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復讐に取り憑かれた偽りの勇者は、もふもふ大精霊様に癒される。  作者: 赤金武蔵
第二章 偽りの勇者は助けたい

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第十七話 はい、あーん

   ◆◆◆



「なんでっ、勝手にっ、約束っ、してるのよっ」

「ご、ごめんなさい……」



 宿に戻ると、思い切りリビアに詰められた。べしべしと、レイピアの鞘で頭を叩かれる。

 あの、痛いからそれ止めて……あ、はい。俺が悪かったです。文句言いません。


 ベッドの縁で脚を組み、深くため息をつくリビア。

 もうシャワーは浴びたのか、ほんのりと髪が濡れていた。



「まあ、ライゼルが人を助けるのは今に始まったことじゃないけどね。でも私たちの任務、忘れていないでしょうね」

「あ、当たり前だ。……この為に、今まで生きて来たんだからな」



『奈落の手』の壊滅は、俺の……俺たち騎士団の悲願だ。

 その手掛かりになる下部組織が目の前にいるなら、ゴミを被ろうが泥水を啜ろうが、必ず探し出してやる。


 リビアはしばらく俺を見ると、小さく頷いた。



「わかっているならいいわ。今回のことは不問にします。しっかりとお手伝いするように」

「ああ、もちろんだ」



 ようやくレイピアを引いてくれた。俺の頭、大丈夫? たんこぶできてない?


 頭を擦りながら、椅子に腰を掛ける。

 と、リビアが軽く指を動かし、机の上に置いていたメモを浮かばせて俺の手元に飛ばしてきた。



「あんたが飛び出してから、私の方でも調べたわよ。例の人攫い事件について」

「それなら俺も少し聞いた。半年前から、人が消えてるって」



 俺の情報に、リビアも「ええ」と同意した。



「攫われたのは、三歳から八歳までの子供が十数人。大人はもっと多いわ。平民から上流階級まで、幅広く攫われているみたいよ」

「子供が……?」



 脳裏に、ネイの笑顔が浮かんだ。

 良かった、あそこで俺が助けられて。もしかしたら、人攫いに捕まっていた可能性もあったのか。



「人攫いなだけあって、見境が無いな。子供も、三歳を攫うだなんて……」

「人身売買だからね。そういう趣味の大人に売るのかも」



 余りにおぞましい言葉に、メモを強く握る。

 なんて卑劣で薄汚い奴らだ。たかだか金の為に、そこまでするか。


 心が怒りで染まる。思考が憎悪と復讐で染まりかけたが……リビアが、俺の手を握った。

 顔を上げると、何も言わずにじっと俺を見つめている。


 ッ……駄目だ。そうだ、落ち着け。カノンにも言われただろう、ちゃんと気持ちをコントロールしろって。

 この任務に就いたのも、それが条件だったはずだ。もし破ったら、本部に帰されるかもしれない。


 何度も深呼吸を繰り返す。

 息を吐く度に黒い気持ちが沈み、荒立っていた感情の波が静まってきた。



「……ありがとう、大丈夫だ」

「そう? よかったわ」



 やっと見つけた、奴らへ繋がる道なんだ。強制送還なんて。真っ平ごめんだ。

 けどまだ心配なのか、リビアは俺の手を握りながら、話を続けた。



「それと、もう一つ。どうやら人攫い事件が起きてから、王都の貧困層に薬物が広まっているらしいわよ。こっちの方は、まだまだ調査が必要ね」



 薬物……? そんなものまで出回っているなんて、『黒の牙』が関わってると見て間違いないな。

 こんなに綺麗でいい町なのに、犯罪が横行してるなんて考えたくないが……やるからには、しらみつぶしだ。


 ――徹底的にやってやる。






 部屋についている風呂場で汗を流し、ようやくさっぱりできた。

 さすがに、着いて早々に動きすぎたな。疲れた。


 待っていたリビアと一緒に、一階の食堂へ向かう。

 さすがに観光客向けなだけあり、かなりの賑わいだった。もうほとんどの席が埋まってる。


 カウンターの内側にいた女性が、申し訳なさそうに頭を下げた。



「申し訳ありません。ただいまカウンターしか空いていないのですが……」

「あ、大丈夫ですよ。ライゼルもいいわよね?」



 聞いてきたリビアに頷き返す。腹減ってるんだ。どこでも構わない。


 案内されたカウンター席に並んで座る。

 適当に肉のプレートと水を頼み、リビアはトマト煮と野菜のプレート、ミルクを注文した。



「肉ばかり食べてないで、野菜も食べなさい」

「肉だけでも生きていける」

「ちゃんと食べさせるようにって、団長に釘を刺されているの。サラダを食べないと、報告しますからね」



 ぐっ……ずるい。鬼、悪魔、人でなし。



「今何か言った?」

「言ッテマセン」



 その特殊能力もずるい。もっとプライバシーを尊重してほしいんだけど。

 ジト目でリビアを見ると、くすくす笑ってテーブルに肘をついた。



「な、なんだよ」

「いえ。からかいがいがある子だなーって。本当、昔からちっとも変わらない」



 今度は頬を突いてきた。やめろ、人前で。恥ずかしい。


 ……別に酒とか飲んでないよな?

 任務中は飲まないようにしてるし……そもそもリビアって、確か酒に弱かったはずだ。


 リビアの突き攻撃を手で払う。「連れないわね」と肩を竦めると、丁度料理が運ばれてきた。



「お待たせしました~。仲が良さそうですけど……お二人はカップルですか?」

「え?」



 まさかの勘違いに、思わず固まってしまった。

 今までずっと一緒に行動してきたけど、そんな風に思われたのは初めてだった。

 リビアもちょっと驚いていたけど、直ぐに笑って訂正した。



「ふふ、違います、姉弟ですよ。建国祭のために、外国から来たんですよ」

「まあっ。仲がいいんですねぇ」



 お姉さんの質問に、リビアが笑顔で答える。その間に、肉にがっついた。


 ハーブをふんだんに使った香り高い肉は、どういう調理法をしているのか解けるように柔らかい。

 歯がいらない肉なんて、初めて食べたかも。

 ごゆっくり~、と去っていくお姉さんを見送り、何故か嬉しそうなリビアに目を向ける。



「なんか機嫌いい?」

「そんなことないわよ」



 あからさまに、いつもよりテンション高いけど。

 リビアも自分に運ばれてきた料理を食べ、頬を手で覆う。

 そんなに美味いのか、トマト煮。トマト嫌いだから食えないけど、ちょっと気になる。



「何? 食べたいの?」

「……ちょっと……」

「しょうがないわね。はい、あーん♪」



 あ、あーん? やっぱりこいつ、ちょっとおかしいぞ。

 ミルクの入ったカップに目を向け、奪って匂いを嗅ぐと……少し、酒の匂いがした。まさか……。



「あの、すみません。これお酒入ってません?」

「え? ……あっ⁉ す、すみませんっ、これ別の席のミルク割りです!」



 やっぱり……てかリビアも、もう少し警戒しろよ。これが毒だったらどうしてたんだ。


 やたらテンションの高いリビアに水を渡す。

 こっちはちゃんとした水だ。毒も入っていないことは確認済み。

 けど水じゃ嫌なのか、むすっとした顔をした。



「やだ。ミルクがいい」

「まずは水を飲め。ミルクはあと」

「むぅ……」



 仕方なく、水を飲むリビア。こりゃあ、完全に酔っぱらってるな。

 ……ちょっと可愛いと思ったのは、内緒だ。

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