ツッコミ 68 〜気まずい部屋〜
任された仕事であるネズミ捕りを、形なりにも果たしておこうと部屋を出ていったルートを見送り、ボク達はのんびりと、船内の案内図を眺めていた。
「客室は船の上部の四階を占めているようですね。甲板がある階が境目になっていて、それより下が貨物を積み込む場所と、機関室」
「機関室って、どんな場所なのかな?」カナネの説明に問いかける。
「魔法陣があるくらい、だと思いますよ。ちょうど、一番大きなマストの下ですかね。部屋の中にいくつかの魔法陣があって、それが船を動かしています」
スイッチ用の魔法陣が操舵室にあり、それをオン・オフすることで細かな操縦をしているという。
「そこって、立ち入り禁止かな?」
シュラナの問い掛けに、カナネは頷いた。基本的には立ち入り禁止で、入られるのはメンテナンスの時のみ。船員ですら、おいそれとは入られないらしい。
「そういうのも、ギルドで習ったの?」
「はい。色んな講習会が無料で開かれているので、暇つぶしによく参加していたんですよ。お菓子も貰えますし」
最後の一言が目的では?
「それより、私達もそろそろ行きましょうか。鍵は……、シュラナさんに任せますね」
「分かった。まぁ、一応は勇者ということで信用を得ているからね。僕以外が開け閉めをしていたら、都合が悪いかもしれないし。で、目指すのはデッキだと思うけど、前と後ろ、どっちに行く?」
「男は黙って前!」
ノリよく元気よくそう言うと、二人はキョロキョロと辺りを見回す。……男が居なかった。
「きゃぁぁぁ!?」
そんな、シーンと静けさが漂いだした部屋の中に、けたたましい程の悲鳴が響いてきた。
「上の部屋から聞こえる!」
発生源に気が付いたシュラナが、バルコニーから確認できないかを確かめるために椅子から腰を上げようとした――、その時。
バルコニーに、白いスーツを着た、派手なメイクをした男らしい人物が、ロープを伝って舞い降りた。
「ふぅ。ひとまず成功。あとはここでしばらく様子を――」
海に視線を向けていた彼が、ゆっくりと振り返る。降りてきたときにちらりと見えた顔は、やはり派手なメイクをしているようだった。ピエロ、とでも言えるのだろうか。不気味というよりも、なんだかおかしくて笑ってしまいそうな風貌だ。
視線が交わって、しばらくの間沈黙が流れる。上の階では船員が到着したようで、何やら騒ぎになっている雰囲気が感じられた。
「――え、このは空き部屋では?」
「あ、すみません。急な依頼で使わせてもらうことになったんです」
こういう時、冷静なカナネって本当に凄いと思う。
「あぁ、えっと、じゃあ知らないのか。今、実はアクティビティの一つで、怪盗を探せという催し物が開かれていて、そのこれが始まりの合図、というか」
……。
「あ、じゃあ、捕まえれば良いんです?」
「あ、いや、それでは話が終わってしまうので、その、出来れば少しの間、協力してもらえないかと」
「本当に不審者ではないと、証明できます?」
「あぁ、はい。それはもう。こちら、名刺になります。世界を股にかけるサーカス団、『フロローム』団長の、フロロと申します」
「あ、ご丁寧にどうも。私は冒険者をしているカナネです。こちらは、シュラナとキア」
よろしく、とお互いに頭を下げると、またしばらくの沈黙が訪れた。
「……あ、ボク、お茶を買ってこようか?」
「あぁ、いえ、お構いなく」
そうして、また沈黙が訪れる。
お構いなくと言っても、名刺を貰ったからといって知らない人を部屋に残しておけるはずもなく、ボク達はただ、時が過ぎるのを待つしかなかった。




