ツッコミ 4 〜そうして、新たな生活が始まった〜
反省を示す猫の姿を見て、勇者は頷いて去っていった。村に行って、もう心配はないと告げるためだ。その姿を、ボクはジッと見つめていた。
「なんだよー、お前あいつが好きなのか? 蔓で捕まえてしまえばいいだろうに」
「まだ懲りてないの?」
「あ、はい。ごめんなさい」
物理的なお説教が効いたのか、ボクには懐いてくれた猫。名前をルート。まるで、行先を告げるために遣わされた神の使いのようだ。
「好きとか、嫌いだとか、そういうんじゃないんだよ。なんとなく気が合う。それで十分。それで十分だから、一緒に旅とかできたら楽しいのになぁ、って思うの」
「すれば良いじゃん。動けないの?」
「うん。すっかり根が張ってる」
「引っこ抜く、とか」
「んー、岩とかに挟まってるのかな? 育って太くなったら抜けなくなった、的な」
「あはは! 間抜けめー! ……あ、ごめんなさい」
簀巻きは手慣れたものだった。この調子で根っこも動かせないかと思ったのだが、どうしても岩を動かすことができないようで、にっちもさっちもいかない、とはこのようなことを指すのだろう。
「こうなったら、切ってもらうしかないのかなぁ」
「え、根っこ切っても大丈夫なのか? 死なない?」
心配そうな瞳に、ボクは微笑みを持って返した。
「栄養は生き物から摂るから」
「簀巻きにしながら言うなよー!」
わんわんと泣く猫をあやしながら、ボクは勇者が戻ってきてくれることを願った。
そして、来てくれた。村は依頼を取り消した、という報告をするためだとは言っていたけれど、なんとなく、通じ合ったのだと思う。その顔は、どこか覚悟を決めたような色を見せていたのだから。
「シュラナの旅に着いていきたい。でも、根っこが抜けないの。だから、切って」
「それしかないの?」
「うん。無理に引き抜こうとすると痛いから、人思いに」
「痛いのに、切るの?」
言葉を間違えた。これでは躊躇させるのが落ちだ。
「えっと、痛いけど、大丈夫なの。痛くないの」
「嘘つけー!」
蔓を噛むなこのクソ猫め。
「う、歌っていれば気は紛れるから。大丈夫。歌には秘密の力があるから」
「どんな?」
純粋な瞳が向けられる。
「石化させたり?」
「それは悪いモンスターの代名詞だよ」
見栄を張りました。特に力なんてありません。綺麗なだけです。
「い、痛いのは一瞬だから。大丈夫だから。植物はね、直ぐにかさぶたを作って、逆に成長するの。ほら、そういう果物があるでしょ? メロンっていう」
「そんな果物は知らない」
ここに来ての異世界らしさ!
「ほら、あの、ネットみたいに網目が張った、蔓に生える果実だよ」
「お前の胸みたいになー!」
黙れクソ猫。
「あぁ、スイカ」
まるでコントのようなすれ違い!
「ボクの胸はスイカかな?」
「え!? そ、そんなこと……」
「もっと別の果物、かな?」
「い、いや、その」
「大きさ、触って確かめてみる?」
「そ、……そんなこと出来るかー!?」
そうして人思いに根っこは断ち切られ、ボクは勇者と、ついでにおまけの猫と一緒に旅に出るのだった。