ツッコミ 77 〜新たな事件〜
悲鳴が発生している部屋は、アシスタントの部屋から三つ離れた場所にあった。中では十代後半だろう少女がぬいぐるみを抱いてへたり込んでおり、必死に窓から視線を背けている様子だった。
「大丈夫ですか?」
「そと、外でなにか、落ちて、人、だったかも」
その言葉に、ボクとシュラナは明け放たれていた窓から飛び出し、バルコニーへと移動する。眼下に広がる大海原は穏やかで、波の白さも殆ど見当たらない。
「何か落ちてる?」
「いや、何も見えない。そもそも、何か落ちていれば僕達も物音を聞いたはずだ」
確かに、と思う。そう考えると、落ちたのではなく、降りたのではないか。
「下に船が待っていたとか?」
「ないな。こんな短時間でいなくなるような船なら、もっと海に白波が立っていたはずだし、いなくなるにしては早すぎる」
落ちていない、と判断するのが妥当だろう。けれど、この船に乗っているのはそう判断できる人ばかりではない。
「念のため、乗客の安否確認をしてきます」
そう告げて走り去っていくイベント責任者の姿を見るに、この事態はイベントとは関係ないのだろう。いつまでも海を眺めていては仕方がないなと、ボク達は少女を駆け付けた船員に任せると、上の階を調べてみることにした。
もしも何かが船から落下したのなら、異変は上の階である筈である。何らかのトリックを使って上から落ちてきたように細工をするにしても、下の階は貨物室になっているため、その可能性があったら保安上に重大な問題がある。そのあたりは、この船を信用するしかないだろうし、あのティアマトが余計なことをしていないのを祈るしかない。
「すみませーん。ちょっとした騒ぎがあって、部屋を確認したいんですけどー」
そう声をかけると、一人の女性が顔を出した。
「はーい、……あら?」
「あ、えっと、……リティさん、でしたっけ」
「はい。昨日は夫が迷惑をかけまして」
「あ、いえいえ、とんでもない」
お互い頭を下げると、それどころではないとシュラナが間に入る。
「すみません、下の階で上から何かが落ちてきたとの目撃情報があったのです。何か不審な物を見ませんでしたか?」
「さぁ、生憎と本を読んでいまして、あまり周りには気が向きませんでしたの」
「旦那さんは、何かに気が付いたりとか」
そう問い掛けると、リティは気まずそうに眉を下げた。
「それが、あのサプライズの後に気まずくなってしまいまして、夫はあまり、この部屋に寄り付きませんの」
「追い出したんです?」
「違います。むしろ勝手に居なくなって不安なくらい」
なるほど。サプライズが不発になって、仕掛けた側が居心地悪くなった感じか。どう返していいか分からない発言に、男性の面もあるボクとシュラナは黙ってしまう。
「念のため、中を調べさせてもらっていいですか? あ、中と言っても、カーテンが閉まっている様子なので、バルコニーの確認を」
「ええ、いいですよ」
話を切り替えたカナネに付き従って、部屋の中に足を踏み入れる。部屋の作りは、大富豪の部屋と大差ない。ゴミ箱すらお洒落に感じるくらいだ。テーブルには一冊の本が置かれており、これが読んでいたものだろう。
「カーテンはいつから閉まっていたんですか?」
「夜からです。この部屋、ランプの灯りがとても素敵で、明るいうちでもカーテンを閉めて楽しんでいたんです」
確かに、ステンドグラスのようなランプシェードから広がる光は柔らかく、居心地の良さを演出している。カーテンの方も刺繍が豪華であり、これを鑑賞するために閉めていても苦でないだろう。
カーテンが開く。強い光が部屋に取り込まれる。一瞬目がくらみ、慣れた頃にバルコニーに視線を巡らせる。
「……なんか、あるね」
「あぁ、あるな」
「ありますねー」
そこには、怪しげなケースが置かれていた。




