ツッコミ 66 〜サプライズは計画的に〜
「きゃぁぁぁっ!?」
そんな悲鳴を聞いた時、ボクは不謹慎にも、ドキドキと、ワクワクとした感情が胸を占めたのを理解した。
客室に向かう廊下を歩いていた時のことだ。通路はなかなか広く、車一台くらいなら走れるのではないかと思うほど。赤い絨毯が敷き詰められ、ルートがご機嫌で歩いている。
壁に取り付けられたランプの光は、淡く優しい。しかし適度な光量のため、しっとりと、モダンな光景が目に広がる。例えるなら、かまくらの中でランタンをつけた時のような感覚だろうか。
とても居心地の良い廊下だと、ボクは感じた。
そんな廊下を、ボク達は駆け抜ける。既に声が聞こえた部屋には、船員であろう人が数人駆け付けていた。中を覗き込んで、驚きの表情を浮かべている。
「どうしたんだっ!?」
案内をしてくれていた船員が声を掛ける。階級が上の立場だったらしい。
「叫び声を聞いて見に来たのですが、その、男が一人倒れているんです」
「なにっ!?」
早速、ボク達の仕事が始まったのだろうか。それぞれと目を合わせて頷き合うと、揃って開け放たれた扉から中を覗いた。
……確かに、男が一人倒れている。その胸にはナイフが突き刺さり、真っ赤な血が滲んでいる。床に敷き詰められた絨毯には、あまり血は流れ出していないように思えるが、倒れた男の直ぐ近く、左脇腹付近に、何らかの文字が見えた。
「なんか書いてあるけど、読めない」
「あれは、『あい』って書いてあるんですよ。ダイイングメッセージですかね?」
「ダイニング?」
読んでくれたカナネに、シュラナが定番の聞き間違いをしてくれた。
「死の間際に、誰かに伝えたいメッセージだよ。例えば、犯人の名前を残しておく、とか」
「じゃあ、『あい』って奴が犯人なのか?」
現場をうろつくルートが問い掛ける。
「因みに、発見者の方は、どうしてこの部屋に?」
「此処は、私と夫の部屋なんです。少し用事があって私だけ出ていて、戻ったらこんなことに……」
「貴女のお名前は?」
「リティです」
どうやら、『あい』は関係ないらしい。
「あぁ、あなた。一体どうしてこんなことに」
崩れ落ちそうな彼女の体を、船員が支えた。
「……そもそも、こいつ死んでんのか?」
……ルートの問い掛けに、誰もそれを確認していなかったことに気が付いた。つかつかと、カナネが近付いて行く。そして、首に指を這わせた。
「……めっちゃ生きている」
いつしか、ボク達は倒れた男を取り囲むようにして立っていた。
「……ちょっとした、サプライズだったのです。『あいしている』と書こうとしていたら、思ったよりも早く、妻が戻ってきてしまって」
「新婚旅行で何してんのよあんたはっ!?」
懐かしの、成田離婚を思い出す。キア、心の俳句。




