ツッコミ 80 〜微かな違和感〜
夜になり、夕食を楽しんだ。結局それだけの時間をかけてもリティの夫を見かけることもなく、怪しい人物でさえ見かけない。ボク達は食堂で楽しい会話を食事を楽しんだだけ、この時間は終わり。
この後はどうしよう。その話題になった時、一度身代金を置く場所として指定された場所を見に行ってみてはどうか、という話になった。
もしも付近を監視されていて、犯人を刺激してしまったらどうしようか。そう言う恐れから近付かないようにしていたのだが、流石に手がかりがなさすぎる。
意を決して、ボク達は指定された場所、一階の女子トイレへと向かった。中を調べるのはカナネだけであって、ボクとシュラナは外で待っていたのだけど。
「なぁ、キアなら中に入っても大丈夫じゃないか? 見た目だけなら女の子だろ?」
「そう言うシュラナだって、見た目は女の子に見えるよ」
そうして、黙り込む。入っても咎められる要素は全くない二人なのだけれど、やはり、罪悪感というものが常に付き纏うのだろうか。スタートが違うからなぁ。
微妙な空気が二人を包む中、カナネが戻ってきた。
「特に怪しいものはありませんでした。そう考えると、ここを指定した意味、ある程度絞り込めると思います」
どんなふうに? と問い掛ける。
「もしかして、リティさんを部屋から誘い出すためじゃないかな。部屋を無人にして、金庫を漁る」
「そうですね。シュラナさんの考えが的を得ているように思います。金庫を漁るかどうかは分かりませんけれど、彼女が部屋にいると不都合がある、という思惑は確かかと」
そういうことなら、とボクも考える。
「一度は部屋に侵入していて、その時になにか落としてしまったから、部屋に誰かがいては不都合だ。みたいな」
「そういうこともあるかもしれませんね。一度、彼女の部屋を調べさせてもらったほうがいいかもしれません」
言うが早いか部屋に向うと、リティは好きなだけ調べてくれたらいいと迎え入れてくれた。
棚の裏。ベッドの下。申し訳ないけどクローゼット。様々な場所を調べたものの、結果は思わしくない。礼を言って部屋から出ると、また振り出しかぁ、とため息を吐いた。
「で、どうする? 彼女を追い出して、部屋に潜んで待ち伏せしてみる?」
罠を張るようで、ちょっとドキドキしてしまう。けれど、その案はカナネに却下されてしまった。
「いえ、……この部屋は、なるべくそのままにしておきましょう」
そう言って、廊下の先に見えた船員の下へ駆けていく。
「すみません。清掃を担当している人に伝えておいてもらいたいのですけど、この部屋から出たゴミを、取っておいて貰えないでしょうか」
「あ、はい。畏まりました。皆様のことは船長から聞いています。その伝言、確かに伝えます」
そう言って、船員は去っていった。
「……どういうこと?」
「机の下に置かれたゴミ箱、妙に紙が多かった気がしたんです。あれは、手紙かもしれません」
「その場で調べなかったのかい?」
追いつき、シュラナが問い掛ける。
「ええ。だって、あの誘拐が彼女が仕組んだこと、という疑いも捨てきれませんもん」
本当に、バルコニーに置かれたケースの存在に気が付かなかったのか。そもそも、カーテンを閉めていたのは本当にランプの光を楽しむためだったのか。カナネはそのことも深く考えていた。
「私が思うに、この船で起きていることは全てが一つに繋がるわけではないと思うのです。どうすれば、その線引きができるのか。それが肝心だと。シュラナさんも、そう思ってません?」
「思ってる。ただ、誰にとっても予想外な出来事が一つだけある」
二人だけで盛り上がるなよー、と頬を膨らませながら、ボク達は自分達の部屋へと戻ってきた。部屋の前では、一匹の猫が寛いでいる。
「あ、ルート。仕事は終わった? 聞いてよー。二人がボクを仲間外れにする」
「その三人から仲間外れにされている俺に言うことか?」
「申し訳ねえ」
手を合わせて謝罪しながら、鍵を空けたシュラナを先頭に部屋へと入る。
「じゃあ、ここからはワンチームな。ネズミ捕りの仕事もそんなにないし、暇なんだよ。と言うことで、そんなチームの一員から一つ情報がある」
「なになに?」
ぴょんと、部屋の隅でジッとしていた大きな花に飛び乗るルートは、声高らかにこういった。
「機関室に、妙な気配がある!」




