ツッコミ 35 〜魚を追って〜
川沿いをじっくりと歩いてみると、魚と出会うポイントは限定れていることに気が付いた。おおよそ一キロの間隔で飛び跳ねる魚と出会うことができ、それを捕獲してしまうと、その日はもう、魚は一切飛び跳ねない。
その調査に、二日をかけた。
次に行ったのは、ズバリ本題である。飛び跳ねた魚を含む群れは、一体どこへ移動するのか。幸い、透明度が高い水のため、川の中ははっきりと見える。魚の動きを追いながら、ボク達はのんびりと川沿いを歩いていった。
登山道へ向かう道からそれ、舗装されていない、背の低い草が生え揃う草原をゆく。しばらくすると森へと行き当たった。ここまで来ると、村の異変を調査する冒険者とすれ違うことも増えてきた。研究所のことは未だ見伏せられているため、村からの謝礼目当てに、張り切る人も多いのだろう。
そのままある程度進んでいくと、なぜ山を登ってから下りる行程を挟んだほうがいいのか、という理由に気付くことが出来た。
「立派な滝だね」
幅は五メートルくらい。高さは十五メートルはあるだろうか。現代日本であるなら、観光地として有効活用されそうなほど、立派な滝であった。
「この上にもいくつか滝があるので、山を登ってから下りないと、川の始まりを見るのは難しいんです」
「流石に、僕もこの崖を登るのは堪えるな」
戦闘においては勇ましい勇者も、崖登りにはそれほど滾らないらしい。この中で軽々登れるとしたら、猫のルートくらいではないか。
「おまけに水量もあるので、この滝の裏についても未知なんです。滝壺も深いので泳ぐには危険ですし、崖の途中からなんて以ての外。怪しくはあるんですけどね」
「魔法でどうにかならないの?」
「魔力が濃いみたいで、暴発による事故が絶えなかったんです」
納得。川の魔力は、上流に向かえば向かうほど濃くなっているようだ。
「魚はどこにいる?」シュラナの問いに、辺りを見回す。
「いな――いね。やっぱり滝の裏になにかがあるのか、滝を見ている間に戻ってしまったのか」
「どちらにしろ、滝に何かあるのは確実だよね。辺りを調べてみようか」
手分けをして、周囲を調べることにした。大小さまざまな石が転がる河原から、ほぼ直角に滝が伸びている。床に座って壁を眺めているようなものだ。
もしもこれが隠し部屋を備えた図書館などだとしたら、本棚に並んだ本を特定の順番に並べ替える、などの仕掛けが用意されていることだろう。しかし、この自然豊かな場所で、そのような仕掛けが施されている可能性はあるのだろうか。
シュラナが崖を構成する岩を叩いている。カナネが川を覗いている。ルートは沢蟹と遊んでいる。ボクは周囲に生える木々を調べてみた。
ここに生える木々は、もちろん巨大化などはしていない。至って普通の木々である。虚の中から小鳥が顔を出すこともあり、バードウォッチングには最高のロケーションではないだろうか。時折蛇が現れることもあり、厳しい自然環境も垣間見える。
丁度目線の高さに見つけた虚に、頭を突っ込んでみた。むせ返るような木の匂い。声を出すと、反響して面白い音が耳に届く。
「コロッケが食べたいなー!」
そんな願望を叫んでみると――。
「うわぁ!? 滝が割れた!? 誰か何かしましたー?」
脳裏に、あの美人の顔が浮かび上がった。まさか、あの神様、人から奪うくらいコロッケが好きなのか?




