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ツッコミ 25 〜過去の遺産〜

 ページを捲る音だけが響き渡る。手持ち無沙汰になったボクは、キョロキョロと部屋の中を見回しながら、奥にあった魔法陣へと近寄っていく。


 カナネに聞いた話だと、この部屋に送られた魔法陣は、エレベーターのようなものだったらしい。つまり、天井がカモフラージュされていて、目隠しとともに地面がせり上がる仕組みだ。


 それが急に反応を示したということは、ボクがそれに触れたから、としか思えない。それは、この部屋の奥にある魔法陣に鎮座する、萎れて乾燥した大きな花弁によるものなのだろうか。


 触れたら崩れて砂になってしまいそうなその花弁は、まるで自分の未来を映しているように思えてしまう。それは、村で聞いた乱獲の話が、どうしても頭を過ってしまうからだろうか。


「過去に起こった乱獲によるものなのかな?」振り返って、カナネに問い掛ける。

「違うと思います。この空間はかつての戦争の頃に造られたものらしいので、その頃に採られたものだと思います」


 では何の目的でここに置かれているのか。カナネは別の紙の束を手に取った。


「川から滲み出る膨大な魔力を利用して、モンスターを創り出す研究をしていたそうです。モンスターはその殆どを魔力で構成しているため、それなりの量の魔力を安定的に引き出せる場所が必要だった。なるほど……、この空間自体が、一つの魔法陣になっているようです」

「えっと、じゃあ、あの分かれ道は魔法陣を描くための?」

「おそらく、そうですね。あそこからぐるりと円を描いて、幾何学模様になっていくのではないでしょうか」

「ずいぶん大規模だね」

「戦争が長く続いて、どうしても兵力が必要だったみたいです。これを完成させたら戦争を続けていられる。その思いだったのでしょう」

「そうまでして戦争を続けたかったの?」


 しばらく会話は止まり、ページを捲る音だけが響く。別の紙の束に移った。


「これは……、はい、どうしても戦争を続けたかったようです。そもそも戦争の始まりは、神が七つの秘宝をこの星に隠したことによります。神としては、単なる暇つぶしの宝探しだ、と告げていたそうなのですが、当時の国々を収めていた長達は、そうとは受け取らなかった」


 なんだろう、妙に既視感が得られる発言だ。


「神からもたらされたものを独占したい。誰よりも早く手に入れるためには、どうしたらいいのか。結論は、歴史が表している通り、戦争です。競争相手がいなければ、独占できますからね」

「そんなに凄い秘宝だったの?」

「ただの石板みたいです。ここの研究者たちも、なんでそんなもののために、こんなことをするのだろうか。そう疑問に思っていたそうです」

「メンツ、だよねぇ」

「ですよねぇ」


 偉い人というのは、いつだってそういうものなのだろう。それが神からもたらされたものならば、さもありなん。


「付け加えるなら、七つの秘宝をすべて集めると最後の秘宝が現れるそうで、それによってコレクター心も刺激されたのかもしれません」

「その時、国は幾つあったの?」

「丁度八つ」

「分ければいいのに」

「どうせ、最後の一つを誰が持つかで揉めますよ」


 結局、神の目的とは裏腹に、戦争に進むしかなかったわけか。二人で同時にため息をついて、次の話題へ移すことにした。目を通したい資料はまだまだあるらしい。


「その魔法陣の花弁は、ティアマト、つまり樹神様(じゅがみさま)のもので間違いないようです」

「ティアマト?」

「研究者達がつけた名前みたいです。隕石によって飛来した種から産まれた存在で、すべてのモンスターを生み出したもの」


 ということは……、え? 思わず自身を指差し、カナネに視線を向ける。すると、彼女は顔を上げて頷いた。


「キア様もそのお一人です。ティアマトはモンスターを統制する司令役でもあるそうなので、昨今におけるモンスターの凶暴化は、その不在によるところが大きかったのでしょう。立王暦(りゅうおうれき)が始まった頃から、断続的に途絶えることを繰り返していたようで、この暦は凶暴化したモンスターの対策に右往左往していた歴史、と言ってもいいかもれませんね」

「そんな時に、ボクが現れた」

「はい。普通なら、これで状況は落ち着くでしょう」

「と言うと?」

「さっきのネズミにもあるように、この研究所はモンスターを強制的に凶暴化を引き起こす研究もしていたようです。モンスターを創り出す。凶暴化を引き起こす。どちらの研究にも、ティアマトの花弁が必要だった」


 話が大きくなってきた、と若干の頭痛を感じて額を手で押さえる。問題は、この研究が今も続いているのかどうかだ。


「この研究所は他にもあるの?」

「あるみたいですね。しかし、戦争が終わると同時に放棄したとも書かれています。地底人は、後処理をしていた人達なのかもしれませんね」

「それで話が終わってくれたら、嬉しいよね」

「ですです。ただ、植物の巨大化もここの所為で間違いないようですし、そうなると依頼の達成は難しくなります。ここまで大事だと国への報告も義務ですし、花弁を使用しなければ巨大化を発生させられないとなると、許可は下りないと思います」


 まぁ、ボクとしてもここで花弁を千切るのは抵抗がある。それを想像すると自然と冷や汗が出てくることから、相当な痛みが伴うものだと解るのだ。


「ですから……、そうですね、戦っているお二人を、ここへ連れてきてもらえませんか? ネズミはあの二つの魔法陣の上に、おそらく近くに置かれているだろう宝石を乗せることで鎮まります。おそらく、侵入して悪戯している間にずらしてしまったのでしょう」

「分かった。用は……、今後の話?」

「はい。流石に、大事になりすぎてしまいましたので」


 ボク達の旅に明確な理由がつく。そんな予感に背中を押された。

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