ツッコミ 23 〜負傷と反撃〜
始まりがあれば終わりがある。それは、形あるのもなら逃れられない真実というものだ。形はなくとも、行為というものにだって終わりは等しくある。好意というものにも終わりがあるかもしれないが、それは今回の話とはおそらく関係がないので、ここでは明確には終わりがある話をしていこうと思う。
つまり物事を始めた場合は、必ず終わりというものが用意されているのだ。物語で言えば、プロローグとエピローグ。プロローグから始まった物語には、必ずと言っていいほどエピローグが存在するだろう。逆に、エピローグが用意されているのに、プロローグが存在しない、というものには、まだボクは遭遇したことがなかった。
ここで、そのプロローグとエピローグをボクらに当てはめてみよう。プロローグと位置付けるのは、トロッコに乗ったことだ。それにより逃走劇という物語が始まり、無駄な抵抗をしてみたりもした。そして、必ずエピローグ――、つまりは終点がやってくる。
トロッコが停まる。衝撃はなく、けれども余韻もなく。スタートはまるで期待感を掻き立てるように、ゆっくりとしたもので、徐々にスピードが増していった。それに対し、ゴールは呆気ないものだった。
もちろん、トロッコにブレーキというものは付いていた。付いてはいたが、追跡者に意識を取られ、気が付いた時には進行を止める柵が目前に迫っていた。ブレーキは間に合いそうもない。気付いた人が、出来ることをするしかなかったのである。
「ふんぬーっ!」
蜘蛛の糸のように蔓を伸ばして周囲の壁に突き刺し、無理矢理に減速をさせる。ブチブチを千切れそうになる蔓を必死に耐えて、トロッコはなんとか、安全に停止することが出来た。そう……、トロッコは、だ。
追跡者は、安全には停まらない。そもそも、停まる必要もない。停まった場所は既に広い空間となっていて、遮るものは何もない。巨大なそれが、無防備な自身に迫る。
すべては一瞬の連なりであり、それに反応できるものはいなかった。
「いっ……たいなっ!」
寸前に体を捩ることには成功した。けれどその攻撃を躱すことまでは出来ず、左の二の腕に鋭い痛みが走る。
それを例えるなら、硬券の切符だろうか。いや、これは鉄道ファンにしか通じないかもしれない。例えるなら……、穴あけパンチか。プリントなどの紙に穴を開け、ファイルなどに綴じやすくするものだ。それを横にスライドさせて、強引に紙を引き千切った。それが今の左腕の状況だ。
腕を齧ってくれた追跡者、巨大なネズミは、瞬時に小さくなり身を潜めた。しかし、次の一手はこちらの方が速かったようだ。
「ネズミ如きがっ!」
猫が放った鋭いパンチが、巨大化したネズミの額を打ち据える。ありえないほどの衝撃波が伝播していたため、おそらく魔法を使ったのだろう。よろめいたネズミは、そのまま奥へと引き下がった。
「ナイスだ、ルート! 僕はこのまま奴を追う。キアは大丈夫?」
「葉っぱを貼っとけばなんとかなる」
流石、根を切ってくれただけあって、ボクが痛みにある程度の耐性を持っているのは把握してくれている。流石モンスター。こればっかりは神様に感謝だ。
蔓を使って袖を引きちぎると、ダウンのファスナーを下ろして、首元から服の中に手を突っ込んで胸の葉っぱを一枚もぎ取る。それを傷に張り付ければ、高性能な絆創膏の出来上がりだ。改めて、この葉っぱはかなりのチート性能と言っていいだろう。質感を変える、というのを簡単に捉えていたけれど、本能に従えばこんな使い方も見えてくる。攻撃にだって利用できそうだ。
不安そうにこちらを見つめるカナネに、安心を誘う微笑みを返しておく。
「俺も行く。あれ、仕留めるなら小さい時にやらなきゃ駄目だ。剣じゃ面倒だろ?」
「では、私は周辺を調べます。この場所が影響しているという仮説が正しければ、もしかしたら、大きくなるのを防げるかもしれません。冒険者の腕の見せ所ですね」
それが強がりだというのは、身体の僅かな震えからも見て取れる。
「ボクも行くよ。万が一の護衛だね」
「大丈夫なんです?」
「大丈夫。モンスターの感覚も、必要になるかもしれないしね」
頷きあって、それぞれがトロッコから降りて行動を開始する。テニスコート二面分ほどのスペースで、それぞれの戦いが始まった。




