ツッコミ 64 〜そうして、船は出航した〜
「猫の溜まり場、なぁ。船で旅をしているような猫が、そんなところに行けるかねぇ」
宿屋に戻り、既に寛いでいたシュラナとルートに依頼のことを相談すると、直ぐにルートが難色を示した。
「仲間のいるところに行きたがらないの?」素朴な疑問。
「此処は港もあるだろ? 漁業用の船も止まるから、たまに漁師が魚をくれたりするんだよ。その関係で縄張りが結構、きっちり決まってる。誰が優先的に貰えるかで優劣がつけられて、その猫を中心に縄張りが出来るんだ。だから、新人が紛れ込んだら即喧嘩。人に飼われた良い子ちゃんじゃ、直ぐに逃げ出すだろうな」
「じゃあ、ルートも逃げたんだね」
「なんだとー。俺はもう、縄張りを奪ったもんね!」
頭を撫でようとするボクと、逃げ回るルートの攻防。
「そうなると、探すのは厄介だな。常に移動しているようなものだろう?」
「シュラナさんの部族って、獲物を見つけるような感覚が冴えているとか、そういうのありませんでしたっけ?」
「魚群だったら、ある程度は察知できるんだが、……猫って魚?」
猫の話を肴にして飲む人もいるだろうけれど、魚自体ではないと思う。となると、八宝菜。もとい、八方塞がりと言うやつだろうか。
「じゃあ、さ。とりあえず貨物船に行ってみない? 逃げ出した時の状況とか、その子の性格とかで推理できるかもしれないし」
「日向ぼっこが好きなら、日の当たるところにいるかもしれない。そういうことですね」
そうと決まれば即行動。ボク達は港へ行き、依頼を出した貨物船を探し出した。
サイズの違う船がいくつもの並んでいたが、目的の船は一番大きく、そして立派な帆が畳まれている。ただの船ではない。一目でそう思った。
「魔導式大型帆船ですね。船艇と、帆に魔法陣が刻まれていて、大型ながら高速で、安定して物を運べるんです。旅にも快適ですよ」
「てことは、お高い船なの?」
「船自体の製作費で言うなら、お高いです。でも乗ったり荷物を運んでもらったりは、そこまでではありません。部屋にもよりますけど。ただ、国営の物資運搬船ですので、乗れるのは重要な物をに限られます」
「例えば?」
「重要な案件を抱えている、冒険者や騎士、調査員への補給物資です。人員の補充なども行っているのですが……。本来なら、調査団もこれに乗ってくれば早かったのですけどね」
「乗り遅れちゃったとか?」
「いえ、地下に研究所があったということで、地下に怪しい空間がないかどうかを調べながら来るそうです。まぁ、今の私達と同じ目的ですね」
なるほど。進んでいるように見えて、ボク達は一歩出遅れていたのか。
「頭の良いやつがいるんだなー」
「そりゃそうですよ、ルートさん。向こうはそういう事を調べる専門家なんですから。私達は、目に見える範囲でしか動けません」
「ルートは全く動いてないけどね」
ティアマトの上で垂れている猫、微塵もやる気が感じられなかった。
「同じ猫が行方不明なんだよ? もっと気合を入れて、探してやる! っていう気にならないの?」
「俺、モンスターだし」
まぁ、そうなんだけど。
「猫の直感で、心当たりとか?」
「そうだなぁ」
そう言って、周囲をじっと眺める。港は広く、いくつもの桟橋がある。泊まっている船も多い。
「俺だったら、別の船に逃げ込む」
「それだと、他の船の運航を止められていない今では、かなりお手上げ状態ですね」
既に出航した船に乗っていたら、この場でできることはもうない。
「話を聞きに行っているシュラナが、何か有益な情報を得てくれたら良いんだけどね」
しかし、戻って来た勇者によってもたらされたのは、情報ではなかった。
「船の人と話をしていたんだけどさ。もう出航まで時間がないから、代わりの猫を見つけたいんだって。うっかりルートの話をしたら、是非って。だから、ちょっとだけ船旅をしよう」
何その展開。




