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ツッコミ 6 〜初めての宿〜

「すみません、二部屋お願いします」


 宿屋は大きかった。二階建ての建物の二階部分が客室であるが、部屋数はなんと三十もある。それほど広い村のようには見えなかったが、なにか客を呼び込むようなものがあるのだろうか。

 一階には大きな浴場や遊技場、更には劇場まであるというから驚きだ。


「こいつは驚いた。もしかして、樹神様(じゅがみさま)かい? ここ何十年と姿が見られなくなって、すべておらんくなったと言われておったのに。おぉ、ありがたや、ありがたや」


 急に宿主に拝まれると、戸惑いしか感じない。後は照れ。頬の赤みを隠すかのように、そっと頬に手を添えた。


 ……それどころじゃねぇ!


「キアのことを知っているんですか? モンスターかと思っていたのですが」

「モンスターはモンスターなのですが、俗に言う神様に括られる存在ですじゃ。ワシの若い頃も居らんかったなぁ。昔はよく見かけたそうでの、樹神様が暮らす森は豊かになり、立ち入る村や町には繁栄が訪れると言われておった」


 これがサービスか!


「しかし花弁をすべて剥がされると死んでしまうそうでの、いい匂いを永遠に放ち続ける花弁は富の象徴とされ、乱獲されたそうじゃ。今ではそれを反省し、最優先で保護されるべきモンスターに定められておる。勇者様と共にいれば、安心じゃな」


 悪戯好きの猫も一緒にいるのだけど、それは安全なのだろうか。まぁ、気を使ってくれているのか、花弁の中で身動きをしなくなってしまったので大丈夫だろう。


 それはそうと、ボクの花弁はそう簡単には剥がれることはないと思う。だからこそ、それを無理やり剥がされるというのは、とても苦痛なことだっただろう。


 その苦痛を例えるなら、親知らずを無理やり引き抜くものだろうか。……想像しただけで痛い。せめて抜けかけの乳歯にしてほしい。


「シュラナ、もしもボクの花弁が毟り取られたら、仕返しに相手の髪の毛を毟り取ってほしい」

「それで釣り合うのかい?」


 命の代償がハゲはないかぁ。


 そんな会話を笑いながら聞いていた店主の案内で階段を登り、部屋へ通された。一人にするのは忍びないからと、広い部屋に二人一緒である。勇者はもじもじとしていたけど、一人旅をしていたくらいだから、誰かと一緒の部屋にいるのは落ち着かないのかもしれない。


 ボク自身、親兄弟以外と宿に泊まるなんてこと、修学旅行以来だ。あの頃、寝過ごして教師から電話がかかってきたという、珍しい体験をしたもんだ。

 めっちゃ焦った。同室の子と顔を合わせて、めっちゃ焦った。めっちゃ焦ったときって、茫然とするよね。


「花弁、大丈夫か? 俺がいて痛くないか?」ベッドに着地した猫が、心配そうに見つめてくる。

「丈夫だから、大丈夫。丈夫だけに」

「安心したぁ」


 失笑する勇者もベッドへ腰を下ろした。こういう駄洒落が通用してくれて嬉しく思う。この世界なら、ギャグマスターになれる可能性もあるのではないか。


「布団が吹っ飛んだ!」

「なにそれ、魔法?」


 こういう駄洒落は効かないのか。学んだ。


「それにしても、そんなに凄いモンスターだったんだ」

「ボクも知らなかったよ。勇者と樹神様、凄い組み合わせだね」

「護るからね」

「護られますね」

「護ってみせろよ!」


 ニャーニャーと賑やかに部屋中を駆け回る猫を見て、二人で笑い合った。


 一通り部屋の中をチェックをした際に、一つの疑問が頭を過った。この身体は、ベッドで横になってリラックス出来るのだろうか。

 椅子に座れないのは確認済みだけど、立っていても苦にならないから問題はない。森にいた時もそのまま眠っていたから、今更ベッドを使わなくても良いのだけど……。


「お前、花弁から蜜が滲むこともあるから、ベッドは使わないほうがいいと思うぞ。俺も汚れそうになった」


 花は、立てておいておくに限るってか。 

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