ツッコミ 2 〜お友達は勇者です〜
じっと見つめ合う。陽の光を反射して、切っ先がキラリと瞬いた。
只今、緊迫のシーンに遭遇しております。実況は私、コロッケを奪われた挙げ句に転生させられた現植物に生えた謎の生物です。
お互いに動くことはなく、とは言え、そもそも俺は動けない。出来ることと言えば、花から漂う甘い匂いに惹かれでやって来た動物を、蔓で拘束して養分を吸い取るくらいだ。それしか出来ることはない。
最初はヤベー奴、と自分のことを他人事のように思っていたのだけど、そうしなくては生きていけないって思うと、人間なんでも出来るしなんでも食べられるもので。
けれど、感想はグロテスクになるかもしれないので控えておきます。なんとなく美味しさは感じられるようになった、というだけで。
あぁ、もう一つ出来ることがあったんだ。それは、歌うこと。口から出る声はとても綺麗で、どんなメロディーでも奏でられた。それに興味を持った動物も、俺は心を鬼にして餌にした。
だって、食べる以外に娯楽がないから! 生きるためだ、なんて格好をつけたところで、やっぱり動けないからこその鬱憤というものが、どんどんと心の中に溜まっていってしまうのだよ!
まぁ、そうして暇つぶしをしたとしても、気分は飴玉を口の中で溶かしているようなものか。もしくは釣り。スポーツの感覚は一切ないけど。
そんな暇つぶしの一環として発していた、可憐で華麗なるメロディーを聴きつけたのか、一人の若者が近寄ってきたのだ。その手には危なかっかしい刃物、というには立派過ぎる剣が握られており、先にも説明したように切っ先は俺に向けられている。
じっと見つめ合う。お互いに動かない。
にらめっこでもしてみようかなぁ、とも考えたが、折角の美人に転生したのに、第一印象が変顔というのもいかがなものか。そう考えると、もう少し別の案を採用したくなった。
それは――。
「ルル?」
ビクッ! とした擬音が似合うほど、俺の声に反応してその肩が跳ねた。適当な言葉を発したのは、間違いではなかったようだ。
どうだ、それ見たことか! 俺は外見だけでなく、声だって可愛らしいのだ! という自慢話に付き合ってくれる友達が、そろそろ欲しいのですけど。
「聞こえてますね?」
「お前、喋れるのか?」
口から出ていたのはメロディーだけだったので、そういう生き物かと思われていたらしい。ここは、生まれたてのプリティさを発揮するいい機会なのではないか。
「お話しません? この世界のことを、知りたいのです」
なるべく丁寧に、可愛らしくお願いしてみる。
「モンスターが喋るなんて、聞いたことがない。これは、どうすればいいのだろう」
まさかの喋るのが失敗だったパターン!?
それから、お互い見つめ合って動かなくなってしまった。お互いに言葉を探しているのだろう。
俺としても、怪しいやつだと思われて逃げられたり、攻撃をされたら後の祭りだ。せっかく遭遇した会話ができる人物なのだから、この可愛さについての称賛を……、という話ではなく、何の説明もなく転生させられた件について、少しぐらいのフォローを目論みたいのだ。
目の前の人物は、男だろうか。女にも見える。長い髪を後ろでまとめていて、線が細いために男装していた、なんて言われたら納得してしまいそうだ。声も少し高いため、判断できる要素ではない。
服装は、どう言えばいいのだろう。胸元を紐で止めたようなシャツに、弓道で使うような胸当てをしている。銀色だ。腕には同じく銀色の小手。足元似たような防具で身を固めている。グレーのズボンは少しダボついている。
ここは思い切って、棘をなくした蔓を伸ばして股間を触ってみようかな。怒られるかな? あぁ……、そんな行動、攻撃だと思われて切り捨てられるのが落ちか。ここは様子を見よう。
「一つ、訊きたい」
向こうから話しかけられて、ビクッと肩が跳ねた。
「な、なんです?」
「君は、女か?」
それはこちらが訊きたいことなんですよ。
だってさ、見ず知らずの女の子、なんてものは、俺からしたら敬語の対象だ。畏れ多い。砕けた話し方で会話ができる女性なんて、母親が祖母くらいしか思いつかない。
故に、大学生活において女性に与える俺の印象なんて、たいていの場合「丁寧な人だね」、で終わりである。
今だって敬語を使うかどうかを悩みながら、恐る恐る会話をしているのだ。可愛さアピールなんてものは、ただの方便ですすみません。ただ、ほんの少しの思惑として、寡黙で柔らかな存在という印象も与えたい。というものもある。
大学デビューを無残にも失敗に終えた俺的に言えば、異世界デビューの幕開けだ。
「植物を見て、女だなんて思います?」
「だって、その、おっきいし」
視線は顔よりも低い位置にあった。
「顔を見て?」
ちょっと調子に乗ってしまう。これはチャンスだ! と感じる、自分の中の閃きに従ったのだ。
「や、美人だし……」
もっと下に移った。
その反応を見て、目の前の人物は男なのだろうか、と言う考えが優勢となった。分かるわぁ、分かる。なんか見ちゃうんだよね。でも、見ているのが分かっているんだろうなぁ、と感じると、顔を見ることもできなくなる。分かるよ? 俺も通った道だ。
「貴方は、どちら?」
「……言えません」
プイッと横を向く仕草は、女性のようで可愛らしい。男と女の間で揺れるシーソーは、未だ決着は付かない。であるなら、礼儀を込めて敬語を使うべきなのだろうか。
でも、なんだろう。何となくだけど、もっとフランクに話せそうな気がしないでもない。その反応に、シンパシーを感じているからだろうか。
「なんか、似てるね」
「うん。僕もそう思った。なんか、似てるよね。……僕は勇者をしている、シュラナです」
「見ての通り、なんかモンスター的な存在です。名前は必要かな?」
「知りたいな」
「んー、……コキア、かな。キアとでも呼んで」
ぱっと思い浮かんだのは、一番好きな植物の名前だった。
「よろしくね、キア」
どんな事情があるのかは、お互いに知らない。けれど、なんとなく、波長が合った二人だった。
股間を触る気は、もう起きないかな。




