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ツッコミ 2 〜お友達は勇者です〜

 じっと見つめ合う。陽の光を反射して、切っ先がキラリと瞬いた。


 お互いに動くことはない。とは言え、そもそも俺は動けないのだし。出来ることと言えば、花から漂う甘い匂いに惹かれでやって来た動物を、蔓で拘束して養分を吸い取るくらいだ。それしか出来ることはない。


 あぁ、もう一つ出来ることがあった。歌うことだ。口から出る声はとても綺麗で、どんなメロディーでも奏でられた。それに興味を持った動物も、俺は心を鬼にして餌にした。


 だって、食べる以外に娯楽がないから! 気分は飴玉を口の中で溶かしつつ、暇つぶししている感じだよ!


 そんな華麗なメロディーを聴きつけたのか、一人の若者が近寄ってきたのだ。その手には危なかっかしい刃物、というより立派な剣が握られており、先にも説明したように切っ先は俺に向けられている。


 じっと見つめ合う。お互いに動かない。


「ルル?」


 ビクッ! とした擬音が似合うほど、俺の声に反応してその肩が跳ねた。適当な言葉を発したのは、間違いではなかったようだ。


「聞こえてますね?」

「お前、喋れるのか?」


 口から出ていたのはメロディーだけだったので、そういう生き物かと思われていたらしい。


「お話しません? この世界のことを、知りたいのです」

「モンスターが喋るなんて、聞いたことがない。これは、どうすればいいのだろう」


 それから、見つめ合って動かなくなった。お互い、言葉を探しているのだろう。俺としても、怪しいやつだと思われて逃げられたり、攻撃をされたら後の祭り。せっかく遭遇した会話ができる人物なのだから、何の説明もなく転生させられた件について、少しぐらいのフォローを目論みたいのだ。


 目の前の人物は、男だろうか。女にも見える。長い髪を後ろでまとめていて、線が細いために男装していた、なんて言われたら納得してしまいそうだ。声も少し高いため、判断できる要素ではない。


 服装は、どう言えばいいのだろう。胸元を紐で止めたようなシャツに、弓道で使うような胸当てをしている銀色だ。腕には同じく銀色の小手。足元似たような防具で身を固めている。グレーのズボンは少しダボついている。


 ここは思い切って、棘をなくした蔓を伸ばして股間を触ってみようか。怒られるかな? あぁ……、それは攻撃だと思われて切り捨てられるのが落ちか。ここは様子を見よう。


「一つ、訊きたい」

「なんです?」

「君は、女か?」


 それはこちらが訊きたいことである。だってさ、見ず知らずの女の子、なんてものは、俺からしたら敬語の対象だ。畏れ多い。砕けた話し方で会話ができる女性なんて、母親が祖母くらいしか思いつかない。


 故に、大学生活において女性に与える俺の印象なんて、たいていの場合「丁寧な人だね」、で終わりである。


 今だって敬語を使うかどうかを悩みながら、恐る恐る会話をしているのだ。ほんの少しの思惑もある。寡黙で柔らかな存在という印象も与えたい。大学デビューを失敗に終えた俺的に言えば、異世界デビューだ。


「植物を見て、女だなんて思います?」

「だって、その、おっきいし」視線は顔よりも低い位置にあった。

「顔を見て?」

「や、美人だし……」もっと下に移った。


 この反応は、男が優勢か?


「貴方は、どちら?」

「……言えません」


 プイッと横を向く仕草は、女性のようで可愛らしい。


 一拍の沈黙。風の囁き。お互いの反応、お互いの質問を受けて、なんとなく、通じ合った。


「似てるね」

「うん。似てるね。僕は勇者をしている、シュラナです」

「見ての通り、モンスターです。名前は必要?」

「知りたいな」

「んー、……コキア。キアとでも呼んで」一番好きな植物の名だ。

「よろしくね、キア」


 どんな事情があるのかは、お互いに知らない。けれど、なんとなく、波長が合った二人だった。

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