第十三話 またお会いしましょう、勇者様
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「な、ん、で、私までこんな早く任務に行かないといけないのよ」
「いっ、痛いっ、痛い……! ご、ごめっ……!」
大草原を歩きつつ、レイピアでチクチクされる。
ちょ、マジで痛いからやめて……!
リビアは俺と違って、もっと休日を満喫したかったらしい。
目的地に向かう道中、ずっと不機嫌だったし……巻き込んだのは本当にごめん。
彼女のジト目に耐え切れず目を逸らすと、ため息をつきつつレイピアをしまい、カノンから手渡された資料に目を落とした。
「『奈落の手』下部組織、『黒の牙』メンバーの拘束ね。確かに、あんたが知れば食いつく案件だわ」
「……ああ。南の大陸、ビルサオール王国の王都で活動してるらしい」
『黒の牙』は、主に人攫いと人身の売買を行っている。今まで尻尾を出さなかったが、騎士団が死に物狂いで掴んでくれた情報だ。
もしかしたら、これを機に牙と『奈落の手』を殲滅できるかもしれない。
『奈落の手』。俺の家族と故郷を奪った敵。
このチャンスを逃してたまるか。絶対に滅ぼしてやる。
拳を握っていると、リビアが書類から顔を上げた。
「似顔絵もなし。メンバーの特徴もなし。こんなの、どうやって探せって言うのよ」
「そこまではわからないけど、確かな情報筋って言ってたぞ」
「その確かな筋まで、教えてくれなかったじゃない。本当に正しい情報なのか……正直、疑ってるわ」
リビアの言いたいこともわかる。
だけど、今まで一切何もなかった情報が、ようやく掴めたんだ。罠だったとしても、罠ごと潰してやる。
小高い丘を進んでいると、地平線に何かが見えてきた。
「お……? 見えてきたぞ。王都クロベスタだ」
まるで旅人を歓迎し、悪人を拒絶するかのように佇む巨大な防壁。その向こうには、シンボルとなっているクロベスタ城が佇んでいる。
この中に、『奈落の手』に繋がるヒントが……。
少し緊張して手を握っていると、ずずいとリビアが顔を近付けてきた。
「ライゼル。もう一度言っておくけど、絶対に目立たないこと。私たちが探ってることを知られたら、逃げられるかもしれない。後、もし奴らを見つけても暴走しないように。特に街中ではね。どうやら建国祭が控えていて、街は人で溢れかえっているみたいだから。それと、勇者だって名乗るのも……」
「わかった、わかったから。もう何度も聞いたって。大丈夫、そこまで馬鹿じゃない」
「……ならいいわ。行きましょう」
王都に入る旅人の列に並び、所定の手続きを済ませる。
特に怪しまれることなく、すんなり王都に入れた。
この王都クロベスタにも、今まで任務で何度も来てるからな。面倒な情報登録もなく終わった。
長さ十数メートルの防壁を抜けて街へ出ると、一瞬陽光で目が眩んだ。
光に目が慣れ、周囲を見渡す。
いつも賑わっているが、今日はいつにも増して人が多かった。
通りの左右には屋台や露店が、所狭く並んでいる。
建国祭だからな。観光客目当ての商人も多そうだ。
「凄い人だかりだな」
「奴らからしたら、絶好の狩り場ね。一先ず宿に行きましょう。諜報員が取ってくれているみたいだから」
リビアについていき、大通りを進む。
人が多すぎて、誰がこの国の住民か見分けがつかない。
ぱっと見で怪しそうな奴もいないし……これはかなり手こずりそうだ。
大通りから一つ外れた道に出る。
そこに佇んでいる細長い建物。ここが今回、俺たちが拠点にする宿らしい。
一階は受付と飯屋で、二階から四階が宿泊所になっているみたいだ。
中も清潔だし、野蛮そうな輩もいない。見たところ、観光客向けの宿だ。無駄な因縁や争いも起こりそうになくて、よかった。
「え。ど、どうにかならないんですか?」
「そう申されましても、生憎他の部屋は全て埋まっております」
飯を食っているお客を観察していると、受付をしていたリビアが、慌てた声を上げた。
「リビア、どうかしたか?」
「あ、ライゼル。それが、部屋が一つしか取れてなかったみたいなのよ」
困り顔で、リビアが呟く。
「ん? 別に同じ部屋でもいいだろ。俺たち、姉弟みたいなもんだし」
「い、いや、それは……」
明らかに目が泳いでいる。
なんで? 特に困るようなこともないだろ。
「あ、お姉さん。俺たち同じ部屋で大丈夫です」
「あ~……はい、かしこまりました」
なんで今、リビアに意味深な視線を向けたんだ? リビアも気まずそうに俯いてるし……俺、変なこと言ってないよな……?
お姉さんから鍵を貰い、四階の隅の部屋に向かう。
荷物を隅に置いて、窓から通りを見下ろした。もし追手がいても、ここからなら警戒しやすいな。
リビアも荷物を置くと、深くため息をついた。
「ライゼル……あんた、異性と同じ部屋で、思う所とかないの?」
「え? 特に。だってリビアだし」
「最低」
なんで今罵倒されたの、俺。
保護された時はリビアと一緒の部屋だったし、カノンとも寝たことある。クルス教官と風呂だって入ってた。
今更だろう、俺たちの関係なんて。
訳が分からず首を傾げていると、視線の先で老婆が大荷物を持っているのが見えた。あ、行かないと。
窓を開け、縁に足を掛ける。
リビアはベッドに座り、訝しげな顔をしていた。
「どこ行くの?」
「人助け」
「えっ。ちょ、ライゼル⁉」
窓から、通りの真ん中に飛び降りる。
周りの人は驚いてたけど、気にしない。直ぐにお婆ちゃんに駆け寄り、声を掛けた。
「お婆ちゃん、どこまで運ぶの? 手伝うよ」
「あらまぁ、ありがとね」
手に持っていた荷物を受け取り、その場に膝をつく。
「ほら、乗って。目的地まで運んであげるから」
「本当、親切なお兄さんねぇ。ありがとう、お言葉に甘えるわ」
背に乗ったお婆ちゃんも持ち上げ、ちょっと振り返ると……うん、やっぱり怒ってる。後でちゃんと謝ろう。
どうやら、建国祭用の飾りを買った帰りだったらしい。
なるほど、どうりでこんな大荷物な訳だ。
「建国祭って、いつもこんなに盛り上がってるの?」
「ええ、そうよ。よその町はもちろん、国の外からも来るの」
「へぇ~……これだけ人が多いと、いろんなことを考える人がいそうだね」
さりげなく王都の情報を聞き出す。案の定、お婆ちゃんは悲しそうな表情をした。
「そうなのよ……毎年の楽しみだけど、悪さをした人の話を聞く度に心が痛んでねぇ……最近は大人や子供が消えちゃうって聞くし、恐ろしくて、恐ろしくて」
ビンゴ。
「その話って、最近?」
「もう半年くらいになるかねぇ。衛兵さんも頑張ってくれてるけど、中々捕まったって聞かなくて……あぁ、ここよ」
チッ。もう少し話を聞きたかったけど、仕方ない。
民家の前で下ろし、荷物を返す。お婆ちゃんは何度も頭を下げてきた。
「本当、助かったわぁ。ありがとうね」
「気にしないで。勇者として、当然のことをしただけだから」
「……勇者……?」
あ、やべ。これ言っちゃ駄目だったんだ。
慌てて口を手で覆う。が、時すでに遅し。がっつり聞かれた。
「あー、いや、これは……」
「……ふふ。まさか勇者様に助けていただけるだなんて。死んだお爺さんに、いい土産話ができたわ。またお会いしましょう、勇者様 」
ほんわかと笑みを浮かべ、特に怪しむことも、罵倒することもなく、そのまま家の中へ入っていった。
呆然とその背を見送る。
いつの間にか外に出ていたポックルが、俺の頭の上に乗った。
『小僧。何をぼーっとしている』
「……俺、勇者って名乗って詐欺扱いされなかったの、初めてかも」
言葉に出来ない。嬉しすぎて、地面に足がついてないみたいだ。
浮足立っていると、ポックルがふんと鼻を鳴らした。
『こんなことで喜んでどうする。貴様は真の勇者になりたいのだろう? なら、堂々としていろ、愚か者』
「だ、だな!」
よし、この調子でどんどん人助けするぞ……!
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