ツッコミ 76 〜協力者〜
翌朝、イベント責任者がいるであろう、頭上の部屋を訪ねた。通常の船員の仕事とは一切無縁のようで、綺羅びやかなドレスを身に纏った姿は、昨日とは変わりない。
「フロロさんは、他にも連れてきたりは誰かをしませんでしたか?」
カナネの問い掛けに、責任者の女性は少し思案している様子を見せた。イベントの進行の大きな手助けになるのではないか、との線引きを悩んでいるのだろう。けれど、その答えは淀みなく発せられた。
「それに関しては船長に尋ねたほうがいいかもしれません。人員に関しては秘密にしたいとの申し出がありましたのですけど、それに関しては乗船名簿を確認すれば分かります」
「不審な人物を招く事態になるのでは?」
「なので、船長だけは知っているはずなのです」
なるほど、トップが把握していれば問題ないわけか。と言うより、もしもフロロが協力者を連れ込んだとしても、船長によってその身分は保証されている、と言ったほうがいいのかもしれない。
彼女と共に船長室へ向かうと、彼は身支度を整え業務をこなしている様子だった。
「乗船名簿? ……あぁ、フロロが他に誰かを連れてきていないか、を調べるのだね。それなら、これを見るといい。彼らは特別な手配で乗船を許可しているため、名簿を見ればすぐに分かる」
シュラナが受け取り、開いたそれをボクとカナネが覗き込む。四つのグループに分けられているのは、客室が置かれた階層ごとに分かれているからなのだろうか。その括りの外に二名の名前があった。
「フロロと、エヒロ。つまり、このエヒロと言う人物がフロロの協力者なのですね?」
シュラナの問い掛けに、船長が頷いた。
「このエヒロという名前、聞き覚えがあります。確か、サーカス団でフロロのアシスタントをしていた女性です」
「カナネは会ったことがあるの?」
「いえ、彼と共にステージに立っているのを観たくらいですかね。なので、サーカス用のメイクをした彼女しか知りません」
ならば顔を見てアシンタントだと判断するのは難しいか。
名簿にある部屋番号を見て、簡単な位置情報を頭の中に広げていく。先ず、ボク達の部屋は一階にある。デッキがある部分を一階として、だ。そうすると、大富豪の部屋は二階となる。フロロの部屋は四階。アシスタントの部屋は一階だ。
「一つ、質問をしてよろしいですか?」
シュラナが、改まったように問い掛ける。
「どうぞ」
「船長は、フロロが誰かと入れ替わっている。と感じていますか?」
「ティアマトの件だね。私は彼がこの船に乗り込む際に会ったが、特に不審な様子は見られなかった。あまり、考えたくはないな」
「では、アシスタントの方は?」
「そちらも、変わりなかったように思う」
と言うことは、ティアマトの件とフロロは全く関係がないのだろうか。それを確かめるために、それぞれの部屋を調べてみることとなった。
まず向かったのは、船体最上部にある船長室から近いフロロの部屋。ここは、鍵がかかっていて入ることは出来なかった。
「マスターキーのようなもので、入ることは出来ないの?」
案内してくれている責任者の女性に訊いてみるも、答えはノーであった。
「どうやら、マスターキーは盗まれたようですね」
つまり、そういう設定である。
続いて向かったのは、一階のアシンタントの部屋。こちらは鍵がかかっていないようだったので、簡単に中に入ることができた。かと言って室内になにか怪しいものがあるわけでもなく、簡単に調べてみたものの、そもそも、荷物が置かれた形跡もなかった。
「鍵が開いているということは、一度は人が入っていた、と言うことだよね?」
「ええ、シュラナさんの言うとおりだと思います。おそらくは、この部屋に鍵がかかっていないことが重要だったのではないでしょうか」
「じゃあ、ここに隠れていた可能性もあるってこと?」
多分、と二人が頷いた。
なら、そのアシスタントは何処に行ったのか。既にもう、この船には乗っていないのか。ボクの中で、二つの人物が一致しようか、という時――。
「きゃぁぁぁーっ!?」
開けたままのドアから、悲鳴が漏れ聞こえてきた。




