ツッコミ 36 〜問題だらけの洞窟探検〜
「すみませーん。これは私達が見つけたもので、優先権は私達にありまーす。入るのは調査が終わったらにしてくださーい」
カナネが声を張り上げて、辺りに集まってきた冒険者に説明というよりも、警告のような言葉を浴びせる。冒険者間にある独自のルールらしく、逆らって滝の奥にできた洞窟に入り込もうとする者はいなかった。
この洞窟、開かれるのは三度目である。
一度目は一分ほどで滝が元通りに戻ってしまった。二度目はコロッケがキーワードではないかと試すためであり、これは確かに正解だったのだが、同じく一分ほどで元に戻ってしまう。
洞窟へ通じるのが一分しかないのなら、果たして脱出する際にはどうすればいいのか。先ず問題に上がったのはそこである。せめて洞窟側から滝を開く方法があればいいのだが、それを調べるにしても、一分という時間は短すぎる。
つまり、三回目はより長く滝を開いておくことは出来ないのか、という調査だった。
コロッケというキーワードで開くことは分かったため、次はこう考えた。キーワードを増やすことによって、開いている時間を長くできるのではないか、と。物を試しにと、発した言葉は『牛肉コロッケ』。
「駄目みたいだなー。一分で閉じる」
カナネから借りた懐中時計を眺めるルートは、花弁に下半身を突っ込んだ状態でこちらを見上げている。シュラナは冒険者を追い返しているカナネの護衛だ。
「種類は関係ないのかもしれないね。これで野菜コロッケが駄目だったら、望み薄。最後の駄目押しでラードで揚げたコロッケ、かな」
「ラード? それを入れたコロッケか?」
「違う違う。揚げる時にラードを使うのかサラダ油を使うのか、なんかでも、コロッケの味は変わってくるの」
「ふーん。どっちが美味い?」
「人それぞれだと思うよー」
家庭で揚げる場合はサラダ油のほうが多いだろうから、慣れ親しんだ味に寄る面もあるだろう。とは言いつつ、あまり意識して食べたことがないから、個人的にはそれほど気にしたことがない。
「野菜コロッケが食べたーい!」
結果は一分。
「ラードで揚げたコロッケが食べたーい!」
結果は――。
「お、一分経っても閉じないぞ。もしかしたら当たりじゃないか?」
木の虚から顔を出し、滝の方へ視線を向ける。確かに、まだ洞窟の存在は目に映っている。
「どこまで記録が延びるか――、と、三分だ」
二分の延長か。ここからは、なぜラードと付け加えることによって延長がなされたのかを調べることとなる。
次に発したのは『サラダ油で揚げたコロッケ』。結果は同じく三分であり、サラダ油をごま油に変えても、結果は同じだった。
次に試したのは『牛肉のミンチを加えたコロッケ』。結果は油と同じく三分であり、これによって、おおよその傾向は見えてきたように思う。
「じゃあ、次は――、ラードで揚げた牛肉のミンチが入ったコロッケが食べたーい!」
結果はいかに。
「うっわ、一気に十分だ! これって、どんどんコロッケの説明を増やせば、それだけ開いている時間が延びるってことか?」
「だろうね。だとすると、もう、調理の状況から言ったほうがいいのかもなぁ」
しかし、その分開いている時間が長くなれば、新たな問題も出てくる。もしも、この洞窟の先に何らかの、研究所や秘宝の手がかりがあった場合。多くの冒険者の目に触れているのはよろしくない。今は大丈夫でも、いずれ好奇心に駆られるものが現れるだろうし、その時、ボクら全員が洞窟の中にいたとすれば、その侵入を防ぐことは出来ない。
幸い、まだ滝を開く方法はバレてはいないため、今のうちに騎士の方に報告をして、人員を割いてもらった方がいいだろう。
こうした行ったり来たりをするのも、なんだか冒険のようで乙なものだ。今はまだ、そう思っていた。




