第十六話 人助けが趣味
ツンとしたポックルだが、シスターへ向ける鋭い眼光は変わらない。敵意に満ちていた。
「どうしたんだよ、ポックル?」
『……小僧、気をつけよ。あの女から香る匂い、路地でも漂っていたぞ』
「あの甘い匂いか? 路地でそんな匂いしたっけ」
『……これだから人間は。しばらく余は黙る。何かあったら、己で対処しろ』
そんな呆れられても。
ただ教会の近所に住んでいるから、たまに祈りに来てるんだろう。それで匂いが移ったとか。
二人について行き、俺たちも教会の中に入る。
外見と同じで、中も結構古い。床の板は軋むし、壁画も所々掠れている。
けど正面のステンドグラスは綺麗だ。
日光が差しこみ、正面に祀られている神像が煌びやかに輝く。
数名の人が長椅子に座り、手を組んで祈りを捧げていた。
「神像とステンドグラスは、やたら綺麗ですね」
「ええ。神は天から、私たちを見守ってくださっています。毎日のお掃除と手入れは欠かせません」
それで綺麗なのか……? それにしては、足元の色だけが異様に剥げているけど……。
神像の横を通り、奥へ通じる小扉を開ける。
先は廊下になっていて、一気に生活感が出た。どうやらここから先が、孤児院のような施設になっているっぽいな。
廊下を進むと、奥の方から香ばしく甘い匂いが漂ってきた。
これは……クッキーか?
「いい匂いですね」
「三日後の建国祭用に準備をしていまして、私たちの露店ではクッキーを売るんです。少しでも、孤児院の運営の足しにできればと」
キッチンらしいところを覗くと、二人のシスターさんたちが試作品を作っているみたいだった。
さっきシスターから漂った匂い、これかなと思ったけど……違う。もっと変な甘さを感じた。なんだったんだ……?
更に奥へ進み、『応接室』と書かれた部屋に通された。
机と椅子、暖炉、子供たちが作った木細工が飾られていて、質素な感じだった。見たところ、運営に苦労しているみたいだな。
木の人形を手に、扉の前に立っていたシスターへ振り返る。
「ネイ以外の子や他のシスターは、建国祭の準備ですか?」
「はい。大通りに露店を出すので、結構忙しくて……私はここでお留守番です。少々お待ちください、今お茶を淹れてきます」
シスターは頭を下げ、部屋を出ていく ネイもお手伝いで、彼女について行った。
すると、今まで黙っていたポックルが急に動き、俺の顔面をパンチしてきた。
『おい小僧。出るぞ』
「え? なんでだよ」
『ここは好かん。吐き気がする』
さっきから、執拗に鼻を触ってるな……そんなに匂いが気になるのか?
「辛いなら、ペンダントの中入ってろよ。俺、もう少しシスターに話を聞く。拉致事件のことも、何か知ってるかもしれないし」
『……ふん。勝手にせい』
光の玉となり、ポックルはペンダントに入っていった。
こいつが警戒するなんて、いつものことだからな。特に気にすることはないだろ。
暖炉の上に飾られている木細工を見ていると、ネイとシスターが戻ってきた。
おぼんにはお茶と、焼きたてのクッキーが乗せられている。
「お待たせしました。すみません、こんなものしか用意できず……」
「あ、いえ。お構いなく」
むしろ勝手に押し掛けたのに、丁寧に迎えてくれるとは思ってもなかった。
「こちら、建国祭で出すクッキーです。お口に合うといいのですが……どうぞ召し上がってください」
机の上に乗せられたクッキーは、出来立てなのかまだ少し湯気が立っていた。見るからに美味そうだ。
おぼんを置いたネイが、何かを探すようにキョロキョロと周りを見た。
「ライゼルおにーちゃん、ぽっちゃんは?」
「ぽっちゃん? あぁ、ポックルか。少し散歩するって、出て行っちゃった。ごめんな」
「んーん、だいじょーぶ。まいごにならないかなーって、しんぱいになっただけ」
君がそれを言うか。
俺とシスターが、同時に苦笑いを浮かべる。子供ってこういう所があるよなぁ。
椅子に座り、お茶の匂いを嗅ぐ。
芳醇でふくよかな香りに、思わず顔を上げた。
「いい紅茶ですね。香りでわかる」
「私の故郷の茶葉に、ビルサオール王国原産の茶葉をブレンドしたものです」
「自分で茶葉を混ぜているんですか。凄いですね」
「趣味に毛が生えたようなものですよ」
シスターは小さく微笑み、自身のカップに口を付ける。
ネイも満面の笑みで、クッキーを食べていた。
俺も唇の先に紅茶をつける。
別に毒を疑っているつもりはないけど、クルス教官から「見知らぬ相手から出されたものは、相手が子供だろうと警戒しろ」って体に叩きこまれたからな。習慣だ。
少し落ち着いたからか、シスターは柔和に微笑み、頭を下げた。
「申し遅れました。私、カルミアと申します。聖ベルミアーノ教会のシスターで、ネイや他の子への教育を主に担当しています」
「カルミアさんですね。俺はライゼル。改めて、よろしくお願いします」
「ライゼル様ですか。とても勇ましいお名前ですね。素敵です」
にこりと微笑むカルミアさん。
くっ、可愛い……その上名前まで褒められた。女性免疫が少ないから、緊張しちゃうぞ。
ん? 騎士団の女性たち?
リビアは姉。カノンは母。クルス教官は雌ゴリラだから、女性と言われると違うだろう。
脳内で三人にボコられ身震いしていると、部屋の扉がノックされ、一人のシスターが入って来た。
「お客様、申し訳ありません。シスターカルミア、ちょっと」
「はい。失礼します、ライゼル様」
カルミアさんが部屋を出て行き、部屋の前で何か話している。
扉越しであまり聞こえないけど、建国祭について話しているみたいだ。このままじゃ間に合わないとか、なんとか。
話を終えて戻ってきたカルミアさんの顔は、少し暗い。
駄目だよ、俺の前でそんな顔をしたら。……助けたくなっちゃうじゃないか。
「カルミアさん。もしかして建国祭の準備が間に合わないんですか?」
「ええ……人手が足りなくて、屋台の準備がどうしても……」
「もしよろしければ、手伝いますよ」
思わぬ申し出だったからか、目を見開いて呆けるカルミアさん。慌てた顔で、手をぶんぶん振る。
「そ、そんなっ。会ったばかりの方に、いきなりそんなことをお願いするなんて、できませんよ……!」
「安心してください。俺はゆ……ひ、人助けが趣味なんです。困っている人を見たら、放っておけないんですよ」
危ない。また勇者って言っちゃうところだった。
「ライゼルおにーちゃん、てつだってくれるの……⁉」
「ああ。お兄ちゃんに任せとけ」
ネイの頭を撫でると、花が咲いたような笑顔を向けてきた。
可愛いなぁ。妹も、よくこんな表情をしていたっけ。
昔のことを思い出してちょっとしんみりしていると、カルミアさんは心配そうな表情を浮かべた。
「本当にいいのですか? ライゼル様は、王都の人ではありませんよね。観光で訪れた方なのに……」
「気にしなくても大丈夫です。俺が手伝いたいんですよ」
カルミアさんはどうするか悩んでいるが、ネイの笑顔を見て……小さく頷いた。
「……それでは、お願いします。明日の朝、また教会にいらしてください」
「わかりました」
席を立ち、二人に頭を下げて教会を出る。
振り返ると、俺が見えなくなるまで、二人で手を振ってくれていた。
さて……まずは一人、説得しないとなぁ。
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