ツッコミ 9 〜お仕事開始〜
村長さんは良い人だ。だから、ボクは彼に対し、さんを付けて呼ぶことにする。一体どんな所に惹かれ、このような好印象を持ったかというと、それは年の功からくる人当たりのいい話し方だとか、老いたことによりうまれた愛嬌のある笑顔だとか。そういうことではない。
ましては樹神様という存在である自分を、いたく特別扱いしているところも、勇者の訪れに大層感謝の念を表しているところでもない。まぁ、猫好きなのはプラスに作用する。
センスがいい、というのもプラスだろうか。村長の家はログハウスであり、権力を誇示するかのように大きなものだった。外壁に使われている丸太なんて、とても長いし太い。この土地を活かした植林により、かつては盛大に伸びていたのだろう。
自身が植物の面もあるからなのだろうか。こういう植物の力強さというものに、なんだか胸を打つような、目がうるっとしてしまうような。独特な感動が生まれてくる。自然と一体となるような、蔦を張り巡らせた外観もとてもいい。なによりしっかりと手入れがされた花壇だ。とてもいい。咲き誇る花たちの喜ばしい感情が伝わってくる。
なんとなく、感情が伝わってくる。みんな、村長を慕っていた。そう、植物はきっと、どんな植物もきっと、彼のことが好きになるだろう。
だって彼は……。
「本当に、見事なスキンヘッドです」
「それは、褒めているのですかな?」
うっとりするように、彼の頭をじっと見つめる。窓から差し込む日差しを反射するそれは、まるでボクを照らし出す専用の太陽のようだ。好きすぎる。この頭があれば、いつでもどこでも光合成が出来るのではないかと錯覚してしまう。
好きすぎる。
「こほん」
勇者の咳払いに、私は視線を落として自重した。花弁の中から猫を引っ張り出し、胸に抱えることで落ち着きを取り戻そうとする。これから大事な話をするのだから、なるべく邪魔はしたくないのだ。
「この葉っぱ、いい匂いがするな」
唯一の衣服が褒められて嬉しい。けれど、流石に露出が激しいので、そろそろ服が欲しいと思う。
「なにやら、用があるという風な話を聞いております。この村に、何かあったのですか?」
一枚板のテーブル。丸太の椅子。けして畏まった応接室ではないものの、話のトーンはどこか厳かであった。
「本来ですな、この村で育つ作物は巨大化することで有名なのです。しかし、近年ではどれも普通の、ありきたりなサイズになってしまった。多くの者がこの謎を解こうと挑んでいるのですが、なにぶん、成果のほどは芳しくなく。どうか、お力を貸してはくれませんですかな?」
「僕はモンスター退治が専門なのですけど、モンスターの仕業なのでしょうか」
「それも、分かってはいないのです。冒険者と呼ばれる方たちも、何度も周囲を探索してくれて入るのですけど」
「モンスターの仕業だとしたら、とても厄介な奴かもしれないな。……分かりました。お引き受けいたします」
初めてのお仕事に心が浮かれ始めるのを感じるが、それと同時に、勇者のいうように厄介だという認識がある。なぜ巨大化しなくなったのか。その原因がボクには分かるだけに、一体どうやっているのかが解らない。
これは、モンスターの知識に疎いからだろうか。後ほど、作戦会議を開くように要請しようか。