ツッコミ 74 〜ヒントを求めて〜
ボク達が泊まっている部屋の真上に位置する部屋が、宝石を盗まれたという設定になっている大富豪の部屋だ。実際の彼女はただの船員であることは、カナネが船長から聞き出していた。
「で、今回のイベントの責任者は、貴女ということで間違いないんですね?」
「はい。私が企画立案して、フロロームに交渉をしまして団長様に来ていただきました」
彼女にもボク達の事情は伝わっていて、猫の件と今回の事件、それに巨人の目撃に関連しているかもしれないということで、協力をしてもらっている。
部屋の造りは下の階よりも豪華であり、家具の質も大分違う。バルコニーの形はボク達の部屋と変わりなかったから、部屋も大差ないと思っていたが、だいぶ違うようだ。淹れてもらった紅茶の味も、どこか違うような気がしてくるほど。お茶請けのマカロンも絶品であり、ルートのためにいくつか持ち帰ろうと思う。
そう言えば、最初に遭遇した傍迷惑なサプライズ夫婦の部屋もこの階だった。あの時は部屋を見ている余裕はなかったが、確かに、このように豪華だった覚えがある。
「隠れているフロロさんと連絡は取れないのですか?」
カナネの質問に、彼女は首を振った。
「無用な接触はイベントの難易度に関わると思って、基本的には彼の自由にさせています。決まっていたのは、ディナーの際にシェフと入れ替わることくらいでした」
「そこだけ決めていたのは、どういった意図なのです?」
「彼からの提案です。変装の完成度を図るために、シェフとの打ち合わせが必要でしたので」
なるほど。変装するだけなら入れ替わる必要はないのだけど、変装した時にちゃんとその人に与えられた役割を果たせるのか、というのを確かめたかったのか。
例えば清掃係に変装したとして、掃除をしていなかったら怪しまれる。特に調理に関するものは客の反応をダイレクトに受けるだろう。実際、料理の腕は良くなかった。
「ぶっつけ本番で試してみたのですけど、料理の腕に関してはあんまりだったみたいで、不審に思った乗客は多かったみたいです」
「ええ、私達も不審に思いました。でも、今後はそのチャンスは誰にも分からない」
「はい。彼も苦手なものを意識したでしょうから、今後の変装はもっと上手くやるはずです」
「貴女がフロロさんである可能性は?」
「浴室に行って、脱いでみせましょうか? さすがに、体型までは変えられないと思います」
チラリと、カナネの視線がシュラナを向く。
「骨格の感じはフロロとは全然違う。紅茶を入れる際の動作も確認したが、彼が変装したとして、あの様な動きはできないだろう」
ここは武闘派の観察眼を信用しよう。
次に、部屋に何らかの手掛かりがないかを確認する。たしか、設定としては宝石が盗まれたというものだったと思う。その宝石は、室内に備え付けられた金庫に入れられていたそうだ。
「金庫を開けて盗み出したんですね?」
「そうですね。取り出しているところを目撃して、叫んだところでバルコニーから逃げ出した、という設定です」
そして、ボク達は降りてきたフロロと遭遇した。どうやら彼女の方にも、ボク達が部屋にいることは伝わっていなかったそうだ。
「私達も準備がありましたので、船長との打ち合わせの時間が取れなかったのです」
「準備というと?」
「船内の案内をしていました。隠れ場所を検討したいというので」
「乗客が立ち入れない場所も案内しました?」
「いえ、そのような場所は案内していません。案内図に則って案内しましたので、乗客の方が探せない場所には居ないはずです」
そうなると、貨物室のような場所にも入り込まないと言うことだろうか。一応は猫の立場であるルートなら、おそらくそのような場所にも入っていけるだろう。念のため、確かめてもらった方が良いかもしれない。寝るときには部屋に戻ってくる手はずとなっているため、その時にでも。
豪華な家具を傷付けないように、慎重に調べていく。ベッドの下やタンスの裏。クローゼットの中もしっかりと。その結果――。
「この保冷庫、機能が停止しているようですが?」
「まぁ!? では、避難通路が使われたのですね? あぁ、恐ろしいですわ」
急な演技が始まったということは、ボク達はヒントを得たということなのだろう。それが何を意味するかは、これから調べることになる。




