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ツッコミ 55 〜見てはいけない!〜

 ひんやりとした感覚が、足裏、そしてくるぶしまで浸かる水から伝わってくる。懐かしいような、そんな、かつては当たり前のように感じていた感覚だった。


「すげー、足だよ。立ってるわー」


 人間のような質感だけど、人間らしい物はない下半身。足はスラリとしていて、産毛すらも感じられない。触れてみると、しっとりと吸い付いてくる美肌だった。


 深呼吸して、冷静になろう。これは、大事なことだ。落ち着いたら、精一杯の声で表そう。


「……下半身がある感覚なんて、一切感じなかったんだけどっ!」


 つまり、身の危険を感じて下半身が生えたということになるのではっ!? ……ティアマトって、本当になんなんだろう。てか、これは花を毟られたことにはならないの? 本当に、謎だ。


 とりあえず、素足でこの洞窟の岩肌は心地が悪いので、胸から葉っぱを毟り取って、サンダルに変化させておく。ついでに腰に巻けるようなものを作っておこう。そのままだと、戻ってきたみんなにびっくりされると思うから。多少隠しておいたほうが、その驚きは小さくなるはず……かも?


 さて、そんな諸々の準備を終えた後、手持ち無沙汰になってしまった。みんなはボクを助けようと頑張っているのだろうし、そこに駆けつけるというのも、なんだか間抜けなような気もしてしまう。


 かと言って、先に進むのも忍びない。残された下半身を見て、どんな反応を示すのかは、多いに気になるところだが、なぜそうなったと聞かれても、返答に困るのは必至である。


 説明を逃れながら、ごく自然にこの状態になったということを印象付けたい。それに加えて、暇をつぶせたら最高だ。


 うーん、……あの下半身、遠隔操作とかできないものか。できたとして、どのようにすればいいのだろうか。


 例えば、ラジコンカーのように操作するとして、だ。その電波を出す感覚というのが分からない。既に、自分の意識はこの新たな下半身を動かすのに使われているようなので、その感覚で植物の方を動かすことは不可能。


 では、普段から行っていた、蔓や根を伸ばす感覚はどうだろう。……どうやら、無理そうでもある。つま先がムズムズするような、お尻がムズムズするような。そんな感覚が味わえるだけであった。


 胸の葉っぱを操る感覚だろうか。しかし、それもパッと想像しただけで勝手に変化してくれるのだから、特に特別なことはしていない。よって、どうすればいいのか分からない、というところからは抜け出せない。


 このような時。人間は一体どうするのか。


「独楽みたいに回転しろ!」


 口に出してみる、というのが定番であると僕は思う。


 けれど、勿論動かない。……と、安易に判断するのはまだ早くて。固定されているのだから、こうしてネジのように新たな下半身が生み出された。そう考えるのなら、独楽のように回るのは到底不可能なのだ。


「蔓を伸ばせ!」


 新たに命令をすると、自分の考えが正しかったと証明するように、コッペパンの隙間からどんどんと蔓が伸びていく。


「ストップ!」


 命令すれば、それ以上伸びない。


「チンアナゴのように!」


 命令すれば、まるで水槽の向こうで砂から顔を出すチンアナゴのような動きをしてくれる。


「ヘリコプターの真似!」


 との命令には、蔓をブンブンと音を立てて回してくれる。そのまま飛び立つことは出来なかったが、言われた通りのことをやってくれる、と言うのが一番大事なことなのである。


「それでもは次に、……触手に襲われる女騎士ごっこをしよう!」


 ならば提案はどうなのか。あれに与えるのはオーダーに限るのか、それともコミュニケーションが取れるのか。それを測ってみたのだけど……。


「キア、何を言っているんだい?」


 背後から掛けられた声に、ボクはどういった反応を示せばいいのだろう。


「キア様って、そういう趣味があったんですね」


 なんか、ものすごく誤解されている気がする。


「俺と出会う前から、そういうことをしてたのか?」


 なんか、ものすごく誤解されている気がする!?


 その誤解を解くために、結局は懇切丁寧に説明する羽目になったのだった。

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