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ツッコミ 29 〜チーム始動!〜

「なんと! そこまで重要なものが隠されていましたか。なんと、なんと……、ふふ。いやはや、これは結構な金額が貰えるやも?」


 階段を登り終え、帰還した山小屋で主人に報告した際の言葉である。営業できないことへの補償などを皮算用しているらしいが、ほぼ間違いなく結構な金額が支払われる事となるのは、カナネの表情からも現実味を帯びていた。


「調査員が来れば、その人達の面倒も見なくてはなりませんからね。仕事も入る。お金も入る。ちょっと羨ましいです」

「そういう君たちも、結構な立場になるんじゃない? 詳しくは聞かないほうがいい、なんていっていたけど、それを考えると守秘義務が発生するようなものなんだろう?」

「だからこそ、チームを組みたいんです。連絡より先に、チーム登録をさせてくれませんか?」

「ははぁ、なるほど。君の考えは分かった。個人だと関われないが、チームなら戦力としてみなされる。なかなかいい考えだよ」

「人数はネックかもですけど、その分、質には自信がありますから」

「違いない。ちょっと書類を取ってくるよ」

「あ、いえ、私達も行きます」


 そう言って、客室がある建物から出ていく主人。追い掛けた先は救護室などを兼ねている施設だった。客室よりも坂の先にあるため、近寄ることはなかった場所だ。


 そこで一枚の書類に署名をして、チームの名称も記入するのが登録の流れである。シュラナは問題ないけれど、ボクは未だに文字の読み書きができない。カナネに教えてもらいながら、なんとか拙い文字を必死に記入し、次は……、と視線を向ける。


「え、俺も書くの?」

「ボク的にはチームの一員だと思っているし、ちゃんと書いたほうがいいと思っているんだけど、どうかな、カナネ」

「うーん、どうしましょう。賞金を山分けする際には、お金を預けるために口座を作る必要があるのですが、その、猫が作れるかどうかは、ちょっと」

「じゃあ、お金に関してはカナネがすべて管理すれば良いんじゃないかな? 僕はもともと国からの支給があるから、お金には困ってない。キアとルートだって、そこまでお金に執着することはないだろう?」

「まぁ、食事なら最悪、その辺の動物を狩ればいいしね」

「なー」


 その辺は、モンスター然としているボク達だった。


「では、私が受け取って管理をするということで。ルートさんも頑張って文字を書いていきましょう。咥えます? 挟みます?」

「浮かす」


 魔法で操られたペン運びは、見事なものだった。


「はい。では、これを魔法陣に載せれば、本部の印刷機によりコピーがされます。その時点でチーム結成は確定です」

「では、報告ですね。重要な施設を発見したので、ギルドを通して騎士団に通報してください。速やかにここを規制したほうがいいと進言します」

「はい。これも書類に書き込んで騎士団宛の魔法陣に、と。これで大丈夫です。直接報告する義務もありますから、食堂でお待ち下さい」


 そうして、ボク達の初めての冒険……、と言ってもいいのだろうか。ともあれ、それに一区切りついたのは間違いはない。食堂で余った弁当を食べ、淹れて貰ったお茶を飲み、一息つく。


 主人が席を外したタイミングだった。


「これからのこと、だけどさ」シュラナが口を開いた。「研究所は他にもあるんだよね? それを調べていけば、凶暴化したモンスターの数を減らせるかもしれない」

「そうですね。村の近辺にある植物が異常に巨大化していたのと同じように、動物やモンスターに影響を与えているのは間違いないようです。動物は警戒して近寄らなくなり、モンスターは凶暴化する。あのネズミは、うっかり入り込んで影響を強く受けてしまったのでしょう」


 それでも、植物ほど動物は影響を受けにくいのか、完全に巨大化はしなかった。そう考えるべきなのだろう。そうなると、ルートはまた別のアプローチで存在しているのかもしれない。


「じゃあ、僕の目的は決まりだ。研究所を探し出す」

「ボクも同じかなぁ。花弁があったのが気になるし。あ、でも神からもたらされた秘宝、石板のことも気になる。ボクの転生には神様が関わっているから、なんか他人事ではないんだよねぇ」

「俺は、自分がどこでこうなったのかを知りたい。そんで、もしも同じ様な存在がいるなら、会いたい」


 これで、二人と一匹が目的を共有した。


「私も同じですよ。研究所を調べたい。だって、すごく気になることがありましたから」


 二人と一匹は、頭にはてなマークを浮かべて首を傾げた。


「気付きませんでした? 研究所は他にもあると記されていました。そして、ルートさんはその研究所の一つでモンスターのように変化したと考えられます。その研究所はどこにあるでしょう?」

「えっと、俺の一番古い記憶は、別の大陸だったんだろ?」

「そうだね。船に乗ったということは、魔族が治める北西大陸である可能性が高い。どこかの島である可能性も無くはないけど、人類の生活圏は、基本的には大陸だ。あまり船は通ってない」

「その通りです。船に乗ったのなら、大陸間を移動するものの可能性が高い。そこで、よく考えてください。かつて、八つの国が戦争状態にありました。研究所はその戦争が起きていた頃にはあったことが明らかになっています。違和感が、ありますよね?」


 違和感、か。そこにどんな違和感があるだろう。先ず、あの研究所は兵士を生み出す目的で誕生した。だから、どこかの国が管理しているのだろう。その研究所が、他にも、即ち各地に……。


「あ!」


 その声はシュラナと同時であった。


「そうか、戦争の終結と共に研究所を放棄したのなら、この頃の国は完全に疲弊しきっていたはずだ。大陸を股にかけて国を維持するなんてことは考えにくい。つまり――」

「そうです。あの研究所が他にもある、少なくともこの大陸と北西大陸にあるということは、国の土地に関係なく置かれていたことになるのです。戦争状態の国々が、敵の国にそんな施設を置けるはずがありません。考えられるのは――」

「何らかの組織が、兵士を作って売り出そうとしてた?」


 カナネが、笑顔で僕の答えに頷いた。


「戦争の裏に蠢く怪しい影! いやー、一大スペクタクルですよね。こんな案件に関わられて、本当に、冒険者冥利に尽きます。おまけに、神様からもたらされた秘宝、なんて冒険心を擽られるものまで。御三方が何と言われても、私はついていきますよ。そして、すべての秘密を暴くのです!」

「じゃあ、みんなの心が一つになったということで」


 ボクはサッと、テーブルの上に手の甲を差し出す。みんなが意図を察したように、その甲の上に手を重ねていく。最後に、ポンと猫の手が載った。


「アーリオ・オーリオ、エイエイオー!」

「エイエイオー!」

「……オー!」

「ちょっとダサいぞー」


 勇者と猫には、このノリは合わなかったらしい。だけど自分でも、この様なノリになるのは不思議に思う。何となくだけど、自身の内面も、この身体に、この世界に馴染んできたように思う。


 新しい出会いが、ボクを変えてくれたのだろうか。なんだかそれが、神様が言っていたサービスだと思っても、ボクは納得してしまいそうだった。

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