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復讐に取り憑かれた偽りの勇者は、もふもふ大精霊様に癒される。  作者: 赤金武蔵
第二章 偽りの勇者は助けたい

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第十四話 貴様、キモいな

 住宅街から大通りに戻り、辺りを見渡す。

 荷車へ物を積み込み、壊れて動かなくなった馬車を直したり、転んで泣いている子供をあやしたりと、とにかく片っ端から声を掛けていく。


 やっぱり人助けは素晴らしい。良いことをすると、心が清らかになる。

 一息つき、賑わう大通りを見渡すと……。



「何をしておる! 早く歩け、この薄ノロ!」



 急に、口汚い罵声が聞こえてきた。



「ん?」



 声の方に目を向けると、ジュエリーショップから巨漢の男が出てきた。

 でっぷりとした体躯で、丸々としている。明らかな高肥満状態だ。


 男が何人かの従者とを連れている。

 あれは……貴族だな。随分と偉そうだ……って、貴族だから当たり前か。


 自分自身はジャラジャラと宝石をつけていて、従者には荷物を持たせている。

 あれだけ宝石塗れだと、正直かなり下品だ。

 ちょっとだけ様子を窺っていると、一人の執事が手を揉みながら近付いた。



「ご当主様。本日の子豚は何匹用意しましょう」

「うむ……五……いや、六は欲しいな」

「承知しました。その際は、是非とも我々もご相伴を」

「わかっておるわい」



 六匹の子豚……? いくら大食いだからって、そんなに食えるもんなのか?

 周りにいる大人が、少し怖がって頭を下げる。慕われているって訳じゃなさそうだ。


 ポックルはああいうのが嫌いで、嫌悪感丸出しの声を上げた。



『なんじゃ、あの豚は。気持ち悪い』

「そう言うな。貴族は市民を守るのが義務。その特権だろうよ」



 まあ、本当に守っているのかは……甚だ疑問だが。

 だけど、ポックルの言う通り、見ていて嫌な気分になる。

 直感だけど、俺あいつ嫌いだ。


 貴族のオッサンが馬車に乗り込む。

 俺も、極力視界に入れないように歩こうとした……その時だった。






「……しすたー……どこぉ……」






 女の子の泣いてる声が、届いた。



「ポックル、行くぞ」

『またか……頑張りすぎじゃぞ』



 見渡すが、人が多くて子供の姿が見えない。

 けど、俺にはわかる。迷子で悲しんでいる、子供のいる場所が。


 大勢の人を掻き分ける。

 肉串の屋台を抜け、人目のつかない陰に目をやると……いた、やっぱり。



『貴様、キモいな』

「うるさい」



 ポックルの髭を指で弾き、膝を抱えて泣いている女の子へ近付く。



「君、大丈夫? 迷子か?」

「ふぇ……?」



 顔を上げた少女は、なんとも小綺麗な子だった。

 四歳か五歳か……それにしては、顔が整いすぎている。こんな綺麗な女の子がいるのか。


 頬に涙の跡が残っている。可哀想に、心細かったんだな。



「さっきシスターって言ってたと思うけど、もしかして教会で保護してる子? 良ければ、送っていこうか?」

「……しすたぁ……しすたぁぁあっ、うえぇ~ん……!」



 あぁ、やばい。完全に泣かしちゃった。

 いや、俺が泣かせた訳じゃないんだけど。きっと傍に人がきて、安心しちゃったんだろうな。


 大泣きしている子供の声に、当然周りも気付き始める。

 あ……まずいぞ。最近は誘拐事件が多発しているんだ。このままじゃ、俺が犯人扱いされちまう。



「ち、違うぞ。お兄ちゃんは、ただ君を助けたくて……!」

「ふぇえん。わぁ~んっ」



 参った。話ができない。こうしてる間にも、人だかりが……!



『馬鹿だなぁ、貴様。いきなり大の男が話し掛けたら、驚かせてしまうだろう』

「そ、そんなこと言われてもな……」

『貴様では話にならん。余に任せろ』



 任せろって……あ。

 頭から飛んだポックルは、少女の腕に無理やり体をねじ込む。

 急なもふもふの来客に、目を見開いて泣き止んでしまった。

 さすが猫。子供の求心力が高すぎる。



「ほゎ……猫しゃん……」

『おー、よしよし。この雄は見た目ほど怖い奴ではないぞ。ちゃんとお主を助けてくれる奴だ。少しばかり話をしてくれんか?』

「しゃべった……⁉」



 世にも珍しい喋る猫に、顔を輝かせる少女。ほ、良かった。

 内心胸を撫でおろしていると、急に少女のお腹から大きな音が鳴った。安心して、腹が減ったんだろうな。


 隣の肉串の屋台で三本買い、二本を少女に。もう一本をポックルに渡した。



「いーの……?」

「ああ。お腹いっぱい食べたら、幸せな気持ちになるだろ? だからたくさん食べな」

『そうだぞ、少女よ。小僧の奢りだ。遠慮せず食え』



 お前はもっと遠慮しろ。



「ぁ……ありがと」



 少し恥ずかしそうに、でもちゃんとお礼を言い、肉をかじる。

 一瞬目を見開くと、美味そうにガツガツ食べ始めた。

 余程お腹が空いていたんだろう。直ぐに一本を食べきった。


 少女の横に座り、少し落ち着くまで待つ。

 肉を食べて満たされたみたいで、顔には少し笑顔が戻った。



「ありがと、おにーちゃん」

「気にしないで。君、名前は?」

「……ネイ。おにーちゃんは?」

「俺はライゼル。こっちの猫はポックルだ。よろしく、ネイ」



 お腹が満たされて落ち着いたからか、ちゃんと答えてくれた。

 ポックルは猫扱いされて、強い猫パンチを食らわせてきたが。仕方ないだろう。精霊とか、説明しても理解できないだろうし。


 周りの人も、特に何も言うことなく散る。

 中には俺がさっき助けた人もいて、ちゃんと俺のことを擁護してくれた。ありがたいな。



「ネイ。もし迷子なら、そのシスターの所に連れて行こうか?」

「いいのっ……?」

「ああ。俺、困ってる人は放っておけないんだ」

「うんっ。ネイ、しすたーの所にかえりたい……!」



 ポックルのおかげで、警戒心を解いてくれた。よかった。これで拒否されたら、どうしようかと。


 肉串を食べ終え、ネイはポックルを抱っこする。

 さすがのポックルも、空気を読んでされるがままに抱えられていた。



「どっちから来たかわかる?」

「……わかんない。ネイ、きょーかいのおてつだいしてたのに……」

「いつの間にか、はぐれちゃったのか」



 小さく頷き、ポックルに顔を埋めるネイ。

 もう少し優しく抱きしめてやってくれ。ポックル、しんどそうだから。


 仕方ない。こうなったら、人づてに聞いていくか。

 ネイの手を取り、近くにいた人に教会の場所を聞こうとすると……俺たちの前に、馬車が止まった。

 さっきの貴族のオッサンが乗った、悪趣味な馬車だ。


 少し警戒し、馬車を見上げる。小さな窓から、オッサンが薄暗い目で俺たちを見下ろしていた。



「おい、貴様。今泣いていたのは、その孤児か?」

「……はい、貴族様。迷子になっていたので、今から教会へ連れて行こうかと」



 オッサンが値踏みをするように、ネイを見下ろす。

 こいつの目が怖かったのか、俺の後ろに隠れた。



「その孤児の名は?」



 ……ここで名前を言わないと、後々面倒くさそうだ。

 変に目を付けられるくらいなら、言ってしまった方がいい……か。



「ネイです」

「ネイか……大義であった。無事に送れ」



 それだけ言い残し、再度出発して馬車は去っていった。


 ……なんだったんだ、今の?

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