ツッコミ 70 〜デジャヴ〜
船体後部にあるデッキでは、乗客はほとんど見られなかった。前方にあるデッキとは違い、いくつかのベンチがあるばかりであるため、さほど人気はないようだ。
その前方のデッキ、先ほど覗いてみたのだが、なかなかの施設が揃えられていた。大きなプールはあるし、バレーやバトミントンができるコートもある。ボールが船から落ちてしまったらどうするのか、と思ったのだけど、ボールやシャトルには魔法陣が刻まれており、船外に出たら自動で戻ってくるようになっているそうだ。
そんな賑やかな空気から逃れるように、ボク達は此処へ来た。
「きゃー、スカートが捲れちゃうー」
「履いてないよね?」
履いてないです。
「シュラナは冷静だなぁ。ボクはね、前々から不満に思っていたことがあるの。それは、このメンツには激しめにツッコんでくれる人材がいないということ!」
「そういうのは、言い出しっぺがやるものでは?」
カナネが冷たい。まるで潮風の……、というか、太陽の向きの関係だろうが、この後部デッキは日が当たらないから寒いんだよね。夏が始まるまでに、まだ時間はあるからなのだろうか。この世界の夏がどのような感じになるのか、ちょっと楽しみである。
「じゃあ、激しめに突っ込んでみるから、テキトーにボケてみて」
「キア、好きだ。付き合ってくれ」
美人に言い寄られたら照れる。
「キア様は、そういうストレートな物言いに弱いのですね」
「いやいや、美人に言い寄られたら誰だって照れるでしょ」
「そこで突っ込めないからダメなんです」
「なんて言えばいいの?」
「俺にそんな事を言う奴は詐欺だ、とか」
悲しくなるようなことを言うなよ。
あぁ、海はセンチメンタルの権化。まるで昔の思い出が蘇るようだ。……あの日、かつての人生で大学に入ったばかりの頃、ボクは海水浴に出かけていた。友達と一緒に、だ。
当然、男ばかりなのだから、ノリというものも男特有のものになる。となれば当然、ナンパしてみようぜ、ということになるわけで。ボクは思い切って、海の家で買い物をしていた女性に話しかけたのだ。
――この後、一緒に遊びません?
――いいですよー。かき氷、千円ですって。一緒に食べましょう。
――あ、じゃあ、僕が払います。
――ありがとうございますー。
その後、お代を払ってかき氷を手渡そうとしたら、彼女は何処にもいなかった。その足元は、何故か濡れていたのだった。
……あれは本当に怖かったなぁ。だけど同じ目撃者となった海の家の店員とは、同じ思いを共有したことで、またたく間に仲良くなったのだ。もしも、かつての世界も夏の訪れを待っていたのなら、彼もまた、海の家の準備に勤しんでいるのだろうか。
……あれ、そう言えばあの時の女性、誰かに似ているような? なんとなく、最近見たような、あまりのことでその印象が抜け落ちたような、――あ! あの神様だ!?




