ツッコミ 56 〜ボス戦は唐突に〜
「と言う訳で、何故か下半身が生えました」
懇切丁寧に説明したものの、二人の顔にはハテナのマークがしっかりと浮かんでいるように感じられた。分からないことが分かった、と言った感じなのだろう。
「まぁ、それについては、案外、研究所を調べれば分かるかもしれないし、今はこのプリティな御御足を堪能して?」
「確かに可愛いのですが、服を着ていると、樹神様成分が皆無ですよね?」
ポンポンと、頭を撫でてくるカナネが言う。確かに、と思うのだけど、せっかくの二足歩行を手に入れて、また蛇のように歩きたいか、と言われると答えはノーだ。
解放された巨大な花、かつて下半身だったそれは静かに佇んでいて、ボクが動けば付き従うように付いてくる。専ら、ルートの動くベッドと言ったところだろうか。
「でも、これに命令している感じは樹神様っぽくない?」
「ルートが乗ってたら、操っているのは猫の方だと勘違いしそうだね。それより……、キアが抜けたあとってどうなってるの?」
「ぽっかり穴が空いてた。入ることも出来るけど、なんかネチョネチョしてて気持ち悪い」
「蜜が溜まっているんでしょうか?」
もしそうだったら、採取しやすいのだけど。
「ともあれ、うちのティアマトを助けてくれてありがとう」
「あ、そういうふうに名付けたんだ」
「うん。一応、ボクはキアと名乗っているからね。ちょっとした区別」
「あれ、でも、キア様って書類にはコキアって書いてましたよね? それはどういった区別です?」
「ノリ」
「キア様って、そういうところがありますよね?」
「キアだからねぇ」
二人で勝手に理解し合われると、なんだかちょっぴり悔しいような、悲しいような。でも、仲良くなっくれて嬉しいような。
「そんなことより、早く先に行こうぜー」
「先頭を切る人が、一番のんびりしているからね? 早く行きたいなら降りなさい」
「はーい」
そうして、雑談も終わり、奥へと進む。
道のりは息を呑むほど一直線であり、特に怪しい仕掛けなどはなかった。景色も変わらず、相変わらずな岩肌。コロッケの姿は見えなくなっていた。
誰しも、怪しいと思うだろう。事実、警戒するようにボクらは無口になっていた。
しばらく進むと、広い空間に出た。円形。いや、球体。天井はドーム状で、地面もボウル状になっているから、ほぼ球体の空間と言えるだろう。
ただし、湾曲した地面は水で埋まっているため、行動範囲は限られる。広さはそれこそドーム球場くらいはありそうに思う。さしずめ、僕たちが今いるところはベンチ、と言ったところか。
「不自然に明るい。初めて洞窟の全体像が見回せた気がするよ」
シュラナの言う通り、今までの五メートルという制限は撤廃されたのか、この広い空間は昼間のように明るくなっている。そのため、反対側にあるさらに奥へと続く道も、しっかりと確認できた。
「泳いでいくしか、ないんでしょうか?」
「いや、カナネ。上を見ろよ」
彼女の疑問に、ルートが答えた。明るく見渡せる空間内の一番頂上。天井に、何かがいた。その見た目は――、まるで――。
「うえぇ。でっかいミミズが顔を出してる」
ひと目でミミズと分かるビジュアルであった。
「いや、顔ではないんじゃないかな? ほら、見てみなよ」
一度背けた顔を、シュラナの言葉に合わせてもう一度それを直視する。……なんだろう。少し、太くなった? その直後――。
「あ、顔だった」
牙だらけの口が開いた。そして、何かを産み落とす。
「いや、でも口からコロッケなんて産むか?」
「口からコロッケを産む。そんな化け物がいたって良いじゃない。化け物なんだから」
「襲ってきたあのコロッケ達は、こうして産まれていたんですねぇ」
感心するカナネとボク達。それに対して、一人冷静なルートは、産み出されるコロッケの意味に気が付いたようだ。
「つまり、産み落とされたコロッケを倒して足場にして、反対側に渡ればいい訳だ」
「そんな回りくどいことしないでさ、泳げば良いんだよ」
ボクは笑いながら、その空間の下半分を埋める水へと足を浸した。
「あばばばばばっ!?」
「ここでも電撃かばばばばっ!?」
「だから、どうしてシュラナさんは無鉄砲に助けようとするんですかっ!?」
なんとか、必死に口を動かし、ティアマトに命令をして引き上げられたボク達は、大人しく産み落とされるコロッケに備えることにした。




