第十四話 貴様、キモいな
住宅街から大通りに戻り、辺りを見渡す。
荷車へ物を積み込み、壊れて動かなくなった馬車を直したり、転んで泣いている子供をあやしたりと、とにかく片っ端から声を掛けていく。
やっぱり人助けは素晴らしい。良いことをすると、心が清らかになる。
一息つき、賑わう大通りを見渡すと……。
「何をしておる! 早く歩け、この薄ノロ!」
急に、口汚い罵声が聞こえてきた。
「ん?」
声の方に目を向けると、ジュエリーショップから巨漢の男が出てきた。
でっぷりとした体躯で、丸々としている。明らかな高肥満状態だ。
男が何人かの従者とを連れている。
あれは……貴族だな。随分と偉そうだ……って、貴族だから当たり前か。
自分自身はジャラジャラと宝石をつけていて、従者には荷物を持たせている。
あれだけ宝石塗れだと、正直かなり下品だ。
ちょっとだけ様子を窺っていると、一人の執事が手を揉みながら近付いた。
「ご当主様。本日の子豚は何匹用意しましょう」
「うむ……五……いや、六は欲しいな」
「承知しました。その際は、是非とも我々もご相伴を」
「わかっておるわい」
六匹の子豚……? いくら大食いだからって、そんなに食えるもんなのか?
周りにいる大人が、少し怖がって頭を下げる。慕われているって訳じゃなさそうだ。
ポックルはああいうのが嫌いで、嫌悪感丸出しの声を上げた。
『なんじゃ、あの豚は。気持ち悪い』
「そう言うな。貴族は市民を守るのが義務。その特権だろうよ」
まあ、本当に守っているのかは……甚だ疑問だが。
だけど、ポックルの言う通り、見ていて嫌な気分になる。
直感だけど、俺あいつ嫌いだ。
貴族のオッサンが馬車に乗り込む。
俺も、極力視界に入れないように歩こうとした……その時だった。
「……しすたー……どこぉ……」
女の子の泣いてる声が、届いた。
「ポックル、行くぞ」
『またか……頑張りすぎじゃぞ』
見渡すが、人が多くて子供の姿が見えない。
けど、俺にはわかる。迷子で悲しんでいる、子供のいる場所が。
大勢の人を掻き分ける。
肉串の屋台を抜け、人目のつかない陰に目をやると……いた、やっぱり。
『貴様、キモいな』
「うるさい」
ポックルの髭を指で弾き、膝を抱えて泣いている女の子へ近付く。
「君、大丈夫? 迷子か?」
「ふぇ……?」
顔を上げた少女は、なんとも小綺麗な子だった。
四歳か五歳か……それにしては、顔が整いすぎている。こんな綺麗な女の子がいるのか。
頬に涙の跡が残っている。可哀想に、心細かったんだな。
「さっきシスターって言ってたと思うけど、もしかして教会で保護してる子? 良ければ、送っていこうか?」
「……しすたぁ……しすたぁぁあっ、うえぇ~ん……!」
あぁ、やばい。完全に泣かしちゃった。
いや、俺が泣かせた訳じゃないんだけど。きっと傍に人がきて、安心しちゃったんだろうな。
大泣きしている子供の声に、当然周りも気付き始める。
あ……まずいぞ。最近は誘拐事件が多発しているんだ。このままじゃ、俺が犯人扱いされちまう。
「ち、違うぞ。お兄ちゃんは、ただ君を助けたくて……!」
「ふぇえん。わぁ~んっ」
参った。話ができない。こうしてる間にも、人だかりが……!
『馬鹿だなぁ、貴様。いきなり大の男が話し掛けたら、驚かせてしまうだろう』
「そ、そんなこと言われてもな……」
『貴様では話にならん。余に任せろ』
任せろって……あ。
頭から飛んだポックルは、少女の腕に無理やり体をねじ込む。
急なもふもふの来客に、目を見開いて泣き止んでしまった。
さすが猫。子供の求心力が高すぎる。
「ほゎ……猫しゃん……」
『おー、よしよし。この雄は見た目ほど怖い奴ではないぞ。ちゃんとお主を助けてくれる奴だ。少しばかり話をしてくれんか?』
「しゃべった……⁉」
世にも珍しい喋る猫に、顔を輝かせる少女。ほ、良かった。
内心胸を撫でおろしていると、急に少女のお腹から大きな音が鳴った。安心して、腹が減ったんだろうな。
隣の肉串の屋台で三本買い、二本を少女に。もう一本をポックルに渡した。
「いーの……?」
「ああ。お腹いっぱい食べたら、幸せな気持ちになるだろ? だからたくさん食べな」
『そうだぞ、少女よ。小僧の奢りだ。遠慮せず食え』
お前はもっと遠慮しろ。
「ぁ……ありがと」
少し恥ずかしそうに、でもちゃんとお礼を言い、肉をかじる。
一瞬目を見開くと、美味そうにガツガツ食べ始めた。
余程お腹が空いていたんだろう。直ぐに一本を食べきった。
少女の横に座り、少し落ち着くまで待つ。
肉を食べて満たされたみたいで、顔には少し笑顔が戻った。
「ありがと、おにーちゃん」
「気にしないで。君、名前は?」
「……ネイ。おにーちゃんは?」
「俺はライゼル。こっちの猫はポックルだ。よろしく、ネイ」
お腹が満たされて落ち着いたからか、ちゃんと答えてくれた。
ポックルは猫扱いされて、強い猫パンチを食らわせてきたが。仕方ないだろう。精霊とか、説明しても理解できないだろうし。
周りの人も、特に何も言うことなく散る。
中には俺がさっき助けた人もいて、ちゃんと俺のことを擁護してくれた。ありがたいな。
「ネイ。もし迷子なら、そのシスターの所に連れて行こうか?」
「いいのっ……?」
「ああ。俺、困ってる人は放っておけないんだ」
「うんっ。ネイ、しすたーの所にかえりたい……!」
ポックルのおかげで、警戒心を解いてくれた。よかった。これで拒否されたら、どうしようかと。
肉串を食べ終え、ネイはポックルを抱っこする。
さすがのポックルも、空気を読んでされるがままに抱えられていた。
「どっちから来たかわかる?」
「……わかんない。ネイ、きょーかいのおてつだいしてたのに……」
「いつの間にか、はぐれちゃったのか」
小さく頷き、ポックルに顔を埋めるネイ。
もう少し優しく抱きしめてやってくれ。ポックル、しんどそうだから。
仕方ない。こうなったら、人づてに聞いていくか。
ネイの手を取り、近くにいた人に教会の場所を聞こうとすると……俺たちの前に、馬車が止まった。
さっきの貴族のオッサンが乗った、悪趣味な馬車だ。
少し警戒し、馬車を見上げる。小さな窓から、オッサンが薄暗い目で俺たちを見下ろしていた。
「おい、貴様。今泣いていたのは、その孤児か?」
「……はい、貴族様。迷子になっていたので、今から教会へ連れて行こうかと」
オッサンが値踏みをするように、ネイを見下ろす。
こいつの目が怖かったのか、俺の後ろに隠れた。
「その孤児の名は?」
……ここで名前を言わないと、後々面倒くさそうだ。
変に目を付けられるくらいなら、言ってしまった方がいい……か。
「ネイです」
「ネイか……大義であった。無事に送れ」
それだけ言い残し、再度出発して馬車は去っていった。
……なんだったんだ、今の?
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