりと髪が濡れていた。
「まあ、ライゼルが人を助けるのは今に始まったことじゃないけどね。でも私たちの任務、忘れていないでしょうね」
「あ、当たり前だ。……この為に、今まで生きて来たんだからな」
『奈落の手』の壊滅は、俺の……俺たち騎士団の悲願だ。
その手掛かりになる下部組織が目の前にいるなら、ゴミを被ろうが泥水を啜ろうが、必ず探し出してやる。
リビアはしばらく俺を見ると、小さく頷いた。
「わかっているならいいわ。今回のことは不問にします。しっかりとお手伝いするように」
「ああ、もちろんだ」
ようやくレイピアを引いてくれた。俺の頭、大丈夫? たんこぶできてない?
頭を擦りながら、椅子に腰を掛ける。
と、リビアが軽く指を動かし、机の上に置いていたメモを浮かばせて俺の手元に飛ばしてきた。
「あんたが飛び出してから、私の方でも調べたわよ。例の人攫い事件について」
「それなら俺も少し聞いた。半年前から、人が消えてるって」
俺の情報に、リビアも「ええ」と同意した。
「攫われたのは、三歳から八歳までの子供が十数人。大人はもっと多いわ。平民から上流階級まで、幅広く攫われているみたいよ」
「子供が……?」
脳裏に、ネイの笑顔が浮かんだ。
良かった、あそこで俺が助けられて。もしかしたら、人攫いに捕まっていた可能性もあったのか。
「人攫いなだけあって、見境が無いな。子供も、三歳を攫うだなんて……」
「人身売買だからね。そういう趣味の大人に売るのかも」
余りにおぞましい言葉に、メモを強く握る。
なんて卑劣で薄汚い奴らだ。たかだか金の為に、そこまでするか。
心が怒りで染まる。思考が憎悪と復讐で染まりかけたが……リビアが、俺の手を握った。
顔を上げると、何も言わずにじっと俺を見つめている。
ッ……駄目だ。そうだ、落ち着け。カノンにも言われただろう、ちゃんと気持ちをコントロールしろって。
この任務に就いたのも、それが条件だったはずだ。もし破ったら、本部に帰されるかもしれない。
何度も深呼吸を繰り返す。
息を吐く度に黒い気持ちが沈み、荒立っていた感情の波が静まってきた。
「……ありがとう、大丈夫だ」
「そう? よかったわ」
やっと見つけた、奴らへ繋がる道なんだ。強制送還なんて。真っ平ごめんだ。
けどまだ心配なのか、リビアは俺の手を握りながら、話を続けた。
「それと、もう一つ。どうやら人攫い事件が起きてから、王都の貧困層に薬物が広まっているらしいわよ。こっちの方は、まだまだ調査が必要ね」
薬物……? そんなものまで出回っているなんて、『黒の牙』が関わってると見て間違いないな。
こんなに綺麗でいい町なのに、犯罪が横行してるなんて考えたくないが……やるからには、しらみつぶしだ。
――徹底的にやってやる。
部屋についている風呂場で汗を流し、ようやくさっぱりできた。
さすがに、着いて早々に動きすぎたな。疲れた。
待っていたリビアと一緒に、一階の食堂へ向かう。
さすがに観光客向けなだけあり、かなりの賑わいだった。もうほとんどの席が埋まってる。
カウンターの内側にいた女性が、申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ありません。ただいまカウンターしか空いていないのですが……」
「あ、大丈夫ですよ。ライゼルもいいわよね?」
聞いてきたリビアに頷き返す。腹減ってるんだ。どこでも構わない。
案内されたカウンター席に並んで座る。
適当に肉のプレートと水を頼み、リビアはトマト煮と野菜のプレート、ミルクを注文した。
「肉ばかり食べてないで、野菜も食べなさい」
「肉だけでも生きていける」
「ちゃんと食べさせるようにって、団長に釘を刺されているの。サラダを食べないと、報告しますからね」
ぐっ……ずるい。鬼、悪魔、人でなし。
「今何か言った?」
「言ッテマセン」
その特殊能力もずるい。もっとプライバシーを尊重してほしいんだけど。
ジト目でリビアを見ると、くすくす笑ってテーブルに肘をついた。
「な、なんだよ」
「いえ。からかいがいがある子だなーって。本当、昔からちっとも変わらない」
今度は頬を突いてきた。やめろ、人前で。恥ずかしい。
……別に酒とか飲んでないよな?
任務中は飲まないようにしてるし……そもそもリビアって、確か酒に弱かったはずだ。
リビアの突き攻撃を手で払う。「連れないわね」と肩を竦めると、丁度料理が運ばれてきた。
「お待たせしました~。仲が良さそうですけど……お二人はカップルですか?」
「え?」
まさかの勘違いに、思わず固まってしまった。
今までずっと一緒に行動してきたけど、そんな風に思われたのは初めてだった。
リビアもちょっと驚いていたけど、直ぐに笑って訂正した。
「ふふ、違います、姉弟ですよ。建国祭のために、外国から来たんですよ」
「まあっ。仲がいいんですねぇ」
お姉さんの質問に、リビアが笑顔で答える。その間に、肉にがっついた。
ハーブをふんだんに使った香り高い肉は、どういう調理法をしているのか解けるように柔らかい。
歯がいらない肉なんて、初めて食べたかも。
ごゆっくり~、と去っていくお姉さんを見送り、何故か嬉しそうなリビアに目を向ける。
「なんか機嫌いい?」
「そんなことないわよ」
あからさまに、いつもよりテンション高いけど。
リビアも自分に運ばれてきた料理を食べ、頬を手で覆う。
そんなに美味いのか、トマト煮。トマト嫌いだから食えないけど、ちょっと気になる。
「何? 食べたいの?」
「……ちょっと……」
「しょうがないわね。はい、あーん♪」
あ、あーん? やっぱりこいつ、ちょっとおかしいぞ。
ミルクの入ったカップに目を向け、奪って匂いを嗅ぐと……少し、酒の匂いがした。まさか……。
「あの、すみません。これお酒入ってません?」
「え? ……あっ⁉ す、すみませんっ、これ別の席のミルク割りです!」
やっぱり……てかリビアも、もう少し警戒しろよ。これが毒だったらどうしてたんだ。
やたらテンションの高いリビアに水を渡す。
こっちはちゃんとした水だ。毒も入っていないことは確認済み。
けど水じゃ嫌なのか、むすっとした顔をした。
「やだ。ミルクがいい」
「まずは水を飲め。ミルクはあと」
「むぅ……」
仕方なく、水を飲むリビア。こりゃあ、完全に酔っぱらってるな。
……ちょっと可愛いと思ったのは、内緒だ。
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