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ツッコミ 26 〜怒りのパワー〜

 誰も悪くはないことは、解っている。それなのに、自分の思い通りにいかないことに腹を立てて、誰かに当たってしまうことは、おそらく誰にでもあるのではないか、と思う。


 少なくとも、ボクはそれを回避できない人間だった。


 人間、と言っていいのだろうか。そんな疑問もあるのだけれど、精神的な面で言えば、まだまだ人間の範疇にいると思いたい。だからこそ、些細なことで癇癪を起こすし、理不尽に大声で怒鳴り散らしてやりたいとも思うのだ。


 けれど、まぁ、多くの際では、それは自制心によって防がれるものである。そんなことで怒ってどうする。そんなことで騒いでどうする。一度冷静に考えようと、息でも吐いて心を落ち着かせようとするはずだ。


 当然、ボクもそうやって落ち着こうとした。流石に怒ることでもないかなぁ、と思って、深呼吸をしようとした。けれど、無理だった。それでは、状況は何も変わらないのだ。自分に何ができる、というようなものではなかったけれど、ここで何かしなければ、事態はより悪化するだろう。そう焦るあまり、ボクは怒りを発散させてしまったのだ。


 その始まりは、魔法陣によって、戦闘をしているだろうシュラナとルートを呼びに降り立った時だった。


「闇の咆哮、影の瞬き。灰色の世界にて呼び覚まされし曖昧なる化身。綻びの彼方に奴を消し去れ! 『魔法剣 暗動忍斬破(あんどうにんざんぱ)』」


 地面に突き立てられた剣が、地面を揺らす。時折隆起し、規則性のないように黒い影のようなもの噴出し、巨大なネズミに襲いかかる。


 しかし、その寸前にネズミは元のサイズを取り戻した。


「そこだ!」


 すかさず猫が飛びかかるも、素早い身のこなしでその手を掻い潜り、再び巨大になって猫に逆襲しようとする。


 その背後に、再び影が迫る。その際にも地面は隆起し、はとして周囲を見渡せば、おそらく平らなところはない様子であった。


 幸運だったことと言えば、戦闘が行われていたのが奥のスペースだった点だろう。上の階との移動用の魔法陣は、辛くも無事だった。


 つまり、そういうことなのだ。必死に戦闘を繰り広げる二人は、悪くない。けれど、この状況は、至って最悪だ。これ以上の損害を伴えば、未だ上で資料を漁っているカナネが、ここに戻ってこられなくなる恐れもある。


 そもそも、他の魔法陣は完全に破壊されてしまったため、もうネズミをどうこうすることも出来ないだろう。戦闘による結果が出ていないことから、今後の展開も平行線を辿るのが目に見えている。


 ならばどうするか。それはもう、先に提示した通りだ。


 ボクは服の中に手を突っ込み、何枚かの葉をむしり取る。それは想像した通りのものへと、自然と張り合わされてくれた。自身の一部なのだから、どんなものへ変化させるのも自由自在。それを学べたのは重畳であるが、その発見では怒りは静まらない。


 手にしたのは、メガホンのように筒状になったもの。その細くなったところに口をつけて……、ボクは盛大に叫んだ。


『いい加減にしろーっ!』


 ピタリと、空気が止まった気がした。それと同時に、三者三様に動きを止める。


『こっちに来なさい』


 集合をかけ、正座をさせる。猫とネズミはお座りだ。


『暴れるなら、時と場所を考えた暴れ方をしなさい!』


 三人が同時に、謝罪の言葉を口にした。


 しかしながら怒りに身をかせていたボクは、その違和感に気が付けなかった。

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