ツッコミ 50 〜行先を示すもの?〜
洞窟は奇妙な仕掛けが施してあるらしく、自分たちがいる地点から半径五メートルほどの辺りまでが、明るく照らされている。
紐状の手足が生えた巨大コロッケは、それより奥の暗闇から奇襲をしてくる。予兆は足音だろうか。足元を水が流れているから、比較的分かりやすくなっている。
このスポットライトのような仕組みは、いったい誰を対象としているのか。体感で二メートルほどの間を空けながら、縦に並んでみる。……明るさの範囲が広がった。
「つまり、この局地的な明かりは、一人ひとりを照らしているものであることは間違いない。だとすると、先頭と、最後尾に戦力を配置するのが望ましいね」シュラナの分析。
「それなら、ボクが殿を務めるよ。まだ、背後から敵が襲ってくると決まった訳ではないから、一先ず進行方向に戦力を二人置いたほうがいいと思う」
「なら、戦闘は俺。小さい方が、後ろのやつがよく見えるだろ」
「その次が僕で――」
「キア様との間に私、ですね。私は警戒というよりも、周囲を観察しておきます。どんな仕掛けがあるか分かりませんので」
隊列を確認しあい、その通りに動き出す。水の上を歩く猫にスポットライトが当たっているため、前方の視界は開けている。限界範囲である、五メートルまで離れても大丈夫なのかもしれない。
カナネは、周囲を観察しながらも、逐一時計に目を向けている。時は正しく刻んでいる様子で、僕たちがこの洞窟に入ってから十分が経過した。
「ちょっと待ってください」
カナネの声を聞いて、ルートが立ち止まる。
「一瞬、風が……」
言葉とともに、ボク達もじっと動きを止める。彼女も、時計を見たまま動かない。その時――。
「敵が来るぞ」
ルートの声に、戦力となる三人の視線が前へと向かう。その直後、僕の耳に別の足音が届いた。
「後ろからもくる」
「では、前はルート。後ろはキア。僕はカナネの護衛」
了解。と返事をして、ボクは後ろを向く。蔓を周囲に伸ばし、服の襟元から胸に手を入れ、葉っぱを一枚むしり取る。腕を伸ばして構えると、それは刀のように伸びてくれた。
「あーあ、食べ物を粗末にするなって、親から教わったんだけどなぁ」
「君は、襲いかかってくる野生動物を倒さないのか? そして、倒したら食べる。それが礼儀だ」
「じゃあ、シュラナはあのコロッケを食べるの?」
……まぁ、そりゃ沈黙するしかないよね。仕方がない、ボクも心を鬼にしよう。いくら大好きなコロッケだとしても、襲いかかってくるなら仕方がない。おいしく食べることは出来なくても、心のなかでは、しっかり君を想っているから!
バシャバシャと言う足跡が続き、それが一斉にピタッと停まる。目を閉じて、深呼吸。
次の瞬間だった。
目の前に現れたコロッケを、蔓で突き刺し葉っぱで両断する。ルートもまた、巻き起こした風で切り裂いてみせた。
でも、あの手足がなんか、気持ち悪いんだよなぁ。
「あ、チーズが入ってる」
「えー、俺のところには入ってない。ハズレかよー」
ふやけていくコロッケを観察しながら、そんなやりとり。カナネも、遂に時計から目を離した。
「此処、五分おきに壁から風が流れている、のかもしれません。いえ、風が強くなるのがそのくらいの間隔、なのでしょうか? 空気を送り込んでいる何かがあるのかもしれませんけど」
「隠し通路があるということ? 見た目にはよく分からないけど、調べてみよう」
シュラナが壁際まで向かい、叩いたり、押したりとするが何の反応も見られない。
「隙間とかは、空いていたりするの?」ボクの問い掛けに、シュラナは首を振った。
「でも、風が吹いているのは分かる。でも、……何かおかしいな。壁から壁に向かって吹いている訳ではないみたいだ」
「あ、それなら俺も感じる。ずっと前の方に向かって、後ろから」
「それじゃあ、壁から出た風が、前の方に向かって吹いている、と言うこと?」
ボクの問い掛けに、明確に答えられる人はいなかった。多分、もしかしたら、そうなのかもしれない。その程度の結論しか出せないのなら、調べてみるべきだ。
ボク達は風の行方を辿るように、更に洞窟の奥へと進んでいく。




