ツッコミ 20 〜突入直前〜
目が覚めた。辺りはまだ暗かった。
しかし、体内時計に従うかのようにバッチリと目が覚めているということは、日の出はもうすぐだということだ。そのことは、短い森での生活で何度も体験していたことだった。
まだ寝ているカナネを起こさないように、そろりそろりと部屋を出る。ルートは花弁の隙間から、ジッとこちらを眺めていた。
山小屋の外はまだ薄暗かったが、東の空では、息を呑むような綺麗なグラデーションが描かれている。星々が隅へと追いやられていき、ボク達がスポットライトを浴びるのももうすぐだ。
先客の視線に、笑顔を見せる。
「早いね、シュラナ」
「キアもね。ルートも」
「緊張してんのかー。やーい、弱虫!」
「それは君じゃない? 緊張しているから人肌が恋しいんだろう」
「花弁は人肌じゃねーし! でも……、緊張はしている」
珍しく素直さを見せていて、ジッとグラデーションを見つめるその頭は、やっぱり猫にしか見えなかった。
「なんから、あの穴から懐かしい匂いがした。この山の見覚えは全く無いけど、なんとなく、匂いが懐かしい」
「ルートは、気が付いたら喋れるようになっていて、魔法も使えたんだっけ。それ以前の記憶は?」シュラナがその頭を撫でながら問い掛ける。
「ない。気が付いたら森を歩いていて、とにかく遠くへ行きたいと思って船に忍び込んでこの大陸に来た」
「すると、魔族の治める大陸、北西大陸から来たということか。あ……僕らが今いるのは南東大陸の北側って覚えておけばいいよ」
はてなマークが見えたのだろう。シュラナはそう解説してくれた。この調査が終わったら、改めてこの世界のことを学んでいこうと思う。
「それを加味すると、やっぱり嫌な予感がするな。塞いでいた穴に注意をしていたが、何かが出てくる気配はなかった」
「え、もしかして、ずっと見張っていたの?」
「当たり前だろう? 君たちはちょっと、危機感がなさすぎだ」
ここは素直に頭を下げておこう。謝罪とお礼だ。
「有毒そうなガスも漏れてきていないと思う。冷たい風が上がっていたから、空気の通り道はある。別の出口は確かにあるのかもね。でも、その風はかなり冷たかった。防寒具は装備したほうがよさそうだ」
「次から、最初にボク達に相談してね? ローテーションとか、組めるかもしれないから」
「ごめん、一人で旅をしていた癖がついていたみたい。次からそうするよ」
次から、という言葉を聞けて、ボクは素直にホッとした。この調査が終わっても、旅が続くことに安堵した。
「むー、何みんなでしっとり会話を楽しんでいるんですー」
しばらくして、カナネも山小屋から顔を出した。朝焼けに照らされた顔は眩しそうに歪んでいる。
「仲間に入れてください」
「シュラナがね、一人で穴の見張りをしていたんだって」
「えっ!? ひ、一晩中ですか? うわー、徹夜はお肌の天敵ですよ?」
「いや、僕は美容はそんなに……」
「勿体ないですよー。ね、キア様」
「だね、勿体ない。男になるにしろ、女になるにしろ、綺麗な肌で損をすることなんてないよ」
「うっわ、もしかしてそれ、前世の体験談かー」
ルートに茶化され、ボクは曖昧に笑っておいた。自慢じゃないが、ボディシャンプーで顔を洗う経験しかない自分に、それ以上の知識を披露することは不可能だったから。
その点、カナネはしっかりとケアをしてから布団に入っていた。女子力が眩しかった。だからボクは、こう暗示をかけたのだ。自分はモンスターなのだから、特に気にしなくても美貌を保てるのだと。
「モンスターに、そこら辺は関係ないと思うけどね。光合成をしていたら、きっと大丈夫」
「普通、日焼けすると思うけどね。植物だって」
何気ない勇者のツッコミが突き刺さる。朝焼けも同時に突き刺さる。
何度でも言い聞かそう。ボクは、モンスターだ。
「さぁて、準備して突入しようか。もしも地下の空間が村の下まで続いていたら、大変な道のりだもんね」
「暗いもんね」
「暗いですしね」
「日が当たらないもんなー」
山小屋の主人に、大量の弁当を頼んでおこう。




