ツッコミ 75 〜二日目へ〜
部屋に戻ったボク達は、ドアの前で寛いでいたルートと共に部屋に入り、これまでの経緯を説明した。上の階での調査はそれなりに時間を使っていたようで、カナネの持つ懐中時計の針は、天辺付近で揃う寸前だった。
「なるほどなぁ。なんか騒がしくなったと思ったら、巨人なんてもんが出たのか」
「ルートは怪しいやつ、見なかった?」
ボクの質問に、ルートは首を横に振った。マカロンの食べかすが飛ぶのでやめて欲しい。
「怪しい奴はいない。一通り船の中は回ったし、他の猫にも聞いてみた。ネズミも粗方捕り終えたから、港に着くまでは呑気にブラブラしているだけでいいと思う」
「随分と仕事熱心だな。ネズミの数が少なかったのか?」
「シュラナと違って優秀だったんだよーだ。巨人と戦うくらいすればよかっただろー」
「この部屋からは見えなかったんだよ」
不貞腐れたようにいうシュラナは、本当に戦いたかったように舌打ちをした。
「いや、あの場で戦って、巨人が動いて波でも起こされたらたまったもんじゃないからね」
「あー」
ルートとシュラナは、基本的には似た性質だと思う。ぽかんと口を開ける仕草なんて、そっくりだと言えるだろう。
「ではルートさん。不審な人物は見なくても、不審な物を見たりはしませんでしたか?」
「さぁ、特に変なものはなかったと思うけど?」
カナネの質問にルートは首を傾げる。思い当たるものは無さそうであった。この質問、ボク達が上の部屋を調べていた中で判明したことに関係がある。
怪盗の行動で明らかに不審に思うことが一つあるのだが、それは避難通路が開放された筈なのに、バルコニーを伝って部屋を脱出していたことだ。ボク達は宝石を持って降りてきていた、つまり服の中に隠し持っていたのではないかと思っていたのだが、それは違った。
「そうですか。それが盗まれた宝石というのがですね、なかなか大きな原石らしいのです。何処かに隠されていると思ったのですが……、まぁ、そう簡単には見つかりませんよね」
ジュラルミンケースのような物に入っいたと、大富豪役の船員は言っていた。けれど、ここで彼を目撃した時にそんな物を所持していなかったのは、ここにいる全員が証言できるだろう。と言うことはここに降りてくる前に、避難通路を開放して運び出していたことになる。
ならば何故、部屋の中にいたのか。そして、金庫から取り出そうとした場面を目撃されたのか。その取り出そうとしたものは何処に行ったのか。
「なぁ、話を聞いていて疑問に思ったんだけど、怪盗は金庫から何かを取り出そうとしたところを発見されて、逃げ出したんだよな?」
「そうだよ」
「その時持ち出されたものはどうなったんだ?」
「彼がこの部屋に降りてくる間に消えた」
そう言えばイリュージョンのように聞こえるけれど、仕掛けは至ってシンプルだ。
「簡単なことだ。上の階のバルコニーに投げたんだよ。その後に、怪盗はこの部屋に降りてきた。言ってみれば、その時に盗んだように見せるトリックだね。だから、投げたケースには何も入っていなかった」
実際に、現場となった部屋の上の階も調べてみた。既に他の乗客が調べた形跡があり、件のケースもバルコニーから部屋の中に移され、無造作にベッドの上に置かれていた。勿論そこに人は泊まっていない。
「つまり、宝石が盗まれたのはもっと前なのです」
「それが、どんなヒントになるんだ?」
「怪盗の行動です。怪盗は上の階のバルコニーから現場に降りて宝石を盗み出し、避難通路に潜んで廊下の様子を窺います。そして、大富豪が戻ってくるのを確認すると部屋に戻って金庫から宝石を取り出す素振りを見せて、目撃させる。それを上の階に投げて、自分は下の階へ移動する」
「じゃあ、宝石はまだ避難通路なのか?」
「いえ、もう一つ細工がありました。それは、この階で目撃されたことです」
そう、この部屋から出ていったときに、バッチリと目撃されているのだ。その時は残念な人のように思えてしまったけれど、それにはちゃんとした意味がある。
「現場に集まった人達は、勿論このイベントに参加の意思がある人達です。目撃情報が出たのなら、直ぐにこの階へ移動するでしょう」
「あ。じゃあ、その隙に宝石を運び出したのか」
「その隙にと言うより、現場に人気がなくなったのを確認して、ですね。保冷庫が機能していないことに気付かれては台無しになってしまいますから、かなりシビアなタイミングだったかもしれません。ここで会話をしたの、そのタイミングを計るためかも。となると、目撃者もグルだったとしか」
企画立案の船員によれば、フロロはマネージャーとも言える人物を連れてきているという。その人に接触するのはアンフェアかもしれないが、ここは自分たちの立場も有効に利用させてもらうとしよう。
それで解決できない場合。会うことができなかった場合の問題は、フロロのその後の足取りになるだろう。宝石をどこに隠したのか。おそらく、乗客は各部屋を探索して探し出そうとしているだろう。念のためこの部屋も確認してみたし、僕たちが戻ってきたことによって、部屋の中を見せてほしいと言った人も何人かいた。
「とりあえず、もう他の部屋を訪ねるには遅い時間だし、今日――とは言えない時間だけど、もう寝ることにして本格的な捜索は明日にしない? っていう感じ」
ボクの言葉にルートは頷いて、自分も注意して探してみると言ってくれた。
こうして、船旅一日目は幕を閉じた。二日目もまだ海の上である。仮にフロロがあの時逃げたティアマトが成りすましたものだとすれば、逃げ出すタイミングはあの時しかなかった。明日の内に探し出せれば、これほど分かりやすいものはないのだけど。




