ツッコミ 22 〜終点へ〜
自分なりに、追跡者がどういった存在なのかを考察してみた。大きさが変化しているのは、おそらく、実体と魔力体の境目が曖昧になっているためだろう。脈動するように変化しているのは、心拍数、興奮の度合いによるもの、と言ったところだろうか。ネズミの心拍は人間よりも速かったと思うけれど、生物的なものではなく、魔力の供給によるもの、だろうか。
「魔力体というのはなんです?」
「ボクなりに分かりやすく例えた言葉だね。伝わりやすい言葉で言うと、通常の生物かモンスターかの違い、かな」
カナネの質問に答えつつも、知っているモンスターが自身しかいないため、明確には答えづらいところがある。
「ルートも言っていたけれど、モンスターはその体のほとんどが魔力で構成されていると言ってもいいと思う。ボクが蔓を自在に伸ばしたり、根を這わせたりできるのも、魔力によってその部位を創り出して、また解かして消しているだけに過ぎないの」
「じゃあ、ルートが自覚しているということは」勇者の視線が猫に向けられる。
「俺はモンスターにさせられようとしていた、ってことだろうな。そして、あいつもそうかもしれない」
「もしくは、偶然入り込んでしまったネズミが、あちこちいじくりまわして何かを起動させてしまい、ああいった存在になってしまった。とも考えられるね」
「どっちみち、この奥にはその手の研究所的なものがあるんですね」
そう見て間違いないだろうね。その研究による副次的な効果で、その近辺の植物に影響を与えていた。そう考えると、ボクの意見の方が正しいかもしれない。
ネズミがあちこちいじくりまわした所為で、植物に対する影響がなくなってしまったんだ。
「そうなると、僕らを待っているのは袋のネズミだ。追いかけているのがネズミだって言うのに、笑えない」
「どうにかして注意を逸らしたいところだね」
「あ、それならお弁当を投げ付けてみたらどうでしょう。お腹が空いて襲ってきているのなら、もしかしたらそちらに目を向けてくれるかもしれません」
「ルートも食欲旺盛だし、通用するかもしれないね」
「魚の件は悪かったと思っているからさ、そろそろ許してくれよ」
まぁ、少なくともあのネズミは、トロッコのスピードを超す速さでは移動できないようだ。なので、少し息抜きを兼ねてチャレンジしてみるのも良いだろう。
山小屋の主人に貰った弁当を広げ、おにぎりを摘みながら餌になりそうなおかずをトロッコから落としていく。
「玉子焼き、落としまーす」
箸で摘まれた玉子焼きを、カナネがポロッと落とした。しかし、見向きもされない。
「卵は嫌いなのかもしれないですね」
「じゃあ、茹で卵も効果はないかもしれないね。なら、野菜で行ってみよう」
シュラナはミニトマトを落とした。僅かに弾んだそれを、ネズミは鼻先で跳ね飛ばし、無残にもベチャッと壁に叩きつけられる。
「ちっ。あれは、大っ嫌いだ。トマトが嫌いだなんて信じられない。トマトソースのスパゲッティは神なのに」
「ボロネーゼとかも好きそう」
「え、それはなに?」
えっと……、パスタは駄目で、スパゲッティはオッケーなのだろうか。
「唐揚げを喰らえー」
ルートが咥えた唐揚げを放り投げる。その時、巨大化していたネズミの目がキラリと光り、猛烈な勢いで駆け寄り、宙に浮かぶそれを丸呑みにした。
「え、これは正解なの? 外れなの?」
「近い近い! トマト、早くトマトを投げてくださいシュラナさん!」
「いや、トマトだと弾かれるだろ! 攻撃は……、あぁ、もう、大きくなったり小さくなったり! ここはもっとこう、距離を取りたくなるような物を投げないと……、ねぇ、キアは何を持っているの?」
「缶詰」
「なんのです?」恐る恐ると言ったように、カナネが問い掛ける。
「魚の」
「魚を、どうしたやつだ?」ルートが恐る恐る問い掛ける。
「発酵させたやつ」
「絶対に開けるなよ!?」
全員の声がシンクロし、それに驚いたのか、はたまた異変を察知したのか、ネズミの勢いは衰えた。




