ツッコミ 82 〜関係〜
一度部屋に戻ったボク達は、気持ちを落ち着かせるように紅茶を飲んだ。落ち着く味である。上の階のものと比べれば味は落ちるかもしれないが、馴染みのある味というのは、どこか肩の荷を下ろしてくれる作用があるのかもしれない。
「あの魔法陣って、なんなのかな」
ボクの問いに、みんながそれぞれ思案をし始めた。
「魔物を生み出すもの、とはなんか違うかもしれないんだよなぁ」
ルートが自信なさげに言う。自身の変化に関わることなので、機関室で見た魔法陣には、なにか気になることもあるのだろう。
「私が思うに、どちらが先なのか。それが問題だと思うのです」
「つまり?」
「仮に、ティアマトの花弁が載った魔法陣をティアマトの魔法陣と呼びましょう。それで、ティアマトの魔法陣があった場所に魔物を生み出す魔法陣を設置したのか、魔物を生み出す魔法陣が置かれていた場所にティアマトの魔法陣が置かれたのか。私が北の大山の研究所で資料を読んだ限り、ティアマトの花弁の研究をしていたことに間違いはないと思うのですが」
そうか、あの研究所に関わる人物がティアマトの花弁を持ち込んで魔法陣を作ったと考える以外にも、その場にあったティアマトの魔法陣を調べて、応用した可能性もあるのか。
「でも、ボクの会ったティアマトは、計画を邪魔した、なんて言っていた」
「ティアマトが魔物を生み出す研究をしていたのなら、ティアマトの花弁なんて調べる必要はないですもんね。まだまだ情報が足りないのだと思います」
「では、目の前のことを考えようか」
シュラナが手を叩いた。
「あの魔法陣が魔物を生み出すことと関係がないのなら、猫を追いかけていたのはティアマトではないと判断できるだろう」
「じゃあ、フロロが追い掛けていたのかな? イベントの仕掛けに使うために」
「そのことだけどさ、この船にいる猫たち、何も気にした様子はなかったんだよな。仲間が居なくなったなら、多少の反応はしてもいいと思うけど」
「ふーん。同じ猫のルートがいうなら、実は猫はいなくなっていなかったのかもね」
「今は魔物だけどな」
笑い合うボク達を他所に、シュラナとカナネは意思疎通をするように見つめ合う。
「よし。彼女に話を聞きに行こう」
「リティさんですね。それが一番早いかもしれません」
それに反論する理由はないので、先行する二人に大人しくついて行く。そして、彼女の部屋を訪ねる。リティと船員の話は終わっていたようで、直ぐにボク達の質問に答えてくれた。
「フロロとの関係を教えてください」
シュラナの問いに、ため息をつくリティ。
「突き止めたのですね。まぁ、別に隠していたわけではなかったのですけど。えぇ、確かに私はフロロのアシスタントをしておりました。ほら、彼の投げるナイフが、私を避けて的に刺さるんです。最初は緊張で、前日は夜も眠れませんでした。けれど、一度も失敗をしないのです。まさに百発百中。彼が一線を退くまで、その信頼が揺らぐことはありませんでした」
「今は信頼していない?」
ボクの問い掛けに、くすりと笑った。
「信頼を寄せる人物が変わったのです。だから、結婚をしたのですね。フロロームも退団することになり、今回が最後の仕事でした」
「どのような内容の仕事なんでしょう」
「貴女が気にしていたゴミ箱も、その仕事の一つです。彼からの手紙を受け取り、ゴミ箱に捨てる。後は、夫と船に乗る前に、一度変装して乗り込むことも仕事でした。そして、偽名で取った部屋を開けて、そのまま降りる。それで仕事はお仕舞いです」
そうして、船旅を楽しむ手筈だった。
「窓の鍵も開けたんですね?」
「はい」
「フロロさんとご主人は、交流はあったのでしょうか」
「親密なものはなかったと思います。彼は、私が的の前に立つのを反対していましたから」
「では、フロロさんを嫌っていた?」
「どうでしょう。でも、彼と知り合ったきっかけは私が出演していたからですし、彼もそこで見たフロロの実力は高く買っていました。それに、彼は立場のある人ですから。フロロームの団長であるフロロとは、活動の面で会談の場が何度かあったかとは思います」
矢継ぎ早に質問をするカナネは、ウンウンと頷いている。
「ピンときました。シュラナさん、私の方が一歩リードでしょうか」
「男女の関係になると弱いな。最初は僕のほうがリードしていたはずだけど」
二人の言っていることはよく分からないけれど、誰かが真相に近付いたのなら、別にボクがしゃしゃり出ることではない。
それはとても悔しいけど。何も分かってないのがすっごく悔しいけど。
「では、最後に一つだけ。旦那様は、今回の仕事のことをどこまで知っていたんでしょう」
「新婚旅行を利用する形になってしまったので、包み隠さずに話しています」
「では、貴女が開けた部屋のことも?」
「はい」
「そうですか。では、その部屋へ行きましょう。今なら船長は船を降りていますし、きっとそこで、片が付くはずです」




