ツッコミ 79 〜全てがそこにある〜
「あー、くそ。訳が分からない」
頭をガシガシと掻いてみたものの、気分は晴れることはなさそうだった。身代金が要求され、何処かに囚われているかと思われたリティの夫。しかし、彼の無事は船員によって確認されていた。
乗客の安全確認は、人が船外に落下した恐れがあるとされたことから始まったものだ。だからこうしてリティの部屋のバルコニーからメモが発見されるまでに、そこまでの時間はかかっていない。果たして、彼は何処にいたのか。ボク達はそれを船長に問い掛けた。
答えは、船員が直接会って無事を確認した。どの船員かは分からない。といったものだった。
「誘拐犯は、人質を連れて歩き回っている、ということなのかな?」
シュラナの問い掛けに、ボクとカナネは答えられない。そうなると、あのメモが記された紙はただの悪戯だったことになる。
「でも、無事は確認されていても夫の居場所は未だに不明。何処で無事を確認したのかも明らかになっていない。正直、訳が分からない」
ボクはもう一度繰り返した。船内を調べようと通路を進むが、いったい何処を調べたものか。
「誘拐されたのか、されていないのか。その事実ですら分かっていませんもんね」
「そうなると、その無事を確認した船員っていうのが怪しく思えてくるよ。猫を追い掛けていたのもその人で、ティアマトだった」
ボクの考えに、二人は難色を示す。
「最後の意見は、時系列がちょっと違うよね。ティアマトが船を出ていった方が先で、落下事件、誘拐事件の方が後」
「それに船長が情報を集約していたところを見ると、報告に来た船員に怪しい人物は居なかったということになります。不審な行動をしていたら、それが分かるはずですし」
「じゃあ、船長が怪しい」
「船の動力は船長がいることによって発揮します。船長が偽物だったら、そもそもこの船は動いていません」
そういう情報は先に言ってよ、と口を尖らせた。
「誰も怪しくない、か」
「ん? シュラナ、なにか気になることがあるの?」
「いや、なんでもない。まだ、いまいち分かってないだけ。それより、そろそろ食事にしても良いんじゃないかな。お腹を満たせば頭も働く、かも」
「あー、そう言えばお腹が空いてきた、かも? ドタバタ続きで、お昼のことなんて頭になかったよ」
「では、食堂で見張っているのはどうでしょうか。食事ができる場所は限られていますから、もしかしたら、お腹をすかせた旦那さんが、ひょっこり現れるかもしれません」
そんな馬鹿な、と笑いながらも、闇雲に探し回るよりはマシだと、ボク達は進路を食堂へと向けた。
「そう言えば、コンパスはどうなってる?」
「えっと、……あら? けっこう揺れてますよ。左右に」
「本当だ。じゃあ、示している場所が複数ある、ということかな」
「あー、そんな気がするね。このコンパスを手に入れた場所と、石板を手に入れた場所は違うし、コンパスもその二つを示しているのかも」
「そうすると、分かりやすい目安は地図から消えた場所、ですね」
ボク達は結局、消えたものを探そうとしている。




