ツッコミ 34 〜下山〜
「なんか、こう、飽きてくるよね?」
涼しい顔を見せる僕とは正反対に、カナネは疲れを顔に表した。眉間にシワを寄せ、息も少し荒い。山頂で多少の休憩は取ったとは言え、標高的に言えばそこまで休めるものではないだろう。
「飽きません。ひたすら疲れて飽きるどころじゃないですよ。キア様、体力無尽蔵ですか?」
「蔓って疲れないから」
「変な乗り物ですね!」
その分、上半身はずっと立っているようなものだから、背中とか結構キツイ時があるんだよねぇ。たまには横になりたい。横になれるだけのスペースがあるところに行きたい。このままだと、恥を忍んで路上に寝そべることも考えなければならないだろう。
「ボク、この山から降りたら路上に寝そべるんだ」
「干からびた草だね」
シュラナが意地悪を言った。
「酷いことを言うなぁ。こんなプリティを捕まえて、干からびた草だなんて」
「いや、だってその花、ちょっと萎れかけてない?」
え……、あ、寒さにやられているのかも。
「あー、やっぱり寒さには弱いのかも。ボク自身は暖かいのになぁ」
「暖かい服を買いましたからね。はぁ、元気そうなら花に乗せてもらおうと思ったのに」
キア、タクシー化計画を無事に逃れる。まぁ、それはともかくとしても、この花は不思議だよなぁ。寒さにやられて元気がない感覚が、ボク自身には一切感じられないのだから。
擽ったいとか、痛いとかは解るのだけど……、もしかして、見た目ほど弱ってはいないのかも?
「行きは頑張れたけど、帰りはしんどい。これがあるから、あまり山には登らなかったのに」
「カナネは、そういう冒険はしないんだ」
「シュラナさんは山籠りとか、好きそうですよねー。私は結構、シティガールですので」
泥臭そうに見えるけどなぁ、というのは、流石に失礼だと思うので口には出さない。むしろ、シティガールを目指している途中に思えるかな。ボクとファッションの話で盛り上がれるということは、それほど知識がないと同義だろうし。
「こういう時は、楽しい会話をすべきですよね。下山したらスイーツを食べましょう」
「カステラとか?」シュラナとアイコンタクト。
「喉乾くやつ! 水分欲しているのに更に喉乾くやつ!」
「煎餅とか」
「喉乾くやつ! 塩っぱさが相まって喉が渇くやつ! 違うんですよ。あぁ、そうです、飲み物がいいんですよ。心に染みわたる甘くて爽快な飲み物が!」
「ウインナーコーヒーとか」
「え……、なんですか、その組み合わせ」
あら、この世界では通じないのか。カナネにツッコませる会は、この辺でお開き。五合目まで戻ったら、炭酸飲料で乾杯しようか。




