ツッコミ 5 〜初めての村〜
森を抜け、たどり着いたのは豊かな村だった。レンガ造りの家には蔦が絡み、川沿いにはモフモフとした猫じゃらしが揺れる。武器や防具を売っている店はこじんまりでしたものであったが、その分道具屋とでも呼ぶべき店は、中々の繁盛ぶりであった。
ルートが走り出そうとしたのを、しっかりと蔓で抱きかかえた。
「離せよー。あのフワフワしたの好きなんだよ」
「あれは、猫じゃらし?」勇者に問いかける。
「エノコログサ」
正式名称だ。この世界、ボクの居た世界と共通する名称が多いみたいだ。レンガもそうだし、川を泳いでいた魚もアユだった。しかし文字は違う。見慣れた漢字や平仮名はない。英語の筆記体のような、独特な文字だった。
「あ! お姉ちゃん、モンスターさん?」
小さな女の子が駆け寄ってきた。年は、六歳くらいだろうか。小学生を連想させるような活発さだ。
「うん。食べちゃうぞー」
「きゃー! こわーい」
がおー、と手を開いて腕を上げるボクと、キャイキャイとはしゃぐ女の子。その子の親だろう女性が近寄ってきた。
「旅の方ですか?」その目は勇者を向いている。
「ええ。でも、一応勇者です」
「まぁ、勇者様でしたか。それでは、是非、村長の下へいらしてください。頼みたいことがあるはずです」
早速厄介事だろうか。すぐに向かうと思いきや、勇者はボクの顔色を窺っているようだった。
「後ほど伺います」
女性は女の子の手を引いて去っていった。千切れそうなほど振られる腕に、ボクも必死に応えてみせる。汗をかいたのだろうか。いい匂いが漂った。
え……、誰もツッコまないの? 少女とモンスターの戯れを、誰もツッコまないの? ボク、そんなに無害オーラをだしてる?
「傷は、大丈夫?」
「根っこ? うん、大丈夫。ほら、歩くのも蔓だから」
ここまで、蛇のように蔓を動かして歩いてきた。根っこの傷も既にかさぶたになっているし、回復力はなかなかあるらしい。
「でも、一応休憩しておこう。先ずは宿屋に行って、食事でもしようか」
「食事にいい時間帯?」
「んー、ちょっと遅い。昼食には遅い。夕食にはまだまだ早いかな」
日の傾きから見て、時間の進み方も同じのようだ。ずっと森にいたから分からなかったけど、知りたいことであった。
「モンスターでも泊めてくれるのかよー」花弁に潜んでいた猫が喚く。
「危害を加えないならね」
「だって」
勇者と笑い合い。川沿いの道を進んでいく。背はボクの方が少し高い。下半身の植物部分のボリュームの所為だろう。同じ人間の身体だとしたら、僕の方がだいぶ小さいかもしれない。
「あ、キアはお風呂に入れるのかな? お湯だと萎れちゃったりする?」
「あー、未知数。試してみよう」
蔓を伸ばして浸した川の水は心地よかった。もしも風呂が駄目だとしたら、川で水浴びをするのも良いだろう。
だけど、なんだろう。この村は、とても自然豊かで、ボクとしても居心地がいい。けれど、歩く土や、川の水からは、どこか違和感を感じてしまう。
その違和感が、村長の頼み事だろうか。ボクはそう、予想した。