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ツッコミ 83 〜お騒がせしました〜

「あなた! ――良かった。本当に良かった」


 ベッドに腰掛ける男性の腰に抱きついたリティは、喜びの感情を爆発させるように涙を流した。


 それを受けて、彼女の頭を撫でる男性――今だ名前を知らない旦那さん――は、満足そうに頷いた。


「こうして喜んでくれるのなら、僕は自分の行いを恥じなくてはならない。ごめんよリティ。おかしな真似ばかりをしてしまって」

「いいの。あなたが無事でいてくれたのなら、私はもう、それでいいの」


 何とも言えない良い雰囲気が醸し出される。それを邪魔してはいけないと、ボク達はそっと、部屋から出た。


 リティがこの船に乗って最初に細工をした部屋。そこに、彼は居たのだ。


「……で、どういう状況?」


 と、理由がわからずにいるのはボクと、腕の中で大人しくしているルートだけ。満足そうに頷いているのは、カナネとシュラナくらいだ。


「そうですね。うーん、先ずは大前提からお伝えしておきましょうか」


 カナネはシュラナを見る。


「そうだね。先ずティアマトの件。あれは今回、全く関係がない」


 ……うん?


「どういうことだよ?」


 そう腕の中でニャーニャーと鳴くルートに、ボクも同意を示す。


「つまり、目的も何もかもがすべて謎で、今現在解決策がないから無視しても構わないってこと。だから、今回の事件というか、フロロやリティ夫妻の件については全く関係がないのさ」


 それはそれで問題だろうけど、それを飲み込まないと話が進まないのなら、今はそれを受け入れよう。


「では、今回の件顛末を推察した話をしよう。今回の件において一番のイレギュラーは、あの旦那さんの行動だった」

「それは何故?」

「僕達がこの船に乗って、船内を案内されていた時。ダイイングメッセージを残すようなサプライズを仕掛けていただろう? 船の中では、あるイベントが予定されていた。で、その前にその騒動が起きていた」


 ……もしかして、乗客がなにか勘違いしてしまう可能性があった?


「もしかして、あのサプライズを知った乗客が、それもイベントの中の要素だと勘違いしてしまったとか?」

「実際に勘違いをしたかどうかは分からない。けれど、イベントに関わる人物が焦ったのは事実だろうね。長い船旅で娯楽が破綻したら、微妙な空気のまま旅を続けなくてはならないから」


 乗客とイベントに関わった人たち、その間は結構気まずいだろうなぁ。海の上に逃げ場なんてないのだし。


「おまけにサプライズだけに飽き足らず、今度は自身の誘拐を画策していたのだから」

「それに気がついたからこそ、その誘拐に協力をして、イベントの早期終了を図ったのです。おそらく、ですけど」


 うーん、一気に話が飛んだ気がする。意図が見えないというか、なんというか。


「なぁ、そもそも二人はフロロがどこにいるか分かっているのか? イベントの早期終了を、ということは、誘拐に協力をしたのはフロロなのか?」


 再びのニャーニャー同意。


「そうですね。というか、その点についてはシュラナさんは早々に気が付いていたと思います」

「え、そうなの?」

「言っただろう、人の体格やら骨格から、ある程度人を特定できるんだ。僕は一度フロロを見ている。だから、彼の変装を見破れる」


 うーん、チート臭い。


「でも、だからこそ分からないこともあった。猫の行方不明だとか、僕たちがこうして船に乗り込んだこととか。どうにも何かが繋がらないような気がしていたところに、誘拐事件の発生。これで完全に繋がったんだ。思い出してみて、誘拐されたはずの旦那は、無事が確認されていたよね?」

「うん」

「誰が確認した?」

「船員でしょ?」


 ……うん?


「え、つまり、フロロは船員に紛れていたの?」

「船員というか、船長がフロロなんだよ。そして、この船を運営する彼らこそ、フロロームなんだ」


 ……えぇ?


「船長とフロロの体格、骨格は、確かに共通していた。けれど、途中彼はステーキを焼いただろ? 転生したというキアは分からないかもしれないけれど、この世界では資格がないと人に料理を提供できないんだ」


 あぁ! なるほど、そういうふうに考えれば、確かに違和感がある。


「それを、彼は客に提供した。そうすると、フロロはこの船の乗組員であることになる」

「船員のこと、船長のことを調べてみれば、特別に乗船を許可されたものがいるらしいという情報も知れるでしょう」

「そこからフロロームの存在が明らかになり――、というのが想定された攻略方法かな」


 けれど、そう簡単にはいかなかった。それは何故か。


「でも、ティアマトが現れてしまった。巨人の存在は多くの乗客が目撃をした。僕らだって、フロロが怪しいと思っただろ? なら、当然他の客もそう思って不思議じゃない」

「そうして、犯人探しは予定外の方向に向かってしまうんです。怪しむべき船員は、ティアマトの問題に対処する人たちだと認識され、フロロは客の中にいるのではないか、と思い込まれてしまうかもしれません」


 そうなってくると、怪しく思えてくる人達がいる。


「そうなってくると、一度騒動を起こした人が怪しくなってくるね」

「だろ? その騒動の裏で、何かを画策したと思われても不思議じゃない。だから、フロロ達は旦那さんが企てた誘拐を利用しようと、仕込みをする彼に接触して、協力をした」

「人が落ちたのかもしれない、という大袈裟な細工、流石に荷物の持ち込みが厳しい乗客では実行は困難ですからね」


 あ、なんか腑に落ちた。この船の乗組員がフロローム、つまりサーカス団だとしたら、舞台に使う小道具が載っていても不思議じゃない。


 それこそ、貨物スペースには乗客は入ることができないのだから。


「ははぁ、あのケースもパントマイムなんかをするためのものだったり?」

「リティさんもそれに気がついたでしょうけれど、フロロームが関わっているとしたら、それはそれで怖かったでしょうね」


 おいこら、なに勝手に辞めとんねん。みたいな因縁つけられたかも? みたいに思っちゃうよね。


「ついでに言うと、おそらく客の中で疑われるとしたら、僕らだっただろうね。猫が行方不明ということで乗り込んだ僕ら。本来は、適当な冒険者を猫の代わりとして乗せようとしたのかな?」

「ノコノコやってきたのが勇者だったから、船長としても面白そうだと思ったのでしょうけど。でも、その立場から疑われることもなく」


 普通に考えたら、フロロが出てきた部屋にいたボクらは相当怪しいもんね。


「いろんなことが重なりすぎて、やたらと複雑になってしまった今回の件。それに加担したようなものの僕らが、豪華賞品を獲得するのは、ちょっと忍びないと思うのだけど、どうだろう」


 今度は、カナネも合わせてニャーニャー同意。だから、船長が船から離れていてちょうど良かったわけだ。


 こうやって、例え廊下だとしてもこっそりと作戦会議ができるのだしね。


 だからこそ、この結末は他の乗客が導き出すまで、ボク達の胸に秘めておくとしよう。……と、ここまではいいのだけど。


「でも、ティアマトの出現はイレギュラーじゃないの? 焦らなかったの?」

「船がモンスターの襲撃に遭うなんて、比較的よくあることですから」

「乗ってる人も大半は冒険者だし、荒事で慌てる奴なんて海に出るなって話だよ」


 ファンタジー怖い。 

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