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ツッコミ 27 〜要〜

 すっかり大人しくなったネズミはどこかへ駆けていき、静寂を取り戻した広い空間、実験室、あるいは研究所と仮称するが、そこは酷い有様だった。とは言え、トロッコと上へと繋がる魔法陣が置かれたエリアが無事だったことには、心底安堵し、ホッとしたら、なんだか腹が減ってきた。


 俗に言う現実逃避であるし、資料を読み耽るカナネにこの事を報告するのが、ちょっと怖かったので、気分を変えるために昼食にしてはどうか、という提案をしようかと思ったのだ。昼食になるかどうかは、唯一時計を持っている彼女自身が判断してくれるだろう。


 というわけで、若干落ち込む二人を引き連れ、トロッコに載せたままになっていた荷物を運び、上へと移動する。


 カナネはもう、本を読んでいなかった。


「連れてきたよー。どう、読み終わった?」

「ありがとうございます。いえ、その……、ちょっと悩みどころと言いますか、ね」


 煮えきらない言葉を吐き出すカナネに、ひとまず食事を取ろうと提案する。トロッコのお陰で移動時間を短縮できていたのか、まだ昼食には早い時間であったが、疲れも相当に溜まっていたようで返事はイエスであった。


 以降、静かに食事をし、お茶を飲んで一息つく。


「シュラナとルートが二つの魔法陣を壊しちゃった」

「えっ!?」

「まって、まって。けして僕達の所為ではないよ? あれは仕方がなく、そう、仕方がなくだよね、ルート」

「そうだそうだ! 俺達はあいつを仕留めるのに必死だったんだぞ!」

「でも、仕留めきれてなかったじゃん」


 三者三様の沈黙。


「えーと、とりあえず話は分かりました。で、あのネズミはどうなりました?」

「キアが怒ったら大人しくなって、反省したらどっかへ行った」シュラナの簡単な説明。

「なるほど。うーん、となると……。はい、分かりました。キア様に説明したことを、お二人にも話しておきましょう」


 説明を聞いた二人は、ぽかんと口を開けている。ルートにとっては自身と関わりがあるかもしれない研究なのだから、思うところもあるだろう。そして、勇者の役目でもある凶暴なモンスターの討伐。それを根本的に解決できるかもしれない可能性が提示された。


「じゃあ、今いる凶暴なモンスターも、この研究の影響を受けているかもしれないと?」

「研究というより、研究所ですかね。その意味では、魔法陣は壊してしまって正解だったかもしれません。村の作物の巨大化を見るに、影響は外へ漏れていたようですから」

「花弁が萎れて、その効果がなくなってしまったんだね」

「なくなったというよりも、外に漏れるだけの効果がなくなった、といったほうが良いかもしれません。現に、ネズミの不安定さもそこに原因があったと思います。そして、魔法陣が破壊されて、そこに大元であるティアマトからの圧力が加わって、落ち着いたのでしょう。多分」


 真面目な話の最後に多分の一言を付け加えると、急に不安になってくるやつ。


「もしも、もしも俺をこんな風にした魔法陣を壊したら、普通の猫に戻るのか?」

「ルートさんの場合は、安定しているので戻ることはないかと。むしろ、研究は成功していたのかもしれないと思うと、悪用して凶暴なモンスターを自在に生み出せる施設があることになりますので、かなり厄介な事態かもしれません」

「シュラナの仕事が忙しくなっちゃうね」

「キアもね。怒って回らないとね」


 それで解決するなら、いくらでも怒るのだけどね。


「それで、私たちが取るべき道は二つあります。一つは、ギルドを通して国には報告すること。もう一つは、秘密にして私達だけで事態を解決に導くこと。ただ、後者はお勧めしません」

「なんで?」二人と一匹で首を傾げる。

「勇者が村の異常を調べた事を知る人が多すぎます。おまけに、山小屋の床まで剥がしていますし、隠し通すための嘘を用意するのは、容易ではありません」

「ようい、だけに」


 渾身の駄洒落は滑った。


「こほん。ともあれ、私達は素直に国へ報告しなくてはならないわけですが、そうなると、事の重要性から、キア様を保護してもらわなくてはならない可能性があります」

「保護、というと?」疑問を投げかける。

「お城に監禁とか」


 言い方は悪いが、シュラナは深刻そうに言った。でも、確かにその可能性はあるだろう。重要な花弁を奪われるわけには行かないのだから、目の届く範囲においておこうとするのは目に見えている。目だけに。


「キア様は、それでもいいと思いますか?」

「ボクとしては、もっと旅がしたいかなぁ。せっかく転生したのに城で引きこもり生活とか、ちょっと残念すぎる」

「森で引きこもってたくせにー」


 冗談を言って、気を紛らわせているのが感じ取れる。ルートもまだ動揺しているのだろうし、この子と離れ離れになるかもしれないのも、ちょっと困りものだ。


「何か手はないの?」シュラナが問い掛ける。

「一つだけ、あります。私達で、チームを組むのです」


 三人が同じように首を傾げた。冒険者のルールを知らないからだ。


「冒険者のチームというのは、得られる賞金を平等に分配する為の制度であって、正しく賞金を受け取る為の権利でもあります。誰か一人が賞金を持ち逃げするのを防ぐために、登録をしておく感じです」

「それが、どうしてボクの監禁を防ぐ手になるの?」

「そこです。このチーム制度は、与えられた賞金を正しく分配する為に、チーム揃って活動することが義務付けられているんです。つまり、誰か一人でも欠けたら、活動することが出来なくなってしまう。それをカバーするルールもあるのですが、それは今は関係ありませんね。要は、冒険者の活動は公共事業で、国にとっても重要なものなんです。なので、国の力をもってしても、その行動は妨げられない」


 なるほど!


「つまり、例えボクが保護を名目に連れて行かれそうになっても、チームの活動という名目でそれを拒否できると」

「その通りです。署名さえ出来て、私達とも、受付ともコミュニケーションが出来ているなら、問題なくチーム登録は出来るはずです。出来てしまえば、あとはこちらのものですから」

「僕やキアは冒険者じゃないけど、そこは大丈夫なの?」

「冒険者の資格を持った人が一人いれば大丈夫です。組織的なチームもいるくらいですからね」


 笑顔で話す彼女を見て、ボクは痛感した。やはり、一般常識をしっかりと把握している人が一番最強なのでは? と。

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