表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界道中ピザコロッケ!?  作者: 如月 和
秘宝を求めて
33/38

ツッコミ 32 〜登山前〜

 登山を文章で表現するとき、どこに重きを置くべきなのだろうか。坂道を登り続ける辛さ、だろうか。それとも仲間とともに頂へとたどり着いた達成感? そのどちらも取り入れるのが自然ではあろうが、もしも、もしもそのどちらにもドラマチックな展開がなかったとしたら。


 その登山について、何に重きを置いて表現をすればいいのだろう。


 先ず、始まりから見ていこう。朝は六時頃だろうか。この世界において時計はかなりレトロなものだ。と言っても、現代日本で暮らしたボクから見ればレトロと感じるだけであって、この世界では立派な最先端である。


 振り子が揺られ、時折ボーンと音を発する、立派な置き時計。大きいことにこそ価値がある、とでも言いたいのか、家に置かれるような時計は、背丈ほどあるものが一般的なのだそう。懐中時計も無理に小型化するようなこともなく、見やすさを重視して、少し大きめのものが一般的だ。例えるならCDくらいか。カナネが持っているコンパクトなものは、冒険する際の邪魔にならないようにと、冒険者向けに作られたものだった。


 置き時計から響く音を頼りに、ボク達は目を覚ました。この部屋に泊まって初めての朝であったので、その音にまだ慣れていなかったという面もある。この日最初の行動は、鳴るタイミングの設定が出来るかどうかを調べることだった。


「あー、これですこれです。文字盤の外側にあるリングを回転させて、赤い印を文字に合わせれば、その時間に音が鳴る仕組みです。今は六時と九時と一二時になってますね」

「飲み終わったのが、一二時くらいだったね。そう言えばこの音をきっかけにして、お開きにした気がする」


 ボクはぼんやりと、カナネの作業を眺めていた。シュラナとルートは朝の散歩に出かけたので、今は二人きりだ。


 そんなシュチエーションに、ボクはふと、あることを思い出した。


「そう言えば、せっかくの服がだめになったままだった」


 視線を左下に向ければ、未だにむき出しのままになった左の肩が照明に照らされている。茹で卵のようにツルッとしていて、自分でも触っていて気持ちいと思う美肌である。片側がノースリーブになったダウンジャケットも、部屋のクローゼットに仕舞ってあるが、それを使うのは少し、抵抗があるかもしれない。


 それほどワイルドではないので。


「あー、そうでした。傷一つないので、攻撃を受けたことをすっかり忘れてましたよ。すっかり元通りですね」

「でも、かさぶたができなかったのはちょっと残念だなぁ。ねぇ、おっきいかさぶたを剥がすのって、夢だよね?」

「いえ、跡が残るので嫌です」


 シュラナはなぜここに居ない。


「じゃあ、じゃあさ、跡が残らないかさぶただったら、剥がしたいよね? ね?」

「んー、でも、自然と剥がれていくさまを見るのも、よくないです?」

「え、我慢できるの?」

「はい」


 過去一尊敬した。


「それより、服のことです。お金も結構入りましたし、何着か買っておきましょう。荷物が増えるので、これを期に馬車でも買ったほうがいいかもしれませんね。いわゆる移動基地です!」

「魅惑的な言葉だけど、そんなにお金を貰ったの?」

「はい。予想通りの賞金ですね。調査次第ではもっと貰えるそうなのですが……、まぁ、体のいい口止め料です。盛大に使ってやりましょう。こういうのは、使っておかないと印象が悪いですから」

「えっと、その心は?」

「黙っていてね、と渡されたものを使えば、イエス。使わなければ、ノー。私たちには何のデメリットもないですから、使えるものは使っておくのが鉄則です」


 なるほど。冒険者にも色々とあるんだなぁ。


「とりあえず、馬車は後ほど、ということで。今は服を買いに行きましょう。登山用のものなら、朝でも買えます」

「今度は可愛い色にも挑戦してみようかな? ピンクとか」

「わぁ! それは良いですね。赤い花弁とも合うかもしれませんよ。幼い感じの顔立ちとも合うかもしれません。キア様のグリーンの入った艷やかに金髪に、どれくらいマッチするかは分かりませんけど」

「髪型も弄ってみたい」

「んー、私もそれほど上手いわけではないので、とりあえずツインテールにしてみます?」

「位置が重要だね」

「キア様なら、高い位置でも似合うと思いますよ」


 そんな会話を繰り広げながら、ボク達は宿を出た。おそらく、これが登山のハイライトである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ