ツッコミ 38 〜いざ洞窟!〜
その日は既に午後を過ぎていたため、本格的な調査は翌日に繰り越されることとなった。
夕食に提供されたコロッケはとても美味しく、特製ソースとの相性も抜群。その味わいを口いっぱいに頬張って逃がすまいとしている時、ふとテーブルの上に置かれたものが気になった。
パンである。
「コロッケって、ご飯のおかずに合うと思う?」
些細な疑問に、敏感に反応した人はいなかった。
「出されたら食べる。それだけ」淡泊なシュラナ。
「ご飯に乗せてソースをかけて、崩しながら食べるのも美味しいですよ」自分を持っているカナネ。
「最初から一緒になってると食べやすい」ライスコロッケが食べたいルート。
三者三様の言葉が返ってくるなか、ボクは迷うことなくこういった。
「野菜でご飯は食べられないよ」
「キアは偏食だなぁ」
「ジャガイモって、野菜でしたっけ?」
「野菜にしたいんだろー」
コロッケで必要な栄養素がすべて摂れたらなぁ、と淡い期待を持ちながら、その日は終わった。
翌日、本格的な調査に入る。
先ず、絞り出したレシピを元に、どれだけの時間、滝が開いているかの調査を行った。結果はまだ出ていない。
「昨日の内にメモは渡してあって、朝一番で試してみたんだって」
「その結果、今もまだ開いていると」
小型の船に乗って、オールを確かめるシュラナと話す。滝の裏側の洞窟からも水が流れ込んでいたため、船で行くこととなったのだ。時刻は午前十時。お弁当を持ち、夕方頃には帰還する予定を組んでいる。
ルートは前足を伸ばして水面を叩こうとしていて、カナネはライトを手に取り、洞窟内を照らしている。
「じゃあ、準備はできたね。それでは、行ってきます!」
見送る騎士に声をかけて、船は洞窟の中へ消えていく。次第に外からの光は届かなくなってくる。緩やかにカーブを描いているようだ。
ライトを使って周囲を探るカナネによれば、この洞窟、人の手によって作られた痕跡はないようで、自然な状態で出来たものだとも思えない。だとすると考えられるのは一つではないか。
「神様が作った、ということでいいのかなぁ?」
「滝の仕掛けから見ても、可能性は高いですよね」
「じゃあ、この先に秘宝があるってことか。秘宝を守る番人とか、いるのだろうか」
「そう言うってことは、戦いたいんでしょ」
「そりゃあ、ね。そうでなくては刺激が足りない」
カナネと顔を合わせ、ちょっとした苦笑。こうした冒険でも、刺激がたっぷりなのだけどね。
「水の中にも、何もいねーなー。あの時の魚は、もうどっかに行ったのか?」
ルートの言葉で、ボク達はここまで、誘導されていたことを思い出す。ただ、同じ様に水面を覗いても、真っ暗で何かを確認することはできない。
「ルート、見えるの?」
「魔法って、便利なんだぜ」
そう言えば、猫の瞳を見ると時刻がわかる、なんて話があったと思う。それって洞窟の中でも通じるのだろうか。
「カナネ、今何時?」
「何時って、まだそれほど時間は経って――、ええっ!?」
急な叫び声に、ボク達は一斉に彼女を見た。
「と、時計が……」
僕たちの視線の前に、彼女は手に持っていた懐中時計を示す。その時計は、その針は――、コンパスの針のように、ぐらぐらと揺れていた。




