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復讐に取り憑かれた偽りの勇者は、もふもふ大精霊様に癒される。  作者: 赤金武蔵
第二章 偽りの勇者は助けたい

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第十二話 ――行ってらっしゃい

 苦し紛れに睨みつけるが、耳を引っ張られた。ちぎれる、ちぎれるからやめて。



「にしても、最後のはヒヤッとしたぜ。まさかオレの攻撃を掻い潜って、仕掛けてくるとは思わなかったぞ」

「効かなきゃなんの意味もないですがね」

「まーな。相手がオレじゃなかったら、さっきの一撃で決まってたかもなァ。ガハハハハ!」



 くそっ、なんも言い返せねぇ。……弱いな、俺。本当……。

 地面に降ろされ、体についた土埃を払う。

 小さくため息をつくと、ぽんっと優しく背中を叩かれた。



「お前の気持ちはよくわかる。けどな、焦っちゃ駄目だ。しっかり、一歩ずつ踏み締めて行け。大丈夫だ。お前のことは、みんながちゃんと見てるからよ」

「……そう、ですかね」



 なんか……何もかも見透かされているみたいだ。恥ずかしい。

 動いた後とは別の意味で、顔が熱くなる。


 けど直ぐに、クルス教官と手合わせした理由を思い出した。

 そうだ。俺、例の噂について聞きたくて戦ってたんだ。でも五分ももたなかったし、負けちゃったし……。

 肩を落としていると、教官は俺の肩に腕を回して、小声で話した。



「こいつは独り言だが……カノンの所に行ってみれば、お前の欲しい情報が手に入るかもしれないぞ」



 目を見開き、教官を見上げる。が、口に人差し指を当ててしーっとジェスチャーしてきた。



「あ、ありがとうございますっ。行ってきます……!」

「そんなに感謝してんなら、今度一緒に酒でも飲もう。もちろん、お前の奢りでな」



 大斧を担ぎ、手を振って見習い騎士たちの所に戻るクルス教官。

 彼女の後姿に深々と頭を下げ、大急ぎで移動床(ウイングボード)に乗った。






「カノン、いいか?」



 返事も待たずに指令室に入ると、珍しく朝から起きていた。

 ……違うな。徹夜明けか。明らかに眠そうだ。


 カノンは大きくあくびをすると、不思議そうに首を傾けて微笑みを浮かべた。



「やあ、おはよう、ライゼル君。私のことが恋しくなったかい?」

「……教官も、あんたも、なんでそんなに自己評価が高いんだよ」

「クルスにも会ったのか。なに、ライゼル君の信念には負けるよ。私は、私を勇者と信じ込む決意は持てないからね」



 指を振るうと、部屋の隅で淹れたコーヒーがこっちに飛んできた。

 いいなぁ、魔法。俺、全然使えないから羨ましい。


 カノンは背もたれに体を預け、目線でソファーに座るよう促してきた。

 だけど座らず、コーヒーを机に置いて、カノンの前に歩いていく。

 きょとんとしていたが、直ぐに顔を引き締めた。



「雑談をしに来た、って顔じゃないね」

「……教官に聞いた。ここに来れば、俺の欲しい情報が手に入ると」

「あの過保護雌ゴリラめ」



 過保護はどっちもどっちだろう。

 カノンは深くため息をつくと、首を横に振った。



「確かに私は、君の欲しているものを握っている。近い内誰かに、この任務を任せるつもりだった」

「なら、俺に行かせてほしい」



 テーブルに手をつき、カノンの目を真っ直ぐ覗く。

 じっと見つめ合うが、椅子を回して俺に背を向けた。



「駄目だ。この任務に君は行かせられない」

「そんな……! 俺がこの日をどれだけ待ち望んでたか、知ってるだろッ?」

「痛いほどにな。けど……今の君じゃあ、危険すぎる」



 椅子から立ち上がり、部屋を出ようとする。まるで、話は終わりとでも言うように。

 慌ててカノンの前に立ち塞がる。膝をつき、彼女の手を取って見上げた。



「お願いだ、カノン。絶対に無茶なことはしない。約束する」

「大人になれ。人には適材適所がある」



 問答無用。絶対に俺を生かせないっていう力強い意思が伝わってきた。


 大人になれ、か……確かに、今の俺は子供っぽいんだろうな。自分勝手で、駄々をこねて、我を通そうとして。



「なら、手伝ってほしい。俺が大人になるために」

「……どういう意味だい?」



 訝しげな表情を浮かべるカノン。

 立ち上がり、今度は逃がさないように肩を掴んだ。



「過去に囚われているって自覚はある。当時のことを思い出すだけで痛くて、苦しくて、悲しくて、怒りで身が焼かれそうになるんだ。でも……この気持ちは、時間と共に薄れるものじゃない。自分から向き合うしかないんだよ」



 この道が、どれだけ険しいものになるか……わからない。

 もしかしたら一生このままかもしれないし、今より余計辛い思いをするかもしれない。


 怖いから進まない。けどそんな選択肢は……勇者の俺には、存在しない。

 ずっとこのままじゃ駄目だ、変わらないといけない。この道の先に、俺の憧れる『真の勇者』があるのなら。



「頼む。そんな俺に、未来へ踏み出すチャンスをくれ」



 しばらく見つめ合い、無言の時間が流れる。

 その時。ペンダントが光り、ポックルが飛び出して俺の肩に乗った。



『もう良いだろう、カノン。こうなった小僧は、嫌でも首を横に振らんぞ』

「ポックル……! さすが、よくわかってる!」

『ええい、撫でるな。余は高貴なる存在ぞ!』



 思わぬ援護に嬉しくなって、つい頭を撫でた。

 シャーッと毛を逆立てるが、特に攻撃はしてこない。ははは、可愛い奴だ。



『ふん……それに、小僧には余が付いている。何かあったら任せておけ』

「ポックル君……やれやれ。君にそう言われては、私からは何も言えないね」



 カノンは小さく嘆息すると、俺の頭を撫でた。



「まったく。頑固者だよ、君は」

「あんたの教育の賜物かもね。……母さん」

「ふふ。そう呼んでくれるなんて、いよいよ甘えさせたくなる。一緒にお風呂でも入るかい?」



 いや、それは遠慮しておきます。

 カノンは両頬を手で包み込み、慈愛に満ちた表情で真っ直ぐ見つめてきた。



「ちゃんと気持ちをコントロールできるね?」

「ああ」

「死に急ぐ真似はしないね?」

「当然だ」

「嫌いな野菜も食べる?」

「もちろ……待て、それは今関係ないだろ。……できるだけ、食べる」



 ちゃんと答えると、カノンは満足そうに笑った。



「わかった、では翌朝、リビア君を連れてきたまえ。君たち二人に、任務を言い渡す」

「! 了解!」



 部屋を飛び出し、天辺から跳び下りる。

 そのせいで、カノンが呟いた言葉を聞き逃していた。


 ――行ってらっしゃい。

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