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復讐に取り憑かれた偽りの勇者は、もふもふ大精霊様に癒される。  作者: 赤金武蔵
第二章 偽りの勇者は助けたい

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第十一話 はいかイエスで答えろ

 クルス教官は見習い騎士たちを止まらせ、腕立て伏せをさせる。

 もちろんその間、準教官たちがしっかり見張っていた。

 少しは休ませようという優しさは……ないですよね、あなたですから。


 汗を拭きつつ、快活な笑顔で近付いてくる教官。

 相変わらずでかい。身長、2メートルくらいだっけ。

 逞しい丸太のような腕と脚は全部筋肉で覆われているが、ところどころに古傷が目立つ。

 まさに歴戦の戦士って感じだ。傍にいるだけで、威圧感が半端ではない。


 加えて身長もそうだが、胸も腰回りもでかい。

 けど、女性としての魅力より恐怖心が勝って、まったくそういう目で見れない。もちろん俺だけじゃなく、騎士団のみんなが。


 胸に捲くさらしと長ズボン姿で、がっしり肩を組んできた。



「どーした。オレのことが恋しくなっちまったか?」

「いえ、そういう訳では……」



 ゴスッ!!

 いつの間にか、目の前に地面が広がっていた。

 その後、遅れてやってくる脳天の衝撃。鋭く、熱い痛みが爆発的に広がり……。



「ッ……⁉」



 うごっ……おおっ……い、息ができねぇ……!

 ジタバタ暴れ回る。目がチカチカしてきた。



「何度言ったらわかるんだ。オレの言葉には、はいかイエスで答えろ。で、恋しくなったんだろ? 」

「は……は、い……」

「よーしよし、可愛い奴だなぁ、お前は」



 襟首を持たれ、無理やり立たされた。俺は猫か。

 まだ痛む頭を擦る。この人の拳、いつまでも慣れねぇ。

 教官は手に持っていた棍棒を担ぎ、「んで?」と話しだした。



「ライゼル、何しに来た? お前、確か数日は休みだったろ。カノンに聞いたぞ」

「そうですが……例の噂のことを聞きに来たんです。クルス教官が、箝口令を出したと聞いたんで」

「……チッ。誰から聞きやがった……後でお仕置きだな」



 すまん、なんとか逃げ切ってくれ。俺も喋らないようにはするから。

 二人に内心謝っていると、クルス教官は俺を見て、やれやれと肩を竦めた。



「教えない……つっても、お前は聞かないんだろ」

「その通りです」



 この人も、俺の性格をよくわかっているからな。何を言っても引き下がらないことくらい、お見通しだろう。



「しゃーねェな。俺と戦って五分もったら、考えてやる」



 げっ、そう来たか。

 ニヤニヤ顔で煽ってくるクルス教官。

 この人、自分が恐れられてるとわかって提案したな。

 上等だ、やってやる。



「……よろしくお願いします」



 一定の距離を取り、腰に携えていた剣を抜く。


 基本、教官との手合わせは真剣の実戦形式だ。だからこそ緊張感が出るってもんだ。

 殺すつもりで行くが、当然殺しはしない。

 訓練以外での仲間内で私闘、喧嘩、殺人はご法度だからな。教官も、その点は承知している。


 クルス教官は、壁に立て掛けていた自身の得物を担ぐ。

 太く、巨大な丸太の先端に、歯引きされていない鋼鉄の刃が付いている。

 俺の身長を優に超える大斧だ。

 それを片手で軽々扱うなんて……本当、化け物みたいな怪力だ。


 教官がまだ腕立て伏せをしている新人たちに向かい、声を張り上げた。



「おい小童ども、見取り稽古だ! 空気椅子用意!」

「「「はい!!」」」



 空気椅子って……せめて少しくらい休ませてあげればいいのに。


 全員が空気椅子の体勢を取ると、準教官の一人がホイッスルを手に俺とクルス教官の間に立った。


 ゴキッゴキッと首を鳴らし、獰猛な笑みを浮かべるクルス教官。

 相も変わらず、恐ろしい威圧感だ。



「ライゼル、手加減は抜きだ」

「わかってます」



 そんなことしたら、後で教官にぶっ飛ばされるからな。やるからには、本気だ。


 剣を片手で持ち、自然と剣先を眉間に構える。

 逆にクルス教官は大斧を肩に担ぎ、深く腰を割った。


 風が吹き、土煙が舞う。見習い騎士や準教官たちも、息を飲んで見ていた。

 空気の糸が張り詰め、今にも破裂しそうな、その瞬間。


 ――ホイッスルが、けたたましく鳴った。


 地面を蹴り、瞬時にクルス教官の懐に入る。

 剣先を走らせ、首を狙い振るうが、簡単に大斧の柄で受け止めた。そのまま扇のように、思い切り斧を振るう。


 発生した暴風が体を叩き、押し返される。

 空中で体を翻してバランスを取るが、既に接近していた教官が大斧を振りかぶっていた。



「オルァ!!」

「ぐっ……!」



 ギリギリ回避。

 目標を見失った刃がそのまま石畳に激突し、地面が割れ、石が捲れ上がり、クレーターを作った。



「相変わらずの馬鹿力……!」

「テメェ、今オレに馬鹿って言ったか⁉」

「褒めてんですよ!」



 横薙ぎの攻撃に、俺も合わせて剣を振るう。

 刃同士が衝突した瞬間、衝撃波で見習い騎士の何人かが、バランスを保てず倒れた。

 教官は少し驚いたが、直ぐに口角を上げる。



「ふんっ!」

「ッ……!」



 拮抗したのはほんの一瞬で、剛力で弾かれた。

 やっぱりこの人相手に、力での勝負は分が悪すぎるか。


 追撃の猛攻を、辛うじて避ける。

 掠っただけでも体の一部を抉り取られそうな威力だから、気を抜いてはいられない。

 右、左、左、右、上、下。

 大丈夫、まだ見える……!



「武器だけに気を取られてんじゃねェ!」

「ッ⁉」



 脚、掴まれッ。しま……!

 一気に振り回され、世界が霞む。


 視界の端にギリギリ映るものを認識し、腕をクロスする。

 直後、衝撃が体を突き抜け、意識が飛び掛けた。



(ぃ……やっ。まだ動ける……!)



 無事なもう片方の足でクルス教官の腕を蹴り上げ、離脱。

 あぶねぇ、鍛えてて良かった。本気で気絶するところだったぞ。


 教官は目を見開くが、獰猛な笑みを見せて再度迫ってきた。



「ハッハー! やるじゃねーの、ライゼル! オレの一撃を受けてまだ動くなんてなァ! いい男になったじゃねーか!」



 こんな状況で褒められても、嬉しくないですよ……!


 繰り返される連撃を何度も逸らし、受け流し、隙を見て剣を振るうが、掠りすらしない。反応が速すぎる。


 対して教官の攻撃は、避けたとしても、風圧でバランスを崩してくる。

 迂闊に反撃に出られない。まさに攻防一体だった。



「どーしたどーしたァ! そんなんじゃ、オレに勝てねーぞァ!」



 避けても駄目。離れようとしても即詰められる。

 なら、俺の生きる道は一つ。

 教官が、脳天かち割り狙いで大斧を振り被る。ここだ……!



(出ろッ、前へ!)



 恐怖に勝ち、前に踏み出す。


 身長があるから、腕も長い。

 てことは、懐に入れば入るほど、ダメージが少ない……!


 斧が背後で石畳を割る音が聞こえる。ここなら、俺の攻撃の方が速いッ。

 容赦はしない。真剣の刺突を、教官に向けて放つ――



「ハッ……強くなったな、ライゼル」

「……え?」



 つ……掴まれた……⁉ リビア直伝の、最速の技を……⁉


 まさかの事態に硬直していると、軽く脚払いをされてひっくり返る。

 腹を踏まれ、斧を眼前に突きつけられた。


 剣は掴まれて動かせない。

 このまま内臓を踏み潰されるか、脳天をかち割られるか……詰みだな。



「……参りました」

「おう、お疲れ」



 ニカッと快活に笑い、首根っこを掴まれ、また軽々と持ち上げられた。



「三分か。思ったよりもったな」



 俺からしたら、逆にそれしかもたなかったのかって感じだ。

 強くなってるはずなんだけどなぁ……へこむぜ、これ。

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