ツッコミ 69 〜巨人の話〜
ちょっとした手違いのようなもので、ボク達の部屋に現れたフロロ。サーカス団の団長をしており、今回、ちょっとしたイベントのために、怪盗役をしているらしい。
バルコニーから現れたという衝撃と、しばしの間、この部屋で身を潜めるという本来のシナリオから、少しの間、気不味い空気が部屋の中を包み込んだ。
――何か話したほうがいいのかな?
シュラナがボク達に視線を向けるけれど、正直、初対面の人に対して空気を和ませるような話題を提供できる力は、ボクにない。そして、それはシュラナも同様だ。
縋るように、二人でカナネに視線を向けた。
「フロローム、というサーカス団は、私も知っています。一度、観客案内のアルバイトをしたことがあるんですよ」
「おぉ、そうでしたか。サーカスのテントは暗かったり狭かったりとで色々ありまして、ギルドを通して応援を頼むこともあるんですよ」
「ええ。私もそれで参加しました。しかし、その団長が、このようなイベントを担当するとは思いませんでした」
「そうかな? 基本的にサーカスのほうは、優秀な人材がいるから、それだけで回していける。むしろ、指示を出すやつがいては邪魔なくらいだ。だから、こういう時に私が出張るのです」
そういうものなのかぁ。と、ボクは納得しながら聞いていた。
「確かに、私もその時の公演――、演目のなかで団長様のお姿をあまり見かけませんでました。司会をしていらっしゃいませんでした?」
「ええ、していました。優秀な若手に追いやられてしまいましてなぁ。はは、こう見えてナイフを投げては百発百中と謳われたのですよ」
「この船でのイベントで、それが見れたりするんですか?」
「それは、秘密ということで」
言葉遣いが変わったのは、警戒が解けたからだろうか。カナネの中で、逃げた猫の件と彼はリンクしなかったのかもしれない。
「世界を股にかけている、と聞きましたけど、その中で巨人の伝説なんて、聞いていらっしゃったりしません? 私達、興味本位で調べているのです」
「あぁ、それはあれだろう? この大陸は巨人が履いたブーツだと。私も気になって、調べ見たことがある。ローカルな伝説などを交えて話すと、受けが良いからね」
あれは確か――、と思い出すように語られていく。
大陸が巨人の履いたブーツていうのは、あくまでも伝説のことであり、むしろ、この大陸で巨人を目撃した、という口伝の方が多かったそうだ。
それは戦争よりもはるかに前のことで、モンスターの発生から暫く経ってからのことだったらしい。
「主に目撃談があるのは、三カ所。北の大山。地獄の谷底。波の山脈。その付近で語られていたかな。北の大山に関しては、いつの間にかブーツを履いた伝説が飲み込んでいったようだが」
「北の大山というのは、私たちも登ったあの山です」
カナネがボク達に分かるように教えてくれる。
地獄の谷底というのは隕石によって作られた大きな谷で、まるで底なし沼のように、近くの川から流れ込んだ水が泥を作っているらしい。
そして波の山脈。これも隕石の落下の衝撃によって生まれた山脈らしく、船を飲み込むような大きな波に似た形をしているそうだ。
「どの土地も、隕石に縁があるんですね」
「そう。それが不思議なところだよね。地中に眠っていた巨人が、隕石によって目を覚ました、なんて説もあったようだよ」
……それって、秘宝の隠し場所にも関係があったりするのだろうか。
「ねぇ、シュラナ。北西大陸にもそういう伝説はないの?」
「分からないなぁ。部族によって伝わっている伝説も違うからね。うちの部族だと、海の底に楽園がある、とか」
「お、君は北西大陸の出身かね? その伝説も聞いたことがあるよ。なんでも、隕石に乗った宇宙人が、海底に住むようになった、なんて説もあるね」
「じゃあ、シュラナも宇宙人の血を引いているかもね」
「そういうキアも、宇宙人みたいなものじゃないのか?」
……あ、そう言えば、モンスターは隕石と共に来た、なんて話もあるんだっけ。
「……すみませんが、話はひとまずここまで。上の階に人が集まりだして、この階の人出も少なくなるでしょう。今のうちに、他の場所へ身を隠させてもらいます」
「あ、はい。では、次は私達も、あなたを見つけられるように努力しますね」
「ええ。再会を楽しみにしています」
そう言って、彼はドアから出ていった。
「きゃぁぁぁっ!? 怪しい人が!?」
早速見つかってるじゃん! と、ボク達は声を揃えて突っ込んだ。あの人、本当にすごい人なの?




