ツッコミ 8 〜散策〜
食事も終わり、ボク達は村の中を散策していた。村長の家は村の奥にあるため、少し遠回りしながら向かうことを選んだのだ。
村長の家に辿り着くには、主に三つのルートがある。一つは川沿いを真っ直ぐに進むルート。もう一つは川の左手に広がる森の中を進むルート。森の中と言ってもそこは木こりの作業場のようなもので、そこに広がるのはすべて植樹されたものだそうだ。
そして最後の一つは畑に囲まれた農道である。ボク達は、その道を進んだ。
「トウモロコシ」
「そう」
「トマト」
「そう」
「ナス」
「そう」
「オクラ」
「違う、シシトウ」
畑に植えられた作物を見て、自分の知っているものかどうかを照らし合わせていく。たまに入れ替わっていたりするものがあるから、ちょっとややこしい。見た目が多少似ているものが多い傾向にある。
例えばこの他でいうと、パプリカはピーマンだった。ピーマンはパプリカだった。青椒肉絲に似た料理はあるけれど、もちろん名前はパプリカと豚肉の炒めもの。入っているのはピーマンだから……あぁ、ややこしい。
「どれも美味しそうに実っているね。キアはどんな野菜が好き?」
「葉っぱが好きかな。お肉を巻いて食べるの」
「……肉食、なんだね」
こいつ、食虫植物を連想したな。
「虫は食べないからね」
「僕も食べないよ。でも、旅をしているとそういう郷土料理があったりしてね。あ、今後、もてなされた時はキアが食べてね」
「ルートが食べるよ」
「ヤダよ!?」
笑い合いながら、ちらりと畑を目に映す。確かに、元気に実っている。食べれば美味しいだろう。でも、違うのだ。足りないのだ。この土地で作物を育てるのなら、この程度では足りなさすぎる。
この村の周辺の土は、おそらく、かなりの栄養を蓄えている。それはひとえに、流れる川が原因だ。流れのもととなる山が余程特殊なものなのだろう。滲み出した栄養が薄まることなく流れ込んできている。
その栄養は、きっと根を腐らせることはない。科学的な栄養とは違うように思う。もっと、こう、魔法的なもの、だろうか。
「ねぇ、シュラナ。この世界の魔法ってどんなものなの?」
「この世界って、おかしなことを訊くね。まぁ、いいや。えっと、魔法は星から溢れ出す魔力を用いるもので、この星で起こり得ることなら再現ができる、って感じかな。まぁ、大袈裟なものには相当な魔力を使うし、その魔力は一度身体の中に入るのだけど、過剰な魔力は毒になるから、起きる現象には制限がかかる。けど、例外はあるね」
「例外?」
「流れ星だろー。あれは魔力を撒き散らすからな」
「そう。流れ星があった時は、とても強力な魔法が使える。流れ星から来る魔力は、毒にはならないみたいなんだ。かつては、それを利用して大きな島を創り出したそうだよ」
なるほど、つまりこの川にはより多くの魔力が含まれている、と考えていいだろう。
――それが、正常な効果を発揮していない?
「シュラナもできる?」
「僕は無理。あ、強力な魔法が、ね。簡単な魔法なら使えるけれど、魔法よりも剣を振るったほうが早いもの」
「そんなこと言って、どうせ魔剣だかなんだか、みたいなのを開発してんだろー。そんで発動するときテンション上がって妙な台詞を吐くんだぜ」
「まっ!? ちょ、まさかルート……、お前、森で聞いていたのか!?」
花弁から飛び出したルートが逃げる。シュラナは追い掛ける。村長の家には、思ったよりも早く着きそうだ。